レポート作成にかかる工数に関する考察

レポート作成は学生にとって馬鹿にならない.特に,レポートの密度,内容,長さは,限りある学生の時間においてゼロとは言えない.レポートは論文ではないため,多少文章に関して手を抜いたり,適当に書いたりすることもある.レポートにおける最も大きな問題は,その工数である.レポート課題が増えれば増えるほど,その作成に時間を取られるようになる.学生の本分としては,学習が第一であり,レポートの作成はそれほど重要なことではない.学生に求めるのは成果であり,レポートの文章量ではない.

しかしながら,文科省の定めるところにより,レポートで評価せざるを得ないこともある.このとき,履修した授業全体のレポートが,学生が持っている工数をオーバーすると,当然単位が取れなくなる.工数は人月のようにあやふやな単位などではなく,学生個々人が持つ生産量で考えるべきである.

このレポートでは,レポートの工数が何であるか,どれぐらいが適切なのかを論ずることである.特に,工数の少ない学生を無制限に落単(単位を落とす)させるのは,大学としていかがなものかと考える.そこで,適切な最低限度のレポート工数を見積ることが大学全体の最適解として求められる.

工数とは,1人あたりにかかる製造コストである.数多くのSESは,従来型の連想法を使って工数を見積もっていた.連想法では,過去に手掛けた製造コストから,現在手掛ける製造コストを見積もる方法である.連想法では,新たな案件ほどトラブル等により納期が前後することがあるため情報処理推進機構では推奨していない.近年では,FP法(ファンクション・ポイント法)が使われている.FP法では,工数見積もりにおいて出力や入力,関数などを考慮して点数化し,難易度によって定量的な倍率を掛けることでFPを求める.このとき,あるエンジニアが1日に捌けるFPをもとに,チームメンバー全体が1日に捌けるFPを算出し,人月を算出する方法である.近年では,COCOMO II等とも比較されているが,比較的見積もり誤差が少ない.

このように,情報工学の観点において,情報成果物の制作は定量的に評価されている.しかし,レポートの作成について考慮するケースはあまりない.レポート課題については剽窃が問題にされており,剽窃が起こり得る背景について考察されていない.剽窃が起こり得る背景の一つとして,学生のレポート課題が学生の持つ工数をオーバーする場合が考えられる.このとき,学生は場当たり的にレポートの剽窃を行う動機として成立する.

学生の工数は本質的には学生が1時間あたりどれぐらい生産できるか,すなわち1時間に何文字ほどタイピングできるかで評価できる.しかしながら,実際の学生の時間は有限時間であり,授業や演習などによって確保できる時間は極めて流動的である.学費を稼ぐ必要のある学生はアルバイトをするし,サークルや部活などの時間も学生がレポート作成に割けない要因となり得る.従って,タイピング速度をいくら速めたところで,そもそも学生が真にレポートに取り掛かれる時間というものを評価すべきと考えられる.

そこで,アルバイトやサークル・部活等の学生にとってかけがえのない生活の一部においてレポート作成が何割に及ぶのか考える必要がある.当然,学習機会はそれらの流動的な要因によって阻害されるため,学生ごとに適切なレポート量というものが考えられて然るべきである.しかし,学生によってレポートの最適な分量を見積もるのは,たとえ定量的であっても不公平感が拭えない.学生の学習機会を平等に与える観点で見ると,学生の工数を設定して人によってレポート分量を変えるのは,他の学生に与えるモチベーションにも影響を与えかねない.

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