邪神島狩猟譚

 ポンポンポンとリズミカルに鳴り響く焼玉船のエンジン音が近づいて来る。陰鬱な空気漂う船着き場には、不釣り合いなほどに軽快な音だ。

 あれに客人が乗っているのかと、唾を飲み込み時蔵は船の到着を待った。掌にうっすらと汗をにじませるほどの緊張はいつ以来か。

 船が桟橋に付けられて、降りてきた人影を見た時に緊張は最高潮に達した。つばの広い帽子を目深にかぶり、漆黒のコートの襟は口元を覆う。腰に携えた刀は、獅子王。家康より土岐頼次に与えられ、その子頼勝が妖魅を討つ旅路の際に用いた妖殺しの刀。

 それは、時蔵の同族を殺めた刀である。そして、現在それを振るう者は……数多の妖を銃と刀で討ち取る狩人一ノ瀬晃人である。――不倶戴天の敵とおひい様仰せの男。だが、今は彼を頼る以外にはないのだ。

この島に蔓延り始めた魚人共を一掃するためには!

 改めて決意を新たにし、時蔵は歯を食いしばり依頼者の名代として敵の元へと向かった。

【続く】

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