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コロナウイルス連作短編その172「インフルエンサーたち」

 コロナ禍が始まってから、内村忍は自殺したインフルエンサーの記事を見つけるとノートにメモするようにしている。メモはこのようなものだ。

18歳のInstagramerであるクリスティーナ・バンクスは、カナダで農業を啓蒙するアクティビストとして有名、特にティーンエイジャーの少女たちからの人気は絶大だった。報道によれば、バンクスは2月に自殺を遂げたという。詳細は不明、死の理由に関する情報は明かされていない。家族が発表した声明にはバンクスを“希望をみなに届けた素晴らしい女性”と記されている。

4月、主にInstagramで人気を博していたインフルエンサーAkuNiiiiii(本名:ヨン・マルティンソン)が、故郷であるデンマークで死亡した。自殺だったという。遺書においては家族に“赦し”を求める一方で、自殺の3日前Instagramへと遺した最後のポストには、黒い画像ともに“時間切れ”という言葉のみが記載されていた。ある報道によれば彼は双極性障害の診断を受け、治療を行っていたという。当時、恋人女性と同棲していたが、マルティンソンの自殺後、彼女の消息は確認されていない。

“Life in One Destiny”というアカウント名で知られるInstagramerであるエドナ・マカロックの自殺は他のインフルエンサーやファンたちに衝撃を与えた。自殺の数日後にポストされた家族による声明には、彼女が自閉症スペクトラム障害や鬱病などの精神疾患に苦しんでいたことが明らかにされている。自身が遺した最後のポストにおいて、23歳であったマカロックはインフルエンサーとしての活動を一時中断するとの旨を記している。警察によれば、このポストを投稿した後に失踪、数日経って地下鉄へ飛びこみ自殺を遂げたという。

日本人インフルエンサーMaechanの死は悲惨で、インフルエンサーが被る精神疾患の問題について考えさせられるものだ。報道によれば25歳だったこの配信者は、配信のさなかフォロワーのコメントに刺激され大量の睡眠薬を摂取した。そしてこれが最後の配信だと告げたのだという。この後に病院へと救急搬送されたが、彼女はそこで亡くなった。彼女に近しい存在によれば、あれは衝動的なもので自殺の意図はなかったという。

ファンには愛称GiGiで知られるギャビー・ノースは8月に命を絶った時、わずか17歳の若さだった。TikTokerであった彼女は死の数ヶ月前から起業家としても活動していたが、その矢先の自殺だった。彼女の母親はTikTokにアップされていた動画を編集、その動画によって自身の娘の死を悼んでいる。

韓国人Youtuberパク・ライは早すぎる死でファンを驚かせた。報道によれば20歳のインフルエンサーはソウル市内の自宅アパートで死亡が確認されたという。現時点では自殺以外の情報は明かされていない。死の2日前にInstagramに最後のポストが残されているが、それは再生数100万回突破をファンに感謝する動画だった。自殺の前日、彼女は恋人とともにソウル市内のレストランへ赴き、恋人と別れて自宅へ帰った。ここで自殺を遂げたのだろうと推測されている。ファンたちは彼女のYoutube動画、そして現在は家族が管理しているInstagramアカウントのコメント欄に弔いの言葉を残している。

シーラ・アルジャノヴァはYoutubeの旅行動画で有名なインフルエンサーだったが、今週29歳の若さで亡くなった。死因は自殺だという。世界中のファンたちが彼女の死を悼んでいる。Twitterにおける最後のポストには、著名なミュージシャンが残した“Don't Trust Over Thirty”という言葉が記載されている。映画にも出演が予定されており、女優として活躍する矢先の出来事だった。

28歳であるInstagramerミア・チャンドラーは友人との旅行中、不慮の死を遂げた。“ヤシの木山”という愛称で知られるケイキンス山を登山中、崖から滑落し、そのまま亡くなった。報道によれば、彼女は鬱病の治療に取り組んでおり、最近は不安定な状態が続いていたという。Instagramでは精神疾患への理解を促す啓蒙動画を数多くアップロードしていた。チャンドラーに近しい存在によると死の数日前から希死念慮を吐露することが多くなっていたという。

ニュージーランドのTikTokerロレイン・キースは今週自殺を遂げた時点で、いまだ21歳の若さだった。報道によれば死因は自殺であるが、その理由などは明かされていない。漁師という仕事をTikTokで紹介する独自の活動は主に10代の少女たちから人気を博しており、4万人ものフォロワー数を誇るなどしていた。

6月、主にTikTokで人気を博していたミュージシャンであるケイヒル・エイカーマンがわずか23歳の若さで亡くなり、ソーシャルメディアは悲しみに包まれている。2020年に“タコス爆発!”というコメディソングで一躍時の人となったエイカーマンだが、報道によればコロナウイルス罹患後、後遺症によって活動がうまく行かないということを友人たちに吐露していたという。彼の父は声明で“息子のいない世界をどう生きていけばいいのか途方に繰れている”という言葉を記している。エイカーマンの自殺の理由は明かされていない。

 これらの記事は日本人インフルエンサーも含め、全て英語で書かれたものであるが、忍は全て日本語でメモを取っている。翻訳することで英語の勉強にもなるからだ。例えば昨日は“self-inflicted”という英単語を覚えた。“自らの手で成す”という意味の形容詞である。


私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。