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コロナウイルス連作短編その24「ビリー・アイリッシュ」

 須加武史はビリー・アイリッシュの動画を観ながら、オナニーを始める。その動画においてビリーは、黄昏色の光を浴びながら、徐々に自身の服を脱いでいく。彼女の呟く英語については全く意味が分からなかったが(彼は英語字幕なら読めるがリスニングはからきし駄目で、それがコンプレックスだった)、彼女の顔はとても官能的だった。そしてその黄金の肌が露になる時、武史の興奮は頂点に達した。ぺニスを擦る手が速くなっていく。そして最後に彼は射精した。ティッシュの上に淀む彼の精子は、腐ったネズミの死骸のような色をしていた。
 武史はビリー・アイリッシュが好きだった。だが彼女の曲は聞いたことがなかった。代わりに、彼はビリーのある写真を見ていた。それはボディーガードに囲まれている彼女を写しているのだが、そこで露になっている彼女の乳房はとても巨大なものだった。それを見て、武史は勃起した。そこからビリー・アイリッシュの肉体を想像しながら、オナニーするようになった。彼は三十七歳だったが、女性は未熟な存在が好みだった。彼女が十八才と知った時、身体が捻れるほどに興奮した。彼は執拗にビリー・アイリッシュを見ながらオナニーを続けた。武史はそれが愛の証であると信じていた。
 武史が自宅で映画を観ていると、玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると、そこには恋人である相渡萌香が立っていた。彼女は十七歳で、まだ高校生だった。萌香の姿を見て、須加は嬉しくなる。
「何だよ、いきなり」
 そう言いながら、ニヤつきを抑えられない。
「スガに会いに来たんだよ」
 そして萌香は武史の鼻を摘まんだ。
 彼らはTwitterを通じて出会った。武史は自身が観たマイナーな映画について呟いており、それが一部のシネフィルに人気だった。その一人が萌香だった。そのうち彼らはオフ会で実際に会うことになるのだが、そこで武史は萌香の映画への膨大な知識量に感服することになった。それでいて、彼女もまた武史の知識に魅了されていた。彼らは何度も一緒に映画を観にいき、そして最後には恋人同士になったんだった。
「コロナウイルスのおかげで、スガにいっぱい会えて嬉しいな」
「へえ、そんなこと思ってるのか。可愛いな、お前」
 武史は萌香にキスをする。萌香の頬は紫色に染まった。
「今日は何の映画を観るの?」
「そうだな。この前、コソボ共和国の映画のDVDを手に入れたんだよ。それを一緒に観よう」
「コソボ共和国ってどこ?」
「旧ユーゴ圏の一国で、ヨーロッパで最も若い国だよ。この国には未来がある。萌香みたいにね」
「何その変なセリフ」
 萌香は首筋を掻きながら、笑ったんだった。
 彼らは一緒にコーヒーを飲みながら、映画を観始める。冒頭、炎に包まれた馬が野原を疾走する場面を見て、萌香は凄まじく驚いている。その顔を見た時、武史のぺニスは勃起した。作品はチトー政権下において弾圧されていたアルバニア人の受難を、ドス黒い詩情で描きだす文芸映画だった。その圧倒的なまでに陰惨な光景に、萌香は何度も息を呑んでいた。それを横目で見るたびに、武史は誇らしい気分になると同時に、性欲を刺激される。
「この作品の監督イサ・テョシャはコソボ共和国で最も有名な映画監督の一人だよ。でもコソボの苦難の歴史に影響を受けて、今までにたった四本しか映画を監督してないんだ。それでもこの映画を観れば分かる通り、映画史において最も独創的な監督の一人であることは間違いないね。彼はコソボの首都プリシュティナで映画の教鞭を取っているけども、その生徒は未来のコソボ映画界を代表するだろう才能ばかりだよ。例えばぼくはブレルタ・ゼチリの『婚姻』という映画を観たけれど、ごく個人的な三角関係にコソボの歴史を重ねあわせる手腕には感嘆したね。コソボ映画界には絶対に注目すべきだよ」
 映画を観た後にそんなことを語ると、萌香はキラキラした瞳をしながら武史を見つめた。
「すごい、そんなことまで知ってんだね」
「まあ、とても興味深いテーマだったからね」
「私さ、正直シネフィルの浅はかさに飽き飽きしてるんだよね」
 萌香は言った。
「みんなさ、ゴダールのあの支離滅裂な『イメージの本』は傑作だとか、蓮實重彦の真似して『殺し屋ネルソン』観てない人間は映画観る資格がないとか同じことばっかり言ってる。ストローブ=ユイレとか演劇にも文学にもなりきれない中途半端な駄目監督だし、ラウル・ルイスなんか更に酷いゴミカスみたいな映画監督で、フィリップ・ガレルみたいな時代遅れの耄碌野郎を誉めてる批評家とか目も当てられないでしょ。シネフィルなんて馬鹿ばっかなんだよ」
 萌香の猛烈な罵詈雑言ぶりに、思わず武史は笑ってしまう。
「でもスガは違うよ。みんなと全然違う。コソボ共和国とかコロンビアとかセネガルとか、全然知らない国の映画をたくさん観てる。平凡なシネフィルとは見てる方向が違うんだよね。そういう一匹狼みたいなところ格好いいよ。私にも今まで見たことない世界を見せてくれるしね」
 萌香は挑発的な笑顔を浮かべながら、武史にキスをする。それに思わず高ぶってしまった武史は彼女とセックスを始める。服を全て脱がせて、全身にキスをする。そしてフェラチオの後に、武史は正常位で萌香に挿入する。喘ぎ声をあげる彼女の姿に武史の心臓が爆発しかける。彼女の未熟な身体が彼自身のぺニスによって破壊される光景はとても素晴らしいものだった。
「あーあ、お前のおっぱいがビリー・アイリッシュくらいデカかったらなあ」
 そう言いながら、武史は萌香の乳房を叩いた。
「うるさい、馬鹿。死ね」
 萌香は武史の頬にビンタを喰らわせる。その痛みさえも快楽だった。そして武史は萌香のなかで射精をする。彼女は生理痛軽減のためにピルを飲んでいるので、武史が中で射精することを許可していた。萌香が馬鹿でよかったと武史は感謝していた。
 その後、ソファーに寝転がりキスをしながら時間を過ごした。だが夕方には彼女は家に帰っていく。武史はもう一度、ビリー・アイリッシュの動画を観る。彼女の巨大な乳房が露になる時、自然と武史のぺニスは勃起したんだった。それは彼にとって愛の証だった。

私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。