コロナウイルス連作短編その10「呪えよ、お前の人生を」

 常川白戸がスマホを見ていると、こんなニュースを見つけた。大学生の多くがコロナウイルスのせいで大学の学費を払えなくなっているという。ある若い女性はバイトがコロナウイルスによって無くなったせいで学費が払えないと涙ながらに語っていた。彼女は琥珀のような茶色い瞳をしており、頬骨は桃のように柔らかかった。彼女については美女と言ってもいいだろうと白戸は思う。
 こういう哀れな美女が風俗に流れて、たくさんの汚いチンポを吸いまくる訳だ。そしてたくさんの精子にまみれる。いい時代だな。
 こう思いながら、白戸は唇を舐めたんだった。
 彼が遅くまで起きているのは、デリヘルの男娼を待っているからだった。だが待ち時間を過ぎても部屋にやってくることはない。白戸は苛つきながら、髪を掻きむしる。右手を見てみると、一本の細い白髪が手のひらについていた。彼はそれを床に落とす。だが苛つきは抑えられないので、白戸はビールを飲むことにした。ビールを体内に摂取していくごとに、逆に脳髄が沸騰するような怒りを感じはじめた。男娼に馬鹿にされているような気分だった。
 一時間後、とうとう男娼である若者が部屋にやってきた。その頃には、白戸の顔は腐った蛾の死骸のように赤くなっていた。
「おい、ちょっとお前正座しろよ」
 白戸は若者にそう命令した。気弱そうな若者は少しの震えを伴いながら、正座をした。彼は鮫に補食される鯵のような惨めさを露にしていた。白戸はズボンを脱いで、ぺニスを露出させた。
「チンポ舐めろよ」
 若者は恐る恐る萎びた白戸のぺニスを舐めはじめた。だがぺニスが口に入った瞬間、白戸は激しく腰を振りだす。蜥蜴の身体が爆発するようなグロテスクな音が響きわたる。若者の唇の端から粘った涎が出てくるが、白戸は気にせずに腰を振りつづけた。ぺニスはどんどん固くなっていって、ダイヤモンドのようになっていった。そして腰を振りながら、ある思いが浮かんだ。この若者に見覚えがあると。何故だろうと考えてみると、娘のFacebookに掲載されていた写真に彼に似た大学生が写っていたような気がした。だが定かではなかった。
 そして白戸は彼の口のなかで射精した。首を掴んで、強制的に精子を飲ませた。すると若者は身体を震わせながら、泣きはじめた。
「精子飲むのは追加料金六千円だっけか。じゃあ持ってけよ、おい」
 そう言いながら、白戸は札束を若者の身体目がけてバラ撒く。若者は咳をした後、床に精子を吐きだした。
「お前もコロナウイルスで学費払えなくなった哀れな馬鹿か?」
 白戸は彼にそう尋ねる。
「人生っていうのは本当に残酷だよな。コロナ禍でも余裕で金をありあまるほど持ってる俺、コロナウイルスのせいで風俗で稼がないといけないお前。この不平等ってやつは何て強烈なんだろうな。お前、生まれてきたことを後悔してないか? 本当、両親を憎むしかないよな。何で俺を生んだんだって。でも俺は両親を愛しているよ。去年はアルゼンチンとチリへの旅行をプレゼントしてあげたんだ。両親はラテンアメリカの文化が好きだからね。今年は旅行はプレゼントできないが、代わりに美味しいものをたくさん贈るよ。福岡の明太子とか、岩手の和牛とか、石川のカニとかそういう奴をさ。俺がプレゼントをあげるとさ、母さんはいつも手紙を書いてくれるんだ。スマホのメールじゃないぞ。手紙だ。母さんの字はあまりに達筆すぎて読みにくいけど、それを読む時はマジで感動するよ。時々、涙が出てくるんだ」
 白戸は瞳にこみあげてくる涙を拭った。
「呪えよ、貧困を。呪えよ、両親を。呪えよ、友人たちを。呪えよ、間抜けさを。呪えよ、弱い意志を。呪えよ、悪運を。呪えよ、狭い部屋を。呪えよ、ぬるい布団を。呪えよ、薄い服を。呪えよ、這いまわるゴキブリを。呪えよ、無能な大学を。呪えよ、壊れたパソコンを。呪えよ、痛々しい東京を。呪えよ、便器のクソを。呪えよ、コロナウイルスを。呪えよ、誕生を。呪えよ、お前の人生を」

私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。