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コロナウイルス連作短編その185「モザンビーク、グラファイト」

ショッピングモールで
フラフラしてる、時々
夏休み
私たちだけじゃなくて
建物も浮き足立ってるって
そんな感じ
今、コロナだけどね

ものも喋ってるんだって思う
人間が簡単に理解できない言葉で
たぶん
ショッピングモールがワクワクしてる
それは私の耳に聞こえない
私の目には見えない
でも何か
私の皮膚が感じてる

ここには母さんとよく来る
牛乳が安い
いい靴とか服も売ってる
本屋にも行ったり
友達とだってね
フードコートのたこ焼きが
すっごい美味しい

でも一人でも来る時があるんだ
ただフラフラするのが好き
色んな人がフラフラしてるの
見るのが好き
ショッピングモールの空気を
吸って
吐いてってするのが
好き

でも色々と店がつぶれてる
2階の服屋がめっちゃつぶれた
ダイエット器具売ってるところも
そのうえにある本屋も

お店には
お店だった場所には
でっかい発泡スチロールみたいなやつで塞がれて
悲しい
でも中では
大工の人たちが
改築の工事してる

秋に
モールは
リニューアル開店!

それでフラフラ
フラフラしてる
フラフラしてたら、あっ
髪型とメガネでわかった
あの子、土肥まこの
同じクラスの子、何かいつも本ばっか読んでる子
だから実は全然知らん
見なかったことにしようかな
何話していいかも分かんないしね

そしたら土肥さんがこっち見た、目があった
土肥さんがこっち来た、えっ
何で!?
向こうは私のこと知ってんの!?

「こんにちは、堂崎さん!」
めっちゃ元気で
めっちゃ近い
こんな人だったのかあって
一瞬でイメージ変わっちゃった
メガネの奥の
目もめっちゃ大きいんだね

「1つ聞きたいことあるんだけど」
土肥さんが言った
「いやだったら答えなくていいよ」
また言った、何て言われるか
ちょっと察する
「堂崎さんのお父さん……」
ほらね
「モザンビークの人なんだっけ?」
やっぱりね

私こと
堂崎ミウ
日本人とアフリカ人の
ハーフというやつ
肌は黒くて、髪は何か縮れてるという
お決まりのやつ
これで何か言われるのは
often
つまり
“しばしば”

うざったく思ってみんなにうるさいっても
言いたいよ
でも何か、それって父さんのことがきらいみたいに
響きそうって思う
事故で死んじゃってるから、どう思うかなんて
もう一生分かんないけど
でもだから、何か言われても
“やりすごす”
というやつを
やってる

「まあ、そうだよ」
今もこんな感じの反応をする
さて、土肥さんは
何ていう返事をするのでしょうかねえ?

「今ね」
ふむ
「あそこの広場で鉱石展やってるんだけど」
ふむむ
「そこにモザンビークの石があるらしいよ」
……えっ
「いっしょに見に行かない?」
えっ、えっ

モザンビーク
父さんの国
でも正直、全然知らん
アフリカの南部にあるらしい
そんなに大きくないらしい
首都はマプトっていうらしい
他は全然知らないんだ

前、家庭教師の人と調べたり
母さんとモザンビークの
料理作ったこともある
もちろん興味はあるんだよ
でも日本語じゃ情報が見つかんないんだよ

公用語はポルトガル語らしい
ブラジルと同じだって
実はちょっと勉強してみてる
でも英語よりずっとムズい!
何で言葉が男と女に分かれてるの?!
何で“私が食べる”と“父さんが食べる”で
“食べる”って言葉の形が変わるの?!
英語より
何で?!
何で?!
ずっと多い

だからモザンビークのこと

まだまだ

全然

分かんない

「モザンビークの石って何?」
私は土肥さんに聞いた
「わたしも分かんない」
土肥さんが言った
「だから見に行くんじゃん!」
……確かに
「ほら、行こうよ!」

広場へは
徒歩20秒
食品売り場抜けてすぐ
けっこうオープンって感じ
それから広いよ、だから
絵本フェスタとか
習字の展示会とか
福引き大会とか
みんな集まって色々やってる
今、コロナだけどね

で、今度は
鉱石の展示会だって
近くの科学館といっしょにやってるって
でも
宝石いっぱい
キラキラしてる
って感じじゃないよ
机のうえに布がしいてあって
そのうえに鉱石とかが置いてある
けっこう
こじんまりした展示会

「すごっ!」
土肥さんがそう言った
私はそうは思わん
でも土肥さんは興奮して
めっちゃ鉱石見てる
鉱石より彼女の目の方が
キラキラしてる

「これ、木の年輪みたい!」
「めちゃ青いね、ブルーハワイだ」
「スマホバグった時、こんな風にガビガビするよ」
「奈良時代に一番エラかった色って紫だっけ?」
「なめたい、しょっぱそう」

土肥さん
コロナもかまわず
ずっと喋ってた
そんなん聞いてたら
私も
なんか
楽しくなってくるよ!

「あっこれ、説明に“モザンビーク”ってある!」
土肥さんが指さした紙
確かに“モザンビーク”って
他読むまえに、紙のうえの石
見ちゃう

何か

めっちゃ

ただの

黒いかたまりじゃん

グラファイトっていうやつ
焼肉屋で肉焼く炭っぽい
テカってるし
ちょっとキモい
これ、ビミョー

「これ、炭素でできてるって」
と、土肥さん
「ダイヤモンドと同じだ!」
えっ
これとダイヤモンド、同じやつでできてる?
じゃあ何でダイヤモンドはあんなに
きれいなのに
このグラファイト
どこにでも落ちてそうな感じ
なの?

「すいません!」
いきなり、土肥さん
何言ってんのって思ったら
係員のお姉さんを呼んでた
科学館の人かな
ポニーテール
目を細めながら、こっちに来た

「これ、モザンビークの石なんですよね?」
何回もモザンビーク、モザンビーク
言わないでよ!
「はい、そうですよ。この石はモザンビークから来た石です」
お姉さんまで、モザンビーク
「モザンビークに反応するなんて珍しい。
 旅行で行ったことあるの?」
あー、答えたくないよ
こんなの
「ううん、この子のお父さんがモザンビークの人なんです!」

うわ

土肥さんが

答えちゃった

何か、恥ずかしいよ

もうやだ

「へえ、すごいですね!」

すごい?
すごい、だって
私にはよく
分かんないけど

「モザンビークってこういうのいっぱい取れるんですか?」
土肥さんが聞いた
「はい、そうですよ」
お姉さんがまた目を細める
「もしよかったら、それについてお話しますよ……」

モザンビークは鉱物資源がたくさんの国です
それがモザンビークの産業を支えています
石炭に、鉄鉱石に、マンガンに
航空機や包丁に使われるチタンに
オーディオ機器や宇宙望遠鏡に使うベリリウムに
それからこの
グラファイト

2人は中学生? 高校生?
学校で勉強する時
シャーペンを使って
ノートを書いたり、テストを解いたりしますよね
そのシャーペンの芯
あれはグラファイトでできてるんですよ!

えー!
じゃあ私たち
めっちゃグラファイトに
お世話になってるじゃん!

他にも
2人は
リチウムイオン電池って知ってますか?
スマートフォンのバッテリーに
使われている電池です
これにも、グラファイトが使われてるんです

でも日本にはグラファイトがありません
全て外国から輸入しています
その輸出してくれる国の1つが
モザンビークなんです
日本はモザンビークにお世話になってるんですね
逆に日本はモザンビークで開発の援助を行っています

こうやって
日本とモザンビークは
持ちつ持たれつ
助け合っているんです

私は
土肥さんと
お姉さんといっしょに
グラファイトを見つめる

ただ黒いだけで、つまんないなって
思ったけど
よぉく観察してみれば
その黒にもグラデーションがあってさ
芸術的
テカってるなんて言ったけど
これだって輝きだよね
黒の輝き
可愛いとかキレイとかじゃないけど
でも
カッコいいじゃん

「これ、ゴジラの頭っぽいよね」
土肥さんがそう言った
確かに!
私が笑ったら、土肥さんも笑った
お姉さんも笑った
それでみんなで笑ったんだった

展示会見たあと
3階の文房具売り場に行った
そこで見つけたんだ
パイロットって文房具の会社
ここが出してるシャーペンの芯
名前が
neox GRAPHITE
ネオックス・グラファイトだって!

今まで全然気づかなかったけど
こんなにお世話になってたんだ

裏にはこう書いてある
“高純度グラファイト
なめらか×強い
独自の手法で高純度化し
極めて
ピュアな
グラファイト(黒鉛)を
使用しています。”

「独自の手法って何だろう」
私が言う
「あれだよ、キギョーヒミツってやつ?」
土肥さんが言う


いつもは
0.5HB使ってる
でも色々あるんだね
赤い2B
オレンジの3B
黄色い4B
明るいパッケージが並んでる
「Bが上がると黒が濃くなるんだっけ?」
「だと思うけど」
土肥さんも意外と自信なさげ
「ねえ、これ全部買って試してみようよ」
土肥さんにそう提案する
「ノートに色々書いてみよう」
「うん!」


マジで
グラファイトのこと全然知らなかったな
モザンビークのことも
そうだけど
ああ、もっと
色んなことが
知りたいなあ

たぶん
夏休みって
そういうことのために
あるんだよね

私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。