コロナウイルス連作短編その15「布マスク2枚」

 仕事からの帰り道、鹿沢淳吾は公園に差しかかる。そしてそこに何者かがいるのに気づいた。今は夜九時であり、公園に人がいるのは奇妙だ。目を凝らしてよく見てみると、その人影は女性のようだった。彼女は赤い服を着ていた。だがまるでプランクトンを補食するクラゲのような透明感に、淳吾は驚かされた。彼女はしばらく公園の隅で、ただただ佇んでいた。だが突然、彼女はズボンを脱ぎ、筋肉質なお尻を露にした。淳吾はひどく驚きながらも、お尻が官能的ではないことに落胆した。そのお尻はまるで枯れた林檎のように角張っており、脂肪がほとんど存在していない。それに顔を埋めても何も面白くないだろうと淳吾は思った。
 すると、女性はおもむろに小便を始めた。淳吾は雷に頭蓋骨を破壊されるような衝撃を受けた。立ち小便をする男性はもちろん見たことがあるが、立ち小便をする女性など見たことがなかった。しかし確かに彼女の足の間から、地に落ちていく水流が見える。そしてその水流が草を押しつぶす音が響きわたっている。淳吾は思わず息を呑む。自分はとんでもない情景を目のあたりにしているのはないか、とそう思えたからだ。女性の小便はすこぶる長いものだった。淳吾はまるで引きのばされた永遠のなかに放りこまれたかのような気分になる。そして女性は小便を終えた。ズボンを履いて、雄大な足取りで公園を去っていった。マスクをしていたので、顔は確認できなかった。しばらく淳吾は動くことができなかった。曖昧な亡霊のような女性が尿をブチ撒けていった、そんな光景を信じることができなかった。
 彼は昔、故郷の田舎町で友人たちとともに立ち小便をしたことを思いだす。彼らは川の前に並んで立ちながら、ぺニスを露出し、そのまま水の流れに向かって尿を放出したんだった。その時、淳吾を含めみんなが笑っていた。この尿こそが友情の証だった。だがその事実が、あの女性の存在によって捻じまげられていくような気がした。郷愁深い黄昏の色に染まる思い出が、奇妙なる炎によって少しずつ焼かれていく。淳吾は闇のなかで途方もない恐怖を感じていた。だが同時に異様なる胸の高まりをも、彼は感じていたんだった。彼は胸を握りしめながら、公園を立ちさる。だが心臓は焼けつくような興奮によってどんどん膨らんでいく。

 家に二枚のマスクが送られてきた。それは政府が全国民に送ると約束した布マスクだった。彼は妻である鹿沢晴と一緒にそのマスクについて確認しようとする。見た目は何の変哲もない普通のマスクである。だがビニール袋を開けてみると、袋のなかから何か落ちてきた。晴がしゃがんでそれを眺める。
「何これえ」
 彼女がそう言うので、淳吾もしゃがんでみた。この小さな黒い塊は明らかに何らかの虫の死骸であった。夏の日差しに焼き殺された蟻の死骸とでもいった風だ。しかし虫の種類が分かるわけもなく、ただただ吐き気がこみあげてくる。だが彼は安倍首相の顔を頭に思いうかべた。コロナウイルス禍という未曾有の大災害に必死に立ちむかう日本のリーダー、彼が行うことを無礙に否定できるはずがなかった。彼は揺るぎない決意を以て、袋から布マスクを取りだしてみる。近くでよく見てみると、その白い布地には汚れが目立った。糞便の色をしたアメーバが布のうえで蠢いているようだった。
「このマスク、ちょっと薄汚くない?」
 晴がマスクについて批難するので、彼女の頬にビンタを浴びせかけた。
「何言ってるんだ、そんな汚れなんてないだろ。天使の肌みたいな綺麗なマスクだ。お前の瞳は節穴か、馬鹿野郎が。今コロナウイルスを抑えようと頑張ってる政府や安倍首相のことを考えろ。その言葉は彼らの頑張りに唾を吐きかけるようなものだと思わないか。お前が家でぐうたら怠けている一方で、彼らは必死に頑張ってるんだよ。それなのに、お前よくそんな冗談を言えるな。恥ずかしいと思わないのか、おい?」
 そしてもう一度、晴の頬にビンタを浴びせかけた。淳吾は厳粛なる気持ちで、布マスクを着けようとする。その動きにはまるで国家的な儀式に赴く天皇のような粛々たる雰囲気が宿っていた。淳吾は安倍首相や麻生外務大臣ら、この危機的状況に対処する人々の顔を思いうかべながら、マスクを着けた。布の感触はとても心地がよく、静かに心が安らいでいくのを感じた。このマスクは日本に平和をもたらす導であると淳吾は信じた。その後、淳吾はお腹が痛くなったので、トイレで糞便をブチ撒けた。とても清々しい気分だった。

 翌日、淳吾は気高い誇りとともに、マスクを着けて会社に赴く。歩いている最中に感じるのは、マスクを着けていると、自分の口臭が布地にまとわりついて、その臭いが鼻にまで届くということだ。彼はそれを臭いとは思わなかった。むしろ焼きたての芳醇なパンの匂いに思えた。
 俺の口臭って、何ていいものなんだ!
 彼はマスクを着けながら歩くうち、自尊心が満たされていくのを確かに感じたんだった。だが会社に着いて、オフィスで仕事をしていると、ある同僚がこんなことを言ってきた。
「マスク汚れてますよ」
 淳吾は愕然としながら、彼の言葉を聞いていた。
「そんなマスクは捨てて、新しいマスク着けた方がいいですよ。もしかして買い占めとかのせいで、マスク持ってなかったりしますか。それなら余ってる分を鹿沢さんにあげますよ」
 淳吾は怒りに震えながら、唇を噛んだ。
「いや、そんなものは要らないよ。私はこの布マスクにとても満足しているんだ。それに汚れなんてそんなもの見当たらないよ。私にとっては天使の肌のように綺麗なマスクに見えるよ。君の好意は有り難いけれども、新しいマスクは要らない。私はこのマスクを使い続けるんだからね」
 可能な限り冷静に言葉を紡いだつもりだったけれども、同僚は足早に彼のもとから去ってしまった。内心、彼は惨めに死ぬべきだと淳吾は思った。
 昼休み、彼は独りでおにぎりを食べるのだが、他の同僚たちの会話が聞こえてきた。彼らは公然と安倍政権のコロナウイルスに対する愚策を非難し、現状への不満を吐き散らかしていた。淳吾は若い同僚たちの身勝手さに飽きれはてる。少しでも政府の勇敢さとそれに付随する疲弊を慮ることができたのなら、彼らは人間的に成長できるだろう。だがおそらくこれからも彼らは政府や現状に関する愚痴を言うのみで、愚かなままで居つづけるのだ。淳吾はそう思った。何故最近の若者たちは現状への愚痴に終始するのか。彼らは政府のいいところを誉めるのではなく粗捜しばかりをして卑劣なまでに攻撃を続ける。時には暴力的なデモ隊まで組織し、政府を追いつめようとする。そんなことをして一体何になるのか。政府や安倍首相を尊敬し、手を取りあってこそ、この未曾有の事態を乗りこえることができるのではないか。淳吾は若者たちの愚かさを嘆いた。

 夜、淳吾は再びあの公園にやってきた。あの赤い服の女性がまたやってはこないかと、張りこみを始める。春の生暖かい陽気が彼のぺニスを勃起させる。淳吾は赤子の頬を撫でるように、ズボンの上からぺニスを撫でる。そうすれば赤い服の女性がまたやってくると思えたからだ。しかしドス黒い闇のなかで待ちつづけながらも、彼女は公園にやってくることがない。あの亡霊は成仏してしまったのだろうか。淳吾は背中を掻きながら、溜め息をつく。その頃にはぺニスも黒曜石のような硬さを失ってしまっていた。名残惜しくも、淳吾は公園を立ちさる。何度も振りかえったのだが、結局女性が現れることはなかった。
 そして帰ってきてから、ニュースを見ながら晩御飯を食べる。今日の夕食はプルコギと春雨のサラダだった。テレビには共産党の女性議員が安倍首相を批難する光景が映っており、晴はそれを静かに見ている。唾を飛ばしながら執拗に首相を攻撃する様に、淳吾は真っ赤な怒りを覚えた。プルコギからも豊潤な味が感じられなくなるほどだった。この光景を何の感情も覚えずに見ることのできる晴が、淳吾には信じられなかった。彼は今すぐにテレビの液晶画面に飛びこんで、女性議員の胸ぐらを掴みながら、罵詈雑言を吐きかけてやりたいと思った。
 晴が寝た後に、彼はあるDVDを取りだす。そこには緑色のビキニをつけた女性が写っていたが、それは先の女性議員だった。彼女は元グラビアアイドルだったのだ。淳吾はDVDを再生し、緑色の水着と揺れる巨乳を見ながら、マスターベーションを行った。彼女の下品極まりない姿を見ていると、自然にぺニスが膨らんでいった。
 この淫乱馬鹿女め。お前に国会議員になる資格はない。せいぜい男どものオカズになってろ、淫売女が。死ね、死ね!
 そして彼はスーツ姿の女性の顔に精子をブチ撒けている光景を思いうかべながら、ティッシュの上に射精した。精液の色は薄めた麦茶のようだった。彼は心臓に痛みを感じながらも、ティッシュをゴミ箱に捨てる。とても晴れやかな気分だった。

 淳吾は夢を見た。彼は夜の星空を眺めていた。虹色に輝く星たちが黒い闇を華麗に彩っている。昔、好きだった少女と一緒にこうやって星を眺めたことを思いだした。しかし彼女は淳吾のものになることはなく、彼の親友のものになった。結婚の後に彼女がお腹の膨らんだ姿で現れた時、淳吾は衝撃を受けた。彼女の身体は他人の精液によって完膚なきまでに汚されてしまったのだと淳吾は思った。その後、彼はトイレに籠って静かに涙を流したのだった。純粋なるものがまたこの世から消えてしまった。それを彼は許すことができなかった。
 と、目のまえに何か黒い物体が現れた。目を凝らしてよく見てみると、それは紛れもなく女性器であった。闇と同じように真っ黒い毛がフサフサであり、とても健康的なものに見えた。それはクールベの『世界の起源』を彷彿とさせる女性器だった。淳吾がそれに惚れ惚れしていると、突然女性器から尿が放たれた。その水流は淳吾の顔を覆いつくし、彼は尿に溺れてしまう。しかし苦しみを味わいながらも、同時に恍惚すらも感じていた。そして苦しみが極まり、死を感じた時、淳吾は目が覚めた。起きあがりながら、恍惚の残滓を感じていると、股間に違和感を抱いた。ぺニスが粘りと湿りに満ちた何かに覆われているような感覚だ。ズボンを脱いでみると、淳吾は自分が夢精をしていることに気づいたのだった。まるで性的な活力に満ちあふれた思春期の青年に戻ったような気分を味わう。淳吾は輝かしい誇りを以て、トランクスを洗濯機に投げいれた。

 仕事から帰る電車のなか、とある若者たちがお喋りをしているのが聞こえてくる。彼はこのご時世に、石のしたで冬眠する天道虫のように密集し、コロナウイルスなどどうでもいいといった風を装っていた。彼らは外国語を喋っており、それは電車の轟音のなかですら耳障りなものだった。淳吾はその言葉が中国語であり、若者たちは中国人であると決めつけ、そして途方もない憎悪を漲らせる。
 このクソ支那野郎どもが。どうせお前らみたいなクソどもが秘密工作をして、マスクを汚したり、袋のなかに虫の死骸を入れてるんだろう。俺には分かってるんだぞ。共産党の売国奴たちがお前らに金を払い、日本に対する破壊工作を行っているんだ。だがお前らの目論みはいつか確実に白日のもとに晒されて、神からの天誅を受けるだろう。お前らは絶対的な悪だ。コロナウイルスによって絶滅するべきなんだ。いや、確実にお前らはコロナウイルスによって絶滅するんだ。その時を震えながら待っていろ。
 淳吾はそんなことを考えながら、ズボンのうえからぺニスを掻いた。怒りによって、自分の身体が爆発するのではないかという予期にすら襲われた。
 そして彼は再び公園へと戻ってきた。やはりそこには誰もいなかった。それでもあの赤い服の女がやってくるのを待って、公園で張りこみを続けた。彼は何度も何度も頭のなかで、女性が立ち小便をする光景を再生した。そうするごとに脳髄が震えるような快感を抱いた。もう一度だけでいいから、あの風景をこの目で確かめたい。そんな切実な思いが、淳吾を公園に留まらせていた。
「お前、何やってんだ!」
 いきなり耳障りな叫びが響いたので、そちらを振りむいてみると、そこには真っ赤な顔をした中年男性が立っていた。彼は明らかに泥酔していたのだが、手には何故だかビール瓶を持っていた。そして意味不明な言葉を喚きながら、その瓶を振りまわす。思わぬ狂人の登場に、淳吾は恐怖を抱いた。急いで逃げようとするが、躓いてしまう。
「コロナウイルスなんて敵じゃねえ。俺がブッ殺してやる!」
 身体を震わせながらも淳吾は立ちあがり、全速力でその場から逃げた。心臓は爆発的なまでに膨張を遂げるのだが、それを気にする暇もなかった。しばらく走りつづけて家に何とか辿りついた時には、淳吾は神に感謝をした。家に入ると、歯磨きをしている晴が目にはいった。そこで途方もない安心感を覚えて、彼女を抱きしめる。その身体の肉感的な触感を感じるうち、安心感は欲情へと姿を変えた。淳吾は晴にキスをするのだが、彼女は嫌がりながらその場から逃げさった。最後には玄関に独り取りのこされてしまった。
 晴が眠った後、彼は自分が着けていた布マスクを見つめた。よく見てみると、そこには彼女が言ったような汚れが見えてくるような気がした。そしてその汚れは何かの細長い影を作っている。電撃のような衝撃とともに、本能で彼はこの影があの赤い服の女性のものだと思った。公園で彼女に会えずとも、このマスクの上に彼女はいるのだ。驚きながらも、淳吾は再び布マスクを着けてみる。鼻が布地に触れた時、彼自身の体臭が鼻にまで届いた。前、それは芳醇なパンの薫りであると思えた。だが今はもっと肉々しい匂いのような気がした。そして淳吾はそれがあの女性の性器の臭いであると思った。まるで顔が女性器によって覆われているような気分だった。実際に顔面騎乗というものをされたことはない。しかし今、幻影の女性器によって淳吾は犯されていた。そして淳吾はマスターベーションを始める。

 散歩をしていると、古くからの友人である尾堂勇治と会った。彼はマスクをしていたが、それは明らかに政府から配給された布マスクではなかった。最初はコロナウイルスで変貌する日常について話した。勇治はリモートワークを始めた後から、作業能率が下がったのだという。家には彼の集中を掻きみだすものが多すぎて、モチベーションが持続しないのだ。一方で、淳吾は未だに出勤を続けていた。朝の満員電車の状況もほとんど変わっていない。彼の日常は不気味なまでに変わっていなかった。
「なあお前、布マスク着けてないな」
 淳吾は勇治にそう尋ねてみた。すると彼の表情は曇った。
「あれは駄目だろ」
 その言葉は頬骨への殴打のように思えた。
「何で最初からあんなに汚いんだよ。何か変な黒いもんが付いてたぞ。それから着けてはみたけれど、触感は最悪だよ。呼吸がうまくできなくなるんだ。透明な膜を貼りつけられてるような気分だよ。しかも洗濯したら縮んじまって、使えなくなったよ。酷いもんだ。俺、そもそも布マスクはコロナウイルスの予防には使えないって聞いたぞ。政府は何でそんなものを国民に送ろうって思ったんだ? 意味わからねえよ」
 淳吾は勇治の顔を静かに見つめた。彼の言葉は揺るぎないもののように思えて、悲しくなった。
「何言ってるんだよ、どうしたんだ。あの布マスクは安倍首相や麻生大臣が頑張って手配したものなんだぞ」
「もう自民党は駄目だよ。あまりにも動きが遅すぎるね。俺の友達が経営する店がどんどん潰れていってる。それなのに政府は何の補償もしてくれない。これじゃこの町の店が全部潰れちまう。政府は俺たち庶民のことなんて少しも考えてないんだよ」
 そして次の勇治の言葉に淳吾は驚かされる。
「共産党の方がマシだよ。彼らのほうが真剣に俺たちのことを考えてくれてる」
「おい、おい、あの暴力集団のほうがマシだと? お前、頭おかしくなっちまったのか。アイツらこそが俺たちの生活を壊した張本人だろ。馬鹿な若者たちを扇動して無駄なデモなんか起こして、生活を掻きみだしやがる。アイツらは中国共産党のゴキブリどもと繋がって、日本を完全に破壊しようとしてるんだよ、そうだろ。そんな暴力集団のほうがマシだと? 脳髄に蛆虫でも湧いてやがるのか?」
 それから淳吾と勇治は喧嘩となり、たがいに罵詈雑言を吐きかけあった。そして最後に勇治のスネを蹴りあげてから、家に帰った。彼は洗面所で布マスクを洗う。まるで可愛い柴犬でも洗ってあげるように、慈しみを込めて布マスクを洗うんだった。

 淳吾はいわゆるオンライン飲み会というものに参加することになる。インターネットなどの先端技術にはとことん疎く、もちろん乗り気ではなかったが、可愛がっている後輩が勧めてくるので、好奇心も相まって一回だけ参加することを決意する。彼はパソコンの前で安い焼酎を飲む。そして液晶に見慣れた顔がいくつも現れて、何か奇妙な感覚を味わった。最初、同僚たちは仕事の愚痴について喋っていた。ネット上でも愚痴かと淳吾はウンザリしながら、焼酎を飲む。だがその会話内容は徐々に政府批判になりはじめる。
「和牛券って一体何なんだよ。こんな時にも利権が関わってくるのかよ。政府ふざけすぎてないか?」
「十万円振りこむとか言いながら、その計画も全然前に進まない。国民を思ってるのなら、もっと早く十万円ばらまくよねえ。和牛みたいに鈍いよ」
「安倍ってどうせずっとお腹いたいだけの総理大臣だろ。前みたいにお腹痛いって泣きながら早く辞めろよ、ボケ」
「安倍辞めろ! 安倍辞めろ! 安倍辞めろ! 安倍辞めろ!」
 そんな叫びが飲み会を席巻し、淳吾の心はボロボロに引き裂かれた。
 クソども、彼の苦悩も分からない癖に!
 義憤に駆られながら、淳吾は外へと飛びだした。もちろん布マスクは忘れなかった。
 そして辿りついたのはあの公園だった。淳吾はやはり赤い服の女性が来るまで、張りこみをすることになる。闇は春の陽気を吸いこんで、爽やかなものになっていた。その中で、あの立ち小便の映像を再生するのは至福の時だった。それでも女性が公園に来ることはない。一時間ほど待って、もう彼女はやってこないと落胆する。だが女性は来た。
 彼女はやはり赤い服を着て、幻影のクラゲのように闇を漂っていた。そのうちに歩くのを止めて、女性は公園の隅に棒立ちになる。そしてズボンを脱いだ。それを観た瞬間、淳吾の心臓は爆発しそうになった。闇を切り裂くほどに絶叫したくなった。その衝動を必死に抑えつけながら、女性を見据えつづける。
 女性は尻を露にしながら、放尿を始めた。彼女は淳吾の目のまえで尿を放出していたんだった。その事実に震えるような衝撃を感じ、さらに股間には熱いものを感じる。淳吾は衝動のままに走った。そして女性の横に立った。ズボンを下ろして、ぺニスを持ち、放尿を始める。素晴らしく解放されたような気分だった。マスターベーション以上に快楽に満ちた瞬間だった。そうして横を見る。女性はマスクをしていた。それは政府から配られた布マスクだった。彼女と目が合ったその時、尿を撒き散らしながら彼女が近づいてくる。そしてマスク越しにキスをしたんだった。淳吾は彼女のマスクの柔らかさを感じた。まるで天使の肌のように柔らかい。二人は下半身から尿を噴出させながら、いつまでもキスを続けた。


私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。