コロナウイルス連作短編その113「干し草刈りの切実さ」
あさにおきて テレビを見る
ニュースで映画が紹介されている
あかいバンダナにあおく膨らんだスカート
外国の女のひとが 干し草を刈っている
クリームいろのシャツ
長そでをまくって あらわの手のすじ
棒をグッ
とにぎって 草を持ちあげて 山をつくる
ふというでのその
すじの小川がながれる
たくましさ
ランニングをする
夏はもはや肌ざむい 太陽はかわらないふうなのに
走って お寺 住宅街 工場 そして土手
かいだんはやさしい灰塵のかさなり
なだらかな坂をのぼっていき とても汚い川がみえてくる
走り 人をよこぎる 老いてかがやける人々
若い青年 トートバッグにかわいい犬をかかえる
後ろから声をかけられる
それはあなたの恋人
まちあわせて 土手でいっしょにはしるのだ
鼓膜
彼女のいきづかい
バッタのようにたのしげに
2人の女のひとがはしっている アスファルトの人こいしさ
あなたの家
はいった瞬間には 彼女がおびただしい汗のしずくの
あなたの首をむさぼりはじめる
「きょうはそうしてほしかったから
うれしい」
彼女もうれしそうに体へとびこんでくる
くろい髪と髪がまざりあう その隙間にはささやかな闇
とてもつよい匂い
彼女をベッドへとつれていって クルクルとまわるのだ
ゆびでたがいの
肩胛骨をつつみながら
彼女はねむる あなたはねむらない
汗にすこしだけぬれたシーツのシワは脊椎
をながれる小川みたいにとうめいで
彼女のめもとに浮かんだ
シワに爪をたてる
夕べのごはん
とりもも肉 すじもあぶらも取りさって
フライパンにのせて 皮目にかすかに炎をいれる
ナンプラー 塩 米油
170°のオーブンで20分
彼女は焼酎をのみながら レモンをかけて食べる
あなたはつめたい麦茶をのみながら レモンはかけないで
「いっきに
寒くなったね
秋がきたなってかんじがするよ」と彼女
「もう別れましょう」と、
あなた
「これ以上は無理だと
おもうから」
ひとりでねむる
干し草のにおいにつつまれながら
汗をかきかき 腕をうごかす
太陽はあつい 棒はもうすこし
つよく
にぎりしめたほうがいい
私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。