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薬剤師冥利

先日、職場の広報誌を見かけた。各科の医師の紹介が載っていた。改めて、医師は個人の名前で周りにアピールできる特別な職業なのだと尊敬の念を抱いた。

確かに、医師への道は高く険しい。選ばれた人しかなれない。
「やっぱ、すっげえな!」
と心の中で賛辞を贈る。でも不思議なことに嫉妬の気持ちはない。薬剤師は医師のなり損ない、と揶揄されることもあるらしいが、私自身はそう思ったことは一度もない。負け惜しみでもないと思う。医師になりたいと思うことはなかった(なれるかどうかは別にして)。高校生の頃、進路を決めるのにぐらぐらしていた。どの道に進んでよいか全くわからなかった。「手に職をつける」その一点で薬学の道に進んだ。一番目立って一人で何事も決められる医師になれるわけもなく、なりたいわけでもなかった。それよりは、裏方としてサポートする方が自分にはしっくりくるような気がおぼろげながらしていた。

医師から電話が入る。「〇〇さんに××か△△(薬の名前)を使いたい。薬の量を検討して欲しい。」
正直、苦手な分野だが、詳しい薬剤師に相談し、ワキ汗をかきながら、資料や検査結果を元に投与設計を立てた。迅速さも求められる中、何度も確かめながら計算する。万が一にも間違いがあったら責任重大だ。医師と何度か電話でやり取りをして、投与計画が採用された。次回の検査結果で、設計に近い結果が出ればよいが。すべては患者さんのため。状態の改善につながることを願う。

依頼のあった医師と、偶然、病棟、ではなく売店で出会った。何だか気恥ずかしい。食後のお菓子を手に取ってレジに並ぼうとしたら、年齢も立場も上のその医師に
「さっきはどうもありがとうございました。」
と声をかけられた。
「いえいえ、とんでもない、とんでもない…」と返すのがやっとだった。

面と向かって「ありがとう」と言ってもらえる機会はなかなかない。じわりと、うれしかった。何かの役には立てたかな。そういえば、別の患者さんに提案した薬も、医師とコミュニケーションを取りながら適量に達し、患者さんは今までより楽になったようだ。きっと、こんな風に、表舞台に立つことはないけれど、患者さんや他職種の助けになることが、薬剤師冥利に尽きるということなのだろう。進路に迷いつつ辿り着いた職業だが、継続できるよう日々精進していきたい。

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