石炭火力発電の削減方針に目新しさはなかった
7月に入って、政府の2030年に向けた石炭火力発電の削減方針が突如発表されたかのように各所で驚きを持って受け止められていますが、実はこの内容には全く目新しさはありません。
7月3日の梶山経済産業大臣の記者会見を見ても、2018年に閣議決定された第5次エネルギー基本計画の内容を踏襲しているだけです。梶山大臣も記者会見の中で、第5次エネルギー基本計画の内容を具体化しただけと述べています。
エネルギー基本計画に書いてあること
現行の第5次エネルギー基本計画には、石炭火力発電の今後についてどう書かれているのでしょうか。
まず、石炭に対する政策の基本的な方向としてこんな風に書かれています。
温室効果ガスの排出量が大きいという問題があるが、地政学的リスクが化石燃料の中で最も低く、熱量当たりの単価も化石燃料の中で最も安いことから、現状において安定供給性や経済性に優れた重要なベースロード電源の燃料として評価されているが、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、適切に出力調整を行う必要性が高まると見込まれる。今後、高効率化・次世代化を推進するとともに、よりクリーンなガス利用へのシフトと非効率石炭のフェードアウトに取り組むなど、長期を展望した環境負荷の低減を見据えつつ活用していくエネルギー源である。(p.20)
高効率化・次世代化を推進しつつ、「非効率石炭のフェードアウトに取り組む」と書いてあります。また、化石燃料の効率的・安定的な利用の項では非効率な石炭火力のフェードアウトを促すとも書かれています。
今後、これらの規制的措置の実効性をより高めるため、非効率な石炭火力(超臨界以下)に対する、新設を制限することを含めたフェードアウトを促す仕組みや、2030年度に向けて着実な進捗を促すための中間評価の基準の設定等の具体的な措置を講じていく。(p.57)
すなわち、今回の政府の発表は2年前に既に計画として示した方針を具体化しただけで、石炭火力発電の削減に突然舵を切ったのではありません。更に言えば、高効率化の技術開発を進めて一定程度の石炭火力発電は継続する方針です。
エネルギーミックスをいつ見直すのか
エネルギー政策の中でも電力に絞って議論をする際、政府が金科玉条のように扱う2030年のエネルギーミックスを見直すかどうかが重要な論点になります。
現状、発電電力量ベースで国内の火力発電比率は76.9%ですが、エネルギーミックスではこれを2030年に56%に減らし、残りの44%を原子力発電と再生可能エネルギーで賄う計画です。
国内の発電電力量の推移(エネルギー白書2020から引用)
しかし、2030年時点の世界の再生可能エネルギー発電比率は、国際エネルギー機関(IEA)の推計では33%(現状拡大シナリオ)~49%(持続可能な発展シナリオ)です。
これに対してエネルギーミックスでは22%~24%を再生可能エネルギーの導入目標としており、世界から大きく遅れを取っています。更に、非化石電源と定義する原子力発電は現状6%台の比率で、これを2030年に20~22%にするというのが現在の政府計画の解釈となってしまいます。
現状の政府見解は
既にあらゆる視点からエネルギーミックスの綻びが見えている中で、早急に計画を見直すべき状況にありますが、エネルギーミックスについて梶山大臣は下記のように発言しています。
これはマイナスだけじゃなくて、例えば今、更新中の高効率の石炭火発もございます。そして、再稼働に向けて、今、安全審査であるとか、その安全審査後の整備をしている原子力発電所もあります。CO2を減らすという中、温暖化ガスを減らすという中では、原子力発電も一つの選択肢だと思っております。それらも含めて、地球温暖化対応というものをしっかりとやっていかなければならないと思います。あれも駄目、これも駄目という中で、選択肢が限られた中でできるかというと、私はできないと思っている。そして、日本の限られた資源の中で、どういう組合せをしていったらいいのかというのが、ベストミックスだったり、エネルギーミックスと言われるものだと思っておりますので、それをやれるものはしっかりやっていこうということなんですね。(2020年7月3日 経済産業大臣 閣議後記者会見)
そして、再生可能エネルギーの主力電源化については、下記のような発言がありました。
これが唯一無二の主力電源ということではなくて、例えば石炭であるとか原子力であるとか、そういったものと匹敵するようなものまで持っていきたいということでの主力電源化という話をさせていただいております。(2020年7月3日 経済産業大臣 閣議後記者会見)
このように、エネルギーミックスについては従来の政府見解が踏襲されていますし、再生可能エネルギーについても現段階では飛躍的な増加を目指すという方針は示されていません。
現在のエネルギーミックスは既に陳腐化してしまった計画であり、個別の電源の取り組みをあれこれする前に全体計画の見直しが早急に図られるべきです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?