みどりの食料システム戦略が決定
農林水産省が策定を進めてきた「みどりの食料システム戦略」(以下、本戦略)が、5月12日付けで正式に公表されました。私も再生可能エネルギー事業者としてヒアリングを受けたほか、4月に行われたパブリックコメントにも意見を提出するなどしてきましたが、色々と物足りなさも残る内容になったのでそのあたりの意見をまとめてみます。
イノベーションばかり積み上げすぎて全体像が不透明
今回公表された資料を紐解いていくと、本戦略の全体像として下記のような整理が示されています。これを見ると、目指すところは図の上方に記されている「2050年のカーボンニュートラルの実現と生物多様性目標への貢献」であることが分かります。
ヒアリングの際にも言及したのですが、本戦略では農林水産業を発展させ農山漁村が豊かになっていくこと自体は目的として明示されていません。そのため、本戦略が実現されることによって2050年に農林漁業者の暮らしや働き方がどのようになっていくのか、今よりも豊かな社会の実現に向かうのかがイメージできない内容になっています。
イノベーションで食料・農林水産業の生産力向上と持続可能性を両立することが軸にあるとは言え、カーボンニュートラルを実現し生物多様性目標を達成できた農山漁村の姿こそ本戦略ではまず示すべきだったと考えます。目指す姿を誰もが共通してイメージできてこそ、各論となるイノベーションの開発・導入が実効性のあるものにできるでしょう。
再生可能エネルギー導入は何のために必要か
本戦略の本文で、再生可能エネルギーに関する項目は具体的な取り組みの筆頭に挙げられており、その中でも営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が真っ先に記載されています。
カーボンニュートラルの実現が目標に掲げられている以上は再生可能エネルギーが冒頭に来るのはもっともだと思うと同時に、ここ5年ほど農林水産行政における再生可能エネルギーに関わってきた身としては、流れが変わってきていることを感じます。
項目の内容から読み解くと、再生可能エネルギーの導入は農林漁業におけるエネルギー調達の脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減の推進のためのものであると解釈できます。
ただ、単に資源利用の脱輸入・脱炭素化としてしまうよりも、再生可能エネルギーは自然資源が豊富な農山漁村にこそポテンシャルが大きいものであり、それを活用したエネルギー事業の拡大が農山漁村の経済的な豊かさも実現すると言った視点も掲げられるべきでした。
営農型太陽光発電を含めて「地産地消型」と限ってしまうのではなく、都市近郊での再生可能エネルギー生産と供給、あるいはエネルギーも食料も自給できない大都市に対する資源供給と都市から農村への投資喚起など、環境省の地域循環共生圏のような観点を取り入れることも重要です。
農山漁村はエネルギー生産地であるという宣言を
本戦略の議論の過程では、2050年時点に国内で生産される再生可能エネルギー電気の5割を農山漁村でという目標も検討されていました。
再生可能エネルギーの生産に必要な自然資源は農山漁村にこそ大きなポテンシャルがあることから、その資源管理も活用も農林漁業者が担っていくことを示すことが重要です。
農山漁村が私たちの生きるためのエネルギーを供給し続けてきた歴史を振り返り、再生可能エネルギーが主力となる時代にこそ農山漁村が基幹的なエネルギー生産地であることを宣言するべきです。
その実現のためのイノベーションを積み上げていくという形にすることで、みどりの食料システム戦略はより実効性の高いものにできると考えます。
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