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ねんねんころり、おころりよ

口から零れた唄が揺蕩う。
宙を彷徨うそれを追うようにその柔い唇がわたしを数える。
いっぴき、にひき、さんびき。

誘いますとも、あなたが其処で笑えるなら。
あなたが明日を願えるための一歩を。
あなたが今日も寝返るための一節を。
わたしを数えて明日の朝日を迎えましょう。
朝日があなたを包み、目の醒めたあなたがゆるりと言を紡ぐ。そんな明日を奏でましょう。

そこに、わたしがいなくとも。
数えるまでは共にいられても、夜を超えた朝日に数えられたくもない。
朝露に映るのは、咲うあなただけでいいのです。
陽が包み綺麗な空気が巡る世界は、夜を超えられない老羊には、少しだけ息苦しいから。

瞼の裏で咲うあなたは綺麗でしょう。
あの日あなたが美しいとわらった羊は薄壁を隔てて踊りましょう。ひとつ、ふたつ、みっつ。
これほど昏くては咲く花も摘めない。
だからどうか、其所で咲いてしまった自己顕示さえも掻き消して。なんでもないと咲う朝日に気づかれないうちに。


ねんねんころり、おころりよ。
静かに微睡む小さな唄が、どうか明日も奏でられますように。
いっぴき、にひき、さんびき。
その眼に数えられる今日が、どうか明日も巡りますように。

目もあてられない夕が眠ったあとで、月の知らない夜空を数えられるように。

月の届かない月下で、またあいましょう。

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