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定住化は虚弱化

定住化と聞いても、ピンと来ないと思う。私たちが生きている時代では定住という言葉をあまり使わない。家を持たずにフラフラとしている人はいるかもしれないが、食糧を探すために日本を歩き回っている人はいないからだ。こういってはなんだが、ホームレスの人たちですら定住している。しかし、この定住化が人(ホモ・サピエンス)に大きな変化を与えた。

地球の人口が300万人を超えた1万2,000年前、地球は最後の氷河期を終えた。現在の茨城県の人口くらいだ。世界にはその程度の人しかいなかった。考えられるだろうか?人口密度が地球レベルで非常に薄かったのだ。現在では多過ぎて問題になっている。2050年には100億人になるとか、将来は最高で200億人になりそうだとか。

恥ずかしながら今回調べるまで、私は氷河期と思い浮かべると地球全体が氷と雪に囲まれた世界を想像していた。映画「Ice Age」や「The Day After Tomorrow」などの極寒の世界が私の頭の中にはイメージとしてあった。この最後の氷河期は現在と比べて、平均して気温が6度から8度低かった程度だという。その程度みたいな言い方をしているが、地球の3分の1くらいが氷と雪に覆われていたらしい。今とは大違いである。

ジャック・アタリの『食の歴史』には3万年前から植物の栽培は始まっていたというが、1万2000年前に最後の氷河期が終わってから、ホモ・サピエンスは移動しながらの生活をやめ、一つの場所に定住し本格的な農業が始まったという。農業だけでなく、小舟を作る技術もあり、魚や甲殻類、軟体動物なども食糧になっていたという。ヤギや犬と人間が共生し始めたのもこの頃である。要するに家畜を持つようになったわけだ。

この頃からホモ・サピエンスはお酒を飲みだす。もちろん現在のものとは別物だとは思うが、ビールやワインを作り始めた。大麦粥やブドウには酵母があり、樽にでも入れておけば自然とビールやワインが出来てしまうとのことだ。

定住化し、農業をして自給自足の生活をするとホモ・サピエンスは栄養失調になったとこの本には書いてある。人口が増えて定住化という道を選んだ代わりに、食の多様性が失われたのだ。少人数で移動しながら食べ物を探していた時代は、道無き道に多種多様の植物が生えていたのだろう。自然が今では考えられないほど豊かだったとも言っても間違いはないのではないか。

定住化すれば、外に出稼ぎに出ている者もそう遠くまでは行かないだろう。その決まった範囲での行動となれば、そこにある食糧をすべて採ってしまえばそれまでである。そこには何も残らない。そのため人々は農業に力を注ぎ込んだのではないかと思う。しかし同じ場所で同じ作物を毎年育てるのは難しい。土壌のバランスが崩れるからだ。いくつかの植物をサイクルしながら育てていく事となる。そのサイクルがうまく行けば、食糧を安定して供給することが出来るだろう。

しかし問題は食べる野菜や種子の種類が大幅に減った事だろう。そのためホモ・サピエンスは栄養失調に苦しみ寿命が10年ほど短くなったと考えられている。さらに栄養が足りなかったため、免疫システムが大きく変化し、新しい病気さえ現れたという。全ては定住化したからである!

現在では定住化が当たり前になってしまい、考えることもないかもしれないが定住化によって人は一度危機に晒された。人口が増え過ぎてしまった彼らには、定住以外の選択肢はなかったのだろう。しかし定住したことによりホモ・サピエンスの歴史はまた大きく動きだす事となる。

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