38 仕事 そして 生きること

恋に全力で走れたのは、仕事が安定していたから。

長年働いた会社、気心知れた仲間、取引先。

会社の方針が変わり、

仲間たちが一斉に辞めて行った。

急にいなくなった人もいた。

私もすぐにでも辞めたかったけど、一人暮らしではそう簡単に仕事は辞められない。

貯金も無い。

働かなくてはいけない。

働かないと、生きていけない。

こんな年齢で実家のお世話になる訳にはいかない。

上司や仲間がガラッと変わった今、もはや別の会社だった。

転職したかの様だった。

慣れないながらにも必死で頑張った。

初心に戻った様だった。

仕事に集中する事で、仕事のたくさんの課題がある中で、

彼の事は自然と考えなくなっていった。

失恋を忘れるにはちょうど良かった。


だけど、苦しかった。

新しい上司は、典型的に長い物に巻かれるタイプ、

部下には理不尽で、その上司には媚びへつらうタイプだった。


私がこの会社で長く仕事が出来たのは、上司が尊敬できて、

仲間が好きだったから、過酷な仕事だったけど、その分やりがいを持って楽しく頑張れていた。



新しい仕事仲間は、新しいやり方を強要した。

新しい仕事仲間と上司は波長が合う様だった。

今となっては、具体的に当時何があったかは忘れてしまった。

環境と人間関係の変化だけでは無い、どうしようもなく悪質な物が確かにあった。

何日も無視し続けたり、大勢の前で怒鳴り散らされた。

沢山あったけど、思い出せない。

ただ、苦しくて消えたかったのを覚えている。

そして、会社の誰にもその苦しさを相談できなかった。


朝9時半には出社し、会社を出るのは23時近く。

月一回の残業の無い日以外は、この時間ほとんど会社にいた。

会社独自の方法でタイムカードを管理する為、残業はすべてサービス残業だった。

中途入社した時から気づいていた。

ブラックだと思っていた。

でも、やり甲斐や、仲間や、人間関係がそれをカバーしていた。

残業代が一切なくてもいいと思えるほど・・

ある意味洗脳されていった。

上司や仲間に支えられている時は、体に不調が出ながらも頑張れていた事が、

新しい上司に責められる事や、ないがしろにされる事で、頑張れなくなっていた。


新しい同僚が、時々飲みに誘ってくれて行った事がある。

飲みの場で場、さぐりを入れられている様に感じて本音では話せなかった。

今まで生きてきて、失恋しても、食事が喉を通らないなんて事は無かったのに、

食べられなかった。


一人暮らしの部屋はほとんど寝に帰るだけだった。

そして、家に帰って毎晩泣いた。

仕事は頑張っても頑張っても空回りした。

気づくと眠れなくなっていた。


毎日のように、会社と家で吐いた。

吐くことが日常化していた。

鏡を見ると、頬が黒ずんでいた。


それでも、仕事は辞める訳にはいかない。

生活がかかってる。

毎朝電車のホームの線路を見て、

このまま落ちたら

消えられるかな。

どうやったら、この苦しさが終わるかな

いなくなりたい。

ずっとそんな事を考えていた。


じぶんは歩いているのに、体が斜めになっている感じがして、

ずっと頭痛がしていた。


ある時、前の上司が会社で私を見かけて追いかけて来てくれた。

大丈夫か??!!
顔色が悪いぞ。
無理してないか??

心配してそんな風に言ってくれた。

私は、

大丈夫です!
問題ないです!
心配してもらって嬉しいです!
ありがとうございます!!と答えた。

精一杯明るく答えた。


家でどれだけ泣いても、悩んでも会社では、全く出していないつもりだった。

でも、今考えれば、

隠せないほどだったんだろう…



あるとき、友達の家に行った。

初めて会社の状況と自分の気持ちを話した。

もうそんな仕事辞めな!
辞めた方がいい!
鬱になりかけてる!
今までよく頑張ってきたよ、
すぐ病院に行って診断書を書いてもらって、それを会社に出せばすぐ休めるから。

でも、長く働いた会社だから、急に辞められないよ…
仕事も忙しいし…
私が抜けたら大変…
生活があるから辞められないし…

それに心療内科?精神病院?抵抗があるよ・・

それに、長く働いた会社だからいい形で辞めたい。

何年も頑張ってきた。積み重ねてきたからこういう形では辞められない。

何とか頑張る。


そんな事言ってる場合じゃない!辞めても何とかなるから!
絶対辞めて。
もうおかしくなってるから、今までと違うから!

そこから早く離れないといけない!
…と本気で心配してくれた。痛いほど伝わった。

毎晩1人にならない様に、毎日仕事終わったら友達の家に晩ご飯を食べに来る事を半ば無理やり約束させられた。

体に鞭を打って、体調不良でも何とか仕事をして、
どんなに苦しくても、仕事が終われば行く場所があった。

友達はただ一緒に晩ご飯を一緒に食べてくれた。

当時の私にはものすごく救いだった。

一緒にいてくれた。

めんどくさい私を、よく面倒みてくれたと思う。

一人でいるとおかしな事を考えないかと心配して、

家に帰っても連絡をくれた。

この時、友達がいたから今私は生きてる。




つづき


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