レオの火消し(3)

3

「み、見るなぁ〜っ!」
ハイボールの男は咄嗟にまくられた袖を隠そうとする。赤らめた顔と吹き出した汗が男の焦りを表す。
男の袖の下にはうっすらと羽毛の形状に似たものが腕の皮膚の下から浮き出ていた。
肘から手の方向に形状はくっきりと大きくなっており、まるで魚の鱗のように形作っている。
男の腕を見た黒いコートの男はニヤリと笑う一方、長身のバーテンダーは顔色を変えないが、目は変化した腕を注意深く観察していた。
「へぇ、鳥か。珍しいな。まぁ、見た感じニワトリってところか。」
そう言うと黒いコートの男は腕を掴んだまま、大きくジャンプをし、ハイボールの男の頭上を飛び越え前面に立った。

「なんの鳥か気になるところだが、騒ぎが大きくなる前に”消す”ぜ。」

黒いコートの男は空いてる手を素早くハイボールの男の目の前にかざし、両目を大きく開き集中を始めた。
その瞬間、ハイボールの男は大きなうめき声を上げ、掴まれた腕を振り解きよろめきながら半歩程後ろへ下がる。
「て、テめェモ、オれヲバかにスルのカ、、、」
ハイボールの男の口は半開きになり、どす黒い声が店内に響く。
男の目は白目になり、周りの空気が揺れ始めた。
「チッ、”発火”するな、、、面倒臭ぇ、、」
黒いコートの男は素早く後ろへ飛ぶと、コートを脱いだ。
無地の白Tシャツに黒いジーンズ、金髪も相まってチンピラのような出立ちがあらわになる。
「おい、バーテン、こいつ発火するぞ。キッチンに隠れてな。」
男は長身のバーテンダーに警告をするが、バーテンダーは肩をすくめ、ため息をついた。
「はぁ、困りましたねぇ、、お店が壊れなければいいんですが、、、」
ため息混じりにそう言うと、バーテンダーは奥のキッチンへ向かった。コートの男は不審げに横目でバーテンダーを見る。
ハイボールの男は背中を丸めながらよだれを垂らし低くうめき続ける。
男の体が突然、泡のようにモコモコと形を変え始め、湯気を出しながら変形していった。
両腕はみるみるうちに鳥の羽と手が融合したような形状となり、体は膨張し、スーツが大きな音を立てて破裂する。
血管が浮き出た頭の上からは、ゆっくりとトサカのようなものがドクドクと脈打っている。
「やっぱりニワトリか。ビンゴだぜ。」
黒いコートの男がそう呟いた瞬間、ニワトリ男がカン高い雄叫びをあげ羽を振り上げ襲いかかる。
バーカウンター上のボトルとグラスを破壊しながら、大きな羽がフックのようにコートの男を横からえぐる。
コートの男は軽々と横宙返りをし、フックを避ける。
そのまま宙返りを繰り返し、近くのテーブルの上に着地するとしゃがんだ。
ニワトリ男はうめき声を出しながら視線をテーブルへ移し、両羽を上へ突き出し突進した。
コートの男は宙返りを繰り返しテーブルを次々とホップしながらニワトリ男の攻撃を回避する。
着地するテーブルがなくなる頃、コートの男は大きく跳び、バーカウンターの上に着地、しゃがむ。
あたりはテーブルの残骸だらけになった。
白目をしたニワトリ男は息を切らしながら小さなうめき声をうめき声をあげ、少し離れたところからコートの男を睨む。
「なんだよ、遅ぇな。おいチキン野郎。そろそろ終わりにするぞ。」
コートの男はまたニヤリと笑いながらそう言うと、しゃがんだまま集中を始めた。

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