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マイケル

マイケルとは3社目の会社で出会った。少し苦い思い出を話そう。

日本で生まれ育って、見た目もアジア人の彼は、出会い頭から自分のことをマイケルと呼んでと自己紹介した。
たしかに欧米系の会社だったから、ミドルネームとかあだ名とかでウェスタンネームを使う人もいたけれど、初対面から本名でなく通称を言ってくる変わった人だなぁという印象だった。

マイケルはブランドが好きだ。
ファッションとかでなくて、経歴とか家柄とか。自己紹介はこんな感じだ。
「自分は日本の〇〇大学を出て、そのあとアメリカの〇〇大学に行きました。その後は世界的有名企業の〇〇で〇〇として働きました。日本の文化より外資の文化に慣れています。日系企業のことは分からないので、これから勉強していきます。」
中途採用社で大学名まで言うのは珍しかった。新卒なら分かるけど。
しかもアメリカの大学名を聞いても、どんな大学かいまいち分からない。どんな勉強をしていたのですか?ときいたら、グローバルランク2○○位の大学で〇〇を専攻してましたと言われた。ランクまで言っちゃうところがマイケルなのだ。

そして彼のプライドは大手外資系で働いていたということだった。一緒に勤めていた会社は外資系だけど、英語が苦手な人も多い。昔ながらの気のいい年配の方も多い。競争的な環境ではない。その環境で、〇〇はダメ、〇〇は外資っぽくないと彼の経験則で判断していく。そんな彼がチームから煙たがられるのは時間の問題だった。

たまたま一つのプロジェクトが同じで、人間関係で相談を乗ったのをきっかけに、事あるごとに連絡がくるようになった。話してみると抱いていた印象とは別に、繊細で賢く、それが故に他人に対して気になる事が多い不器用な人という印象を受けた。

彼は一度相談できそうと思った人には、とことん連絡を取りたがるらしい。業務時間中に深刻そうに相談があります、とメッセージがきて話を聞いてみると、大したことない事がほとんどだった。これは彼なりのコミュニケーションの取り方で、きっと雑談とかそうゆうカジュアルなコミュニケーションの取り方を知らないのかもしれない。だから事あるごとに相談として、世の中では雑談と言われる話をした。ただいつも話すのは彼が9割。一方的なコミュニケーションなのだ。

マイケルはその後、人間関係が上手くいかず退職した。ただ次の会社がかなり有名らしく、彼らしく次の会社がいかにステイタス的に素晴らしいものかを解説してくれた。そう、彼は喋る時は基本的に解説なのだ。一方的なのだ。


退職後に何度か連絡がきた。彼の仕事がいかに素晴らしいかを繰り返し聞いた。そろそろ自分の話でも、と思い近況を話そうとした。ただそんなにネタがなかったので、最近仕事で失敗した話をしようとした。そうしたら、「自分は会社のことは基本的に守秘義務があるので話せない、とてもとても重要な仕事だから。だから君も話さないでくれ。どちらか一方的だけが会社の愚痴を言うのは不公平でおかしいだろ。」と大真面目に言われた。今まで大分、一方的に話を聞いてきた身としては、いざ自分の話をしようとしたとたん言われた言葉に、不意をつかれ次の言葉が見つからなかった。自分の仕事の自慢はいいが、他人愚痴は聞けない、彼なりのルールなのだろう。

彼はきっとコミュニケーションに問題がある人なのだろう、そう感じて交流を絶ってきたひとが沢山いるはずた。自分もそれ以来、連絡が来ても見ないようにしている。もう正直どうでもいいのだ。ステイタスが好きな人はそもそも嫌いだ。話していて心地の良い人とプライベートな時間は過ごしたい。心の平安を保つ方法を改めて考えさせてくれたマイケルであった。

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