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ヒルビリーエレジー

トランプの副大統領として正式指名されたJ.D.ヴァンスの自伝的原作をNetflixが映画化。数年前に一度みて、とても良くできていると感じたやつを改めて振り返る。

大袈裟でなく、今もアメリカの半数以上は彼の幼少期に見てきた世界が広がっていると思う。彼らはトランプに共鳴する。トランプのアメリカは全然狂気なんかじゃなくて、何度も言われているがエリートが見つめてこなかっただけ。トランプの言動や、政策には嫌気がさす。だが、ハリスがメインストリームメディアやS&P500の大半の企業などホワイトカラーのエリートに支持される一方、声なきものの代弁者は間違いなくトランプである。

学生時代、アメリカで中西部のラストベルトと呼ばれる地域に少しだけ住んでいた。そこは、かつて車産業が盛んで工場が多くあり、製造業で栄えていた地域だ。ヒルビリーエレジーで出てくるヴァンスの出身の街、そのまんま。金融やコンサルなどのサービス業で儲けている人もいたけれど、8割は経済から取り残されてるブルーカラーの人たち。暮らしの形態なども、鹿狩りやムーンシャイン(密造酒)を楽しみ、キリスト教の信仰が深く、家族を遡れば炭鉱で働いていた人たちが1人はいる。絆が強く、週末は近所の友人たちとバーベキュー。一度コミュニティに入り込めば、キリスト教の教えを介して愛情深い人たちだ。

住んでいた街の隣町では、工場が海外にアウトソーシングされたことから失業率が上昇し、ドラック常習者や発砲事件が1日に1回は起きる場所だった。
親がそんな感じだから、もちろん子供も大学に行けても学生ローンに苦しむ。就職先も真面目なアジア系移民や少し親がちゃんとしている子、都市部から越境してきている子は見つかるが、学費が高くてドロップアウトしたり、成績もあまりよくない普通の子なんかは、地元のピザ屋やドラッグストアでバイトするか、短期契約で工場で働く。もしくは軍に入る。それくらいしか選択肢がない。歳を取るともっと職業の選択肢が狭まる。リーマンショックで家を失っている人もいる。住むところも働き口も探しながら、その日を精一杯に生きる。一度落ちると這い上がるのは至難の業だ。閉塞感がすごい。みんな自分はスタックしてると口癖のように言う。今日を生きるのに精一杯な時に、メキシコからくる難民は、毎月日本円にして1人あたり18万円くらいの助成金がもらえると聞く。自分がそんな状況なら、移民に金をばら撒く民主党に投票するだろうか?生きるため、工場のセカンドシフトに行く道中の車のラジオでそんなニュースを聞いたらどんな気持ちだろう。自分の払った税金だ。両親も製造業で、祖父母は炭鉱などで代々働き、アメリカという国を支えてきた自負があるのに、政府は自分たちには何もしてくれない。ましてや、自分たちをレッドネックなどと馬鹿にし、お荷物のように言ってくる。そんな時に、トランプのような自分たちにスポットライトを当てる人が来たら、支持せずにはいられないだろう。

そんなことがたった2時間ほどで分かる秀逸な映画。もちろん彼の努力や、彼を支える祖母や彼女の存在なども印象に残る。そしてその映画の続きが今まさに選挙としてテレビで放映されているのも面白い。この主人公が副大統領になったらと思うと、まさにアメリカンドリームだ。トランプが持っていない貧困層、ラストベルト出身の弁護士という強力なカードを盾に、副大統領としてアメリカを統一する一助となるのだろうか。
ハリスが大統領になった場合も女性やマイノリティという意味でアメリカンドリームだろう。有権者が選ぶのはどっちの夢なのだろうか。

あらすじ
名門イェール大学に通うJ.D.ヴァンス(ガブリエル・バッソ)は、理想の職に就こうとしていたときに、家族の問題によって、記憶から消そうとしていた苦い思い出のある故郷へ戻ることを強いられます。故郷で彼を待ち受けていたのは、薬物依存症に苦しむ母親ベヴ(エイミー・アダムス)。幼いヴァンスを育ててくれた、快活で利発な祖母マモーウ(グレン・クローズ)との思い出に支えられながら、彼は自分の夢を実現するために、自分自身のルーツを受け入れなくてはならないことに気づく。
https://filmarks.com/movies/93473

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