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読書感想「殺人出産」/村田沙耶香

私たちはいつ死ぬかわからない日々の中を生きている。いつ殺すともしれない日々の中を生きている。

セックスをして子供を妊娠出産することがなくなり、人口減少を阻止するために、10人子供を出産すれば1人殺してもいいというシステムが採用された世界の話。
なんともぶっ飛んだ世界だな、と思いながら読み進めた。


男性が人を殺したい場合は、体内に人工子宮を埋め込んで出産する。
もちろん10人産む前に死んでしまう「産み人」もいる。
「産み人」システム以外で人を殺すと、「産刑」という罰が与えられ、死ぬまで命を生み続けなくてはならない。
10人産んだ「産み人」は誰でも好きな人を1人殺すことが出来る。「死に人」には1ヶ月の猶予が与えられ、自殺する選択肢も与えられる。
「死に人」は皆のために犠牲になってくれた人なので、その死は讃えられる。
とにかく「出産」こそが1番尊いものである、と定義された世界である。

物語の主人公、育子の姉はまもなく10人目を出産しようとしている「産み人」である。
幼い頃から殺人衝動を抱えて生きていた姉を見ていた育子は、自身も「殺意」という光を胸に抱き、人生を乗り越えてきた。

大丈夫ですよ。だって、私たちには殺人があるのだから。

この世界は狂っているのかという問いは、すでに育子のなかでは遠いものとなっている。
殺意だけを信じる彼女はやがてこの世界の「正しさ」を知ることとなる。

ぶっ飛んだ世界だと思っていたけれど、読み進めているうちに、「ある日いきなり誰かから命を奪われるかもしれない」という点から見れば、この世界も私たちの世界も変わらないのだな、と思った。
命が尊くなったから、そこに合理性を組み込んだ、ただそれだけの違いなのかもしれない。
そう考えると、明日の自分の命すら保証できない私たちの世界もなかなかに狂っているな、と思った。

「殺人出産」は短編集で、他に三編の短編が収録されている。そしてどの短編も「狂った世界」の中でその世界に正しさを見出そうとしている人々の話だった。
全体的に性と死が濃厚に入り混じっていて、立て続けに読むと胸焼けしそうだけど、短くさらっと読めるので余韻はそんなに悪くない感じ。
嫌いじゃないです。
この作家さんの本はまだまだ他にも読んでみたい。









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