読書感想「天璋院篤姫」/宮尾登美子
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読書感想「天璋院篤姫」/宮尾登美子

yuri
この大奥という山の頂点に位置し、孤独をかこちつつ苦労に揉まれれば強くならざるを得ぬ、という思いもある。

昔から、宮尾登美子の書く小説の大ファンである。中学一年生の時、「藏」を読んで以来、宮尾登美子の描き出す、女性の激烈な生き様にずっと魅了されている。


けれど、宮尾登美子の書く「歴史小説」は、数年前に「宮尾本 平家物語」を読むまで、手に取ったことがなかった。
「平家物語」は四巻に及ぶ長編大作で、登場人物も物凄く多いのだけれど、読みやすく、何よりとても面白かった。他の歴史小説も是非読んでみたいと思い、今回「天璋院篤姫」を読むことにした。
読み終えて、宮尾登美子自身も後書きに「歴史小説を書いたという認識はない」と書いているが、これは「歴史小説」の前に、激動の時代を生きた、1人の女性の物語だと感じた。

上巻は、薩摩島津家分家に生まれた後の篤姫が、島津斉彬に見出され養女となり、十三代将軍家定の正室になるべく江戸城へと入輿。そして、夫と短い結婚生活について。
下巻は、斉彬の死、家定の死の後、大御台所となった篤姫と和宮との嫁姑問題。そして、徳川家の崩壊と、その後の穏やかとも言える晩年。

例え将軍の正室といえども、圧倒的な男社会の中で篤姫のあげる声は多々軽んじられ、無視される。それでも彼女が己の誇りを決して失わないのは、幼い頃から武家の娘として養育されたことに理由があると思う。
それは、家定死後も、女が一旦嫁したからには、その嫁ぎ先の家が終焉の地である、と篤姫が胸の内で繰り返し、事実、江戸城に入輿した後は薩摩の地を踏まなかったことや、戊辰戦争の直前、薩摩藩より篤姫を引き取りたいと使者が来た時には、「連れ戻そうとするならば私はこの場において自害する」と言い放つなどのエピソードからも窺える。
しょせん女は男の命じるままにしか生きられない、と嘆きつつも一筋縄には信念を曲げない篤姫の生き方、本当にかっこいいです。

一年七ヶ月という、家定との短い結婚生活で、篤姫はついに男女の交わりを得ることはなかった。それは、子供の頃から「良い嫁となり、世継ぎを生むように」と養育された篤姫にとって、どれほどの苦しみだったか。
しかし折りに触れて、その苦しみに人知れず苛まれる篤姫の姿は、表の強さを知っているだけに、とても人間的な美しさを感じる。
聡明で高潔、(そしてかなり頑固…)というのが、私がこの本から得た篤姫のイメージです。


江戸城明け渡しの後、変わりゆく時代の中で、篤姫は徳川家宗家の跡取り、家達の養育をしながら、穏やかな余生を過ごす。
慶喜への恨みは消えることはないものの、和宮との交流の様子などとても心温まるもので、読んでいると自然と涙が出てきた。
たくさんの人の上に立つ御台所という立場が、どれほど孤独なもので、その立場から解放された篤姫が幸せな晩年を送ったことに、救われる気持ちになったからだ。

余談だけれど、私の父は鹿児島の出身である。祖父の名前には「篤」の漢字が入っている。篤姫からあやかって付けられた、と聞いたことがある。私自身は、鹿児島には数えるくらいしか行ったことがないし、特に思い入れもないのだけれど、鹿児島の人が、篤姫を誇りに思う理由に触れたような気がする。

和宮目線の物語も読んでみたいなぁ。





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yuri
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