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書籍「知的生産の技術」60年代も現在も個人の情報リテラシーは重要

kindle unlimitedで興味を持った書籍について、note記事へまとめました。

今回ご紹介するのは、知的生産の技術 (岩波新書、梅棹 忠夫 著)です。

著者も含めて60年代の日本は熱い!

60年代の日本は熱い!

PCが普及する以前の60年代は今とは別世界です。筆者の場合、読んでいるとまるでタイムスリップしたような感覚になりました。

ただ、古臭いという感覚はありません。60年代の情報産業の勃興に対する著者の熱意が文章から伝わってきます。読んでいくうちにどんどんのめりこんでいく感覚を覚えました。

こういった「当時の日本の熱さ」を文章から感じられることも、この本を読む醍醐味といえるでしょう。高度成長期の平和な時代における科学技術の盛り上がりが、文章を通して伝わってきます。
こういった読書体験ができるという意味でも、この本はおすすめです!

そもそも知的生産とはなんのこと?

「知的生産」という単語を見ると、なんだか難しい話を扱う感じです。
そもそも書名の「知的生産」とはなんのことをいっているんでしょうか?

あまり身構えずに「人に情報を伝える活動」ぐらいにとらえていいみたいです。メモに何かを書いて人に連絡することも知的生産になりますし、パワーポイントを使ってプレゼンすることも知的生産になります。

60年代の日本は高度成長期まっただ中であり、戦時中の物不足も解消されました。紙や文房具も豊富に供給され、こういったものを通じて一般市民が気軽に情報をやりとりできる環境が整っていきました。

ただ、物不足は解消されたとはいえ個人が情報をやりとりするリテラシーはまだまだ低い状態でした。

物不足は解消されたが、情報を扱うリテラシーが不十分

著者は情報を管理することに対して特に力点を置いて解説しています。今の時代ならPCやスマホ上で勝手にまとめてくれますが、この当時の日本ではそういった電子機器がありません。

コンピュータは企業や研究機関での導入が進んだばかりです。職場で普及が進んだ情報機器としては、当時の日本ではタイプライターがあげられます。

紙とペンを用いて、人それぞれバラバラのやり方で情報をやりとりしていたことになります。原稿用紙の使い方を知らない大学生がいたというエピソードも収録されていました。意外なところでリテラシーが不足していたことがうかがえます。

SNSと電子メールの関係で考える問題点

こうしたことにどんな問題点があるのでしょうか?
現在と比較的近い時代の事情を考えてみるとわかりやすいです。

たとえば現在なら、個人は各種のSNSを利用できますが、プラットフォームが提供する機能をそのまま使えばいいわけです。これがSNS登場前の時代では、基本的には電子メールを利用していました。

つまり、メールだけでやりとりしていた時代では、発信や管理に関して人それぞれやり方が異なる時代だったわけです。

うまいメールの文章が作れて、送信マナーをわきまえた人がいます。他方で文章が下手で、送信マナーにうとい人もいたわけです。こういった状況では、個人がお互いに情報を交流するうえで支障をきたすケースも生まれたでしょう。

紙とペンの自由度の高さが、非効率な知的生産につながっていた

当時は紙とペンを用いていた時代です。電子メールよりもさらに表現の自由度が高いツールを使って情報をやりとりしていたわけです。やりとりするうえで、電子メール以上に人それぞれバラバラのやり方でした。

そういった状況の中で、個人が情報を扱うということに関してリテラシーが不足していたことに著者は危機感を覚えていました。このことは本書を書くための重要な動機となりました。

カードを利用して情報の管理や共同作業を円滑化

こういった危機感を背景として、例えばアイデアや発見したことを管理するための方法として「カード」の利用方法を紹介しています。

カードを用いた全体最適化

それぞれの個人で情報を扱うノウハウが異なっていると、コミュニケーションを行ないにくくなってしまいます。ですが、カードという道具をお互いに利用することで決まったルールのもとで情報を扱うことができることになります。

安価な形で、当時の技術水準なりに情報をやりとりする工夫として、カードをとらえることができます。

こういったことは、ある組織の中で文章を作成するならWordだけ利用するとか、あるいは映像配信をZoomだけ利用するみたいなことでしょう。

今ではネット上も含めると各種の事務用ソフトがありますが、当時は個人用コンピュータが普及していませんでした。この当時ならではの全体最適化する試みだったということができると思います。

フィールドワークで強みを発揮

カードは発見したことやアイデアを蓄積するうえで有用です。また、紙の束さえ用意できればいいので、安いコストで準備できるというメリットもあります。

こういったことは特にフィールドワークを行なうにあたってメリットがあったようです。コンピュータがやっていることを安価なカードで「見える化」しているような印象も受けます。

こういったカードは現在でもインフラが整っていない地域で活用できるのではないかと思います。PCやスマホなどの電子機器では、水に濡れたり強い衝撃を受けると使用不能になってしまうことも考えられます。これがカードであれば紙に書きつけるわけですから、そういった心配もありません。

もちろん、紙でできたカードなので量が増えるとかさばるといったデメリットも考えられます。ですが復旧のことも気にしながら電子機器を利用することに比べると、少ないストレスでフィールドワークを行なうことができます。

規格化の重要性は紙でもコンピュータでも同じ

本書を読んでいて、コンピュータと紙の距離の近さにあらためて気づかされました。

紙との意外な距離の近さ

この本に興味を持たれたら、コンピュータの歴史に関しても軽くチェックしてみると面白いでしょう。そうすれば、カードに関する話はさらにおもしろく感じると思います。

コンピュータも開発された初期の頃は、パンチカードという穴があけられた紙を読み取らせる手法が活用されていました。コンピュータはやがて電子化されていきましたが、人間と同様に紙を使ってやりとりしていたわけです。

カードとパケットの類似点

情報は規格化されることで扱いやすくなる。本書ではこのことの重要性に関しても主張されています。

著者も言及していますが、カードの利用は人間が生産する情報を規格化していく試みといえます。

このことを今の時代の生活で考えてみると、「パケット」というキーワードが思い浮かびました。ネットワーク機器はパケットという単位を使いますが、カードは電子化されない時代に思いついた物理的なパケットという印象です。

余談:人類が月に降り立った日に発売

余談ですが、発売日は1969/7/21です。なんと人類が月に降り立った日に発売されました。
やっぱり60年代は熱い!日本だけじゃなくて世界も熱い!

この翌年には日本では大阪万博が開催されるなど、60年代は世界的に科学技術が注目された時代です。また、昨今AIが話題となっていますが第1次AIブームがあったのは50年代から60年代にかけてだといわれています。

60年代は日本だけでなく世界的にも、知的生産の技術を含めた科学技術が進歩していった時代だったといえます。

昨今ではChat-GPT等のAIに関して注目が集まっています。知的生産に関する技術的な面に焦点を当てた本書は、今日でも大きな意義を持った名著といえるでしょう。


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