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雑談

 しばらく前、授業中に授業と関係ない雑談をするな、という指摘を学生さんから受けた。しかし、自分の専門、仕事、趣味、居場所、推しetc. といった興味の対象はXだからそれ以外に興味なし、という思考回路は感心しない。「X」が「非X」との対立においてのみ存在し得るというのは言語学の「基本のき」。あるものの価値というのは、それ自身が積極的に存在し自己主張するようなものではなく、自身のあり方を自身では決定することができない実に消極的なものなのであり、何かが意味や価値を「持つ」という言い方はかなりミスリーディングな表現だと言える。
 したがって、大事な大事な「X」のかけがえのない価値を知ろうと思ったら、必然的に「非X」にも目を向けざるを得ない。「非X」はいわば「X」の輪郭の構成要素であり、その意味で「X」の一部だとすら言えるのである。推しチームへの想いが強まるほど対戦相手のことも気になり出すものだ。「わたし」はたとえば「あなた」とは別個の存在として異なる位置を占めているからこそ「わたし」であり得る。「あなた」のないところに「わたし」はない。「あなた」は「わたし」の輪郭の不可欠な一部分という形で「わたし」を構成している。「あなた」は「わたし」なのである!

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