【人名記憶術】ショートショート
「最近、記憶術に凝っててね」
「いい国つくろう鎌倉幕府的な?」
「それは数字の語呂合わせだけど、オレのは人名だよ。ちなみに今は、いい箱(1185)作ろう鎌倉幕府らしいよ」
「まじ?知らなかった」
「頼朝が守護や地頭を任命する権利を朝廷から与えられた年」
「勅許ってやつだ」
「まぁ今更知ってもほぼ役に立たないけどね」
「だな。んで?人名の記憶術とは?」
「来年トランプが大統領に返り咲くけど、今その閣僚人事が次々決まって行ってるんだよ。その中に、ツゥルシー・ギャバードという女性がいてさ」
「ほうほう」
「彼女の経歴が面白くてね。2歳の時にサモアから移民として両親と兄弟とともにハワイ州にやってきて」
「ふむふむ」
「21歳で最年少のハワイ州議会議員に、それからハワイ州下院議員になり、州兵としてイラクやクェートに志願兵として派遣され、退役後、下院議員に返り咲き、民主党の大統領指名選挙に出て。まだ聞く?」
「もういいかな。あら?民主党議員だったのに、なんで共和党のトランプ政権の閣僚になるんだよ?」
「それがさ、トランプが一期目の大統領になる前に、彼女は民主党の政権移行チームの一員としてトランプに会ってブリーフしてるんだ」
「ブリーフって何?パンツ?トランクス?」
「語源は同じで、簡潔なっていう意味。彼女なりのアメリカ外交戦略をトランプにこうあるべきって端的に話したんだろう」
「トランプはビジネスマンからの転身だから聞く耳をもってたのか」
「そうかも。でその後、彼女は民主党を離れてトランプの応援に回ったんだ」
「へえ!何があったんだ?トランプの雷に打たれたのか?」
「その辺のところ誰が教えてほしいわ」
「ところで?記憶術はどこへ?」
「あっそうそう。それがさ、話は元に戻るけど」
「元がどこやらなんだが」
「ある夜のことだ」
「ある夜が元なんかーい」
「夜中に寝てたら外でギャーッ!て声がして、なんだ?!とびっくりして飛び起きた」
「ギャーッ!って事件か?」
「それがもう1回ギャーッ!て声がして、どうやら空から聞こえていることがわかり、調べてみたらアオサギの鳴き声だった」
「アオサギって、川でたたずんでて動かない鳥だろ?」
「そう、それ」
「アオサギという鳥がギャーッ? ん?鳥はバードだから、もしかしてギャバード?」
「そう!よく気がついたな」
「やっと来たか。んでトゥルシーはどうするんだ?」
「鳥がさ、わかりやすく鶴にしようか。つるっと足を滑らせてびっくりしてオシッコをシーとこぼしながらギャッ!と叫ぶんだよ。ほら絵にしたらこんな感じ」⬆
「オシッコがシーって」
「ほら昔は子供がオシッコしたくても出ない時に、お母さんがシーシー言ってただろ?」
「確かに。オレなんか、手を洗ってる時に水道の流れる音を聞くだけでトイレ行きたくなる」
「おお、ご同輩!」
「ところでそのギャバードはどんな役職に付くんだ?」
「国家情報長官。CIAやFBIをも統括する重要な役目を担うことになる」
「そうなのか。情報がダダ漏れしないよう上手く操れるのか?」
「足をすべらせなければ漏れることは無いが、転んだら漏れる」
「なるほど。足がつるっと、びっくりシーからの、ギャッと叫ぶ鳥。トゥルシー・ギャバード! 覚えたぜ! どう役立てるんだこれ? 」
「名前にイメージを加えたら覚えられる。どうもどうもと言いながら、誰だっけ?と冷や汗かかなくて済むようになる」
「虎にぷ~と強烈なすかしっぺをくらわされ、石が破れるとそこからぺんぺん草が生い茂る」
「いっぺんに二人も!上出来! でもオシッコに屁って、もっと上品にしましょうよ」
「ぎょい!」