安&堵

つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書…

安&堵

つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ (徒然草冒頭文)   ☆短編小説&ショーショートを書こう☆

最近の記事

(短編ショート) モミジアオイ

 その赤い花の鮮烈な輝きに、和也は目を射抜かれた。 「毎年、咲くよ。何にもしてないのに。昔、ばあさんが植えたらしい」  早坂篤志の祖母が生前住んでいた離れの建物と、道路に面した垣根との間に、夏の直射日光を浴びて咲く赤い花。それがモミジアオイだと知ったのは去年の夏だ。    祖母の亡き後、篤志は母屋からその離れを自分の部屋にした。その部屋は夜遅い時間でも出入り自由の、同級生たちの青春のたまり場になった。時が過ぎ、和也がお盆に帰省して久しぶりに篤志の家を訪れてみると、あの赤い花は

    • (短編ショート) 白い朝顔

       「利休の屋敷には、朝顔がたくさん咲いておるらしいな」  「さすがに、お耳が早くていらっしゃる」  秀吉が千利休の屋敷を訪ねると、つる葉は屋根まで伸びているというのに、お目当ての朝顔は一輪も咲いてはいなかった。  「利休!これはいったい、どういうことじゃ!」   「秀吉様。こちらにどうぞ」  利休は静かに秀吉を茶室に案内した。そこには、花瓶に一輪、朝顔が活けてあった。  「うむ。さすが、利休じゃ。なんと美しい朝顔であることか」  「さあ、皆さん。この朝顔のエピソードを聞いて

      • (短編ショート) アガパンサスの芽

         「すいませ~ん。愛と恋の違いって何でしょうか?」  いきなり女性にマイクを向けられて戸惑う私に、後ろからカメラを抱えた男がにじり寄る。  「何なんだ?君たちは。私を誰だと思ってる!」  「愛にも恋にも縁遠いそうな通行人のおじいさま?」  かわいい顔して、きついことを平気で言う。  「お?残念ながら、正解じゃ!」「きゃははは」  ふた呼吸おいてから、私はカメラマンにカット!の指示を与えた。  「おねえさん、正解じゃ!の後、笑ってくれるのはありがたいけど、次の言葉ちょうだいよ」

        • (長?短編小説) きゅうりの花

           「黄色い花が咲いたら観察してみて下さい。雌花の下には、きゅうりの赤ちゃんがくっ付いていますから、すぐに分かりますよ」  園芸教室の先生は、質問に答えて、雄花と雌花の見分け方について説明した。雪子も質問してみた。  「先生。赤ちゃんが出来てるってことは、すでに受粉した後ってことですよね?」  「いい質問ですね。その答えは、Yesでもあり、Noでもあるんです」  生徒達は怪訝な表情をして、次の言葉を待った。  「つまりですね。きゅうりは雌花だけでも実を結ぶことが出来るんです。

        (短編ショート) モミジアオイ

          (超時空小説) グラジオラス 

           母の誕生日に、父が脇に箱を抱えて帰ってきた。 「開けてみろよ」 中には、ピンクのネグリジェが入っていた。  (もう死語になっているだろうか?)   父の顔は、このプレゼントを気に入るはずだと得意げだったが、母はいちべつして、ひとことお礼を言うとすぐに蓋を閉めてしまった。  父は母の反応が気に食わないのか、箱からネグリジェを取り出して、 「ほら、似合うよ」 と、母にあてがってみたりしている。襟元の装飾が、やけにヒラヒラとして派手だった。そばでその様子を見ていた私は、母は気

          (超時空小説) グラジオラス 

          (超短編小説) UFOからUAPへ

          去年の師走の月初頃、海岸線の直線道路でUFOを見た。午後3時頃だ。 最近、UAP(未確認空中現象)に呼び名が変わったようだが、現象Pというより、やはり、物体Oだというのが実感だ。  見た瞬間は、ドラム缶が浮いてる?と思った。しかし、その物体は銀色に鈍く輝き、最上部は自らが放つ白い光の中にあって見えなかった。引き潮の波打ち際の中空に居たあの物体は、いったい何だったのか。飛んではいないから、Fではない。未確認空中物体=UAOとでも云えばいいのか?ぅあぉ?  車を止めてスマ

          (超短編小説) UFOからUAPへ

          (超短編小説) ガクアジサイ

           「あっ!アジサイが、ころもがえしてる~ほら見て、あそこ」  息子の翔太が声をあげた。指さす先にはガクアジサイが咲いている。  「おお~花びらが少なくて、涼しそうだ」  アジサイの衣替え。親バカながら、この子は天才かと思ってしまった。 (あれはガクアジサイって言うんだよ。アジサイもそうだけど、花びらに見えるのは、本当はガクなんだよ)  そんな言葉が頭の中をめぐったが、何かがそれを押しとどめて、声にならない。(あぁ、あれか。。)あれからもう一年なんだな。  一年前。  妻の陽

          (超短編小説) ガクアジサイ

          (超短編小説)カタバミ

           スマホが鳴った。叔父の携帯からだ。食べるものがなくなると、買い物に行きたいんだがと、遠慮がちに電話がかかってくる。  妻を亡くして一人暮らし。車の自損事故を起こしてからは、免許を返納して足がないのだ。田舎あるある。独居老人は全国にいる。明日は我が身。  しかし、今日は違った。  「もしもし~私、近所に住む大久保といいますが」  聞いたことのある声。叔父の家の庭木を刈ってくれた人だ。  「実はですね、叔父さんが転んで足が痛くて起き上がれないって言うから、さっき救急車を呼びまし

          (超短編小説)カタバミ

          ケシの花(短編ひとり語り)        

           赤く咲くのは、ケシの花。白く咲くのはユリの花。どう咲きゃいいのさ、この私。夢は夜開く。  言わずと知れたこの歌詞。え?ご存知ないですか?ググッて見たら出て来ますよ。ご存知の方は、私の母と同世代の方でしょうね。  私、小学生の頃、母にえらい剣幕で言われたことがあります。  「あんたは、ケシの花よ!」  (え?え?お母さん、何言ってんの?)  当然ですよね。小学生ですから、意味が分かりません。ただ、わかったのは、母が私を、なんていうか、強くなじった感じがあって、その口調に私が

          ケシの花(短編ひとり語り)        

          (超短編小説) 時計草

          時計草が貝塚伊吹の垣根に巻きついて伸び、その濃い緑の壁の隙間から無数の花をのぞかせ咲いている。まるで、暗闇のあちこちから大きな目が一斉にギロリと開いたようで、夏の熱さの中で彩乃は悪寒のような身震いを覚えた。 時計草は文字通り、長針・短針・秒針を持つ時計に似た花を咲かせるが、西洋では聖なる花だと言われている。3本のめしべはキリストが桀(はりつけ)にされた十字架を表しており、後光を放つような5本のおしべ、針状の副冠花をキリストが頭にかぶった(いばらの冠)と見立て、ガク

          (超短編小説) 時計草

          (短編小説)  ねじ花(2)

           梅雨に入った。台風も次々やってくる。高い湿度は文字通り頭痛のタネになる。京子は重い頭と体を引きずるように、図書館通勤を続けていた。起き上がれるうちは、まだ大丈夫と他人のような自分の体に言い聞かせるのだ。  そんなある日、兄から長いメールが届いた。  (貴方の亡夫は前妻との離婚に際し、二人の子供が高校を卒業するまで養育費を払い続けることを確約したのにも拘わらず、途中で投げ出しました。再婚して子供をもうけたことで、そちらを優先したのでしょう。途中から、私たちは存在しないものとさ

          (短編小説)  ねじ花(2)

          (短編小説) ねじ花(1)

          〔今年の夏は、災害級の暑さになるでしょう〕  長期予報を聞いて、日曜日の朝から憂鬱な気分になり、テレビを切った。天気病の京子にとって、去年を超える暑さは恐怖でしかない。幸いリモート仕事が増えてはいるが、自宅での仕事は集中してできないし、光熱費は支給されないからクーラー代もかさむだろう。軽食が食べられる喫茶店や、飲食可能なスペースが併設された図書館を探して、そこへ<通勤>するのもいい。クーラーの涼しさと夏の暑さと異空間での仕事に、今から徐々にでも体を慣らしておきたい。スマホで

          (短編小説) ねじ花(1)

          (短編) エケベリア(七福神) その3

          「はい、これ」 プー太郎は、ベンオから50枚目の1万円を受け取った。 「今日の優勝で折半、完済だな」 「そういうことね」 ベンオはウインクをして、ニヤッと笑った。 「さぁ、本番よ!みんな張り切って行きましょ」 ベンオのもとに集った若き才能たち。ヘアメイクや作曲家、照明のプロ。カメラマンや映像作家など、プー太郎のステージを盛り上げ、記録として見逃さず残して、優勝したあかつきには再現して皆で祝うのだ。  「さぁ、それでは、次の作品の登場です。応募テー

          (短編) エケベリア(七福神) その3

          (短編) エケベリア(七福神) その2

          本人はまだ気づいていない。募金の善行のお陰か、プー太郎はちょっとばかりイケメンになっていた。前にはなかった労働意欲も生まれている。  ハローワークに向かって歩いていると、道路反対側の歩道から、ひとりの女性が車を避けながら横断し、プー太郎めがけて駆け寄って来て、行くてを遮るように立ち止まった。 「こんにちは!」 (なんだ?何かのキャッチセールスか?) 「私、大きな声では言えませんが」 充分に大きな声だ。 「服飾デザイナーの卵なんだけど、貴方を見つけて

          (短編) エケベリア(七福神) その2

          (短編) エケベリア(七福神) その1

          プー太郎が公園のベンチでうたた寝をしてると、一陣の風が吹いて風来坊が現れた。 「お前の願いは何だ?」 「何だよ?いきなり?」 「願いが無いのなら、帰るぞ」 「ちょ、ちょ待てよ!そうだ!昨日買った宝くじを当ててくれっ」 「お前、金がほしいんじゃの。よし、わかった」 風来坊は、持っていた長い杖をプー太郎に振りかざした。まばゆい黄金の光が彼を包み込み、彼は変身した。風来坊は懐から鏡を取り出して彼に見せた。 「うわっ!誰なんだよ、オレは!」 「ふくろくじゅ、じ

          (短編) エケベリア(七福神) その1

          (短編小説)ひまわりベンチ(2)

           アパレル業界とひとくちに言っても、千春の場合は製作する側の人間だ。 業界には、四季に加えて春夏・秋冬の合計6つのシーズンがあり、それぞれの季節を先取り対応した商品が大量に産み出される。生産管理業務を担当する千春も年中忙しいのだが、秋冬シーズンのラインナップが出そろった束の間、定時帰宅が可能になる。自然界では、もうすぐ梅雨の季節。  (ひさしぶりに、一人ポテチパーティしよ)  その束の間の土曜日、千春はコンビニに寄って遊歩道をのんびり歩いて帰る。桜の木はさらに葉を茂らせていた

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