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(短編) エケベリア(七福神) その2

   本人はまだ気づいていない。募金の善行のお陰か、プー太郎はちょっとばかりイケメンになっていた。前にはなかった労働意欲も生まれている。
 ハローワークに向かって歩いていると、道路反対側の歩道から、ひとりの女性が車を避けながら横断し、プー太郎めがけて駆け寄って来て、行くてを遮るように立ち止まった。
  「こんにちは!」
  (なんだ?何かのキャッチセールスか?)
  「私、大きな声では言えませんが」
   充分に大きな声だ。
  「服飾デザイナーの卵なんだけど、貴方を見つけてびっくりしたの!」
  「え?顔に何かついてるとか?」
  「そうじゃなくて。貴方に似合う洋服を作りたいの!貴方には黄金のオーラが出てる。お願い。私の服のモデルになって!」
  一方的にまくしたてると、彼女は頭を下げて手を差し出した。昔の番組を振り返るテレビで、こんな光景見た事あるぞと思いながら、プー太郎は思わず、「ギャラ出るの?  」と聞いていた。
  彼女は、はっきりにっこり「出ません!」と答えた。しかし、耳元に近づいて、今度は小さな声で、
「出品するコンテストで優勝したら100万円もらえるから、折半しよ?」
とささやいて、ニヤッと笑った。(折半?50万?!)
 「合点承知!」「というと?」「モデル、引き受けたってことだよ」
 「やったー!じゃ、早速、採寸採寸!こっち来て!」
  プー太郎は、ビルの谷間に引っ張りこまれ、両手を挙げさせられたり、頭を下げさせられたり、体の隅々をメジャーで測られ、LINE交換をして解放された。
   (珍しいことが起こる日だ)
  歩き出してすぐ、ビコッと着信音があり、早速彼女からメール。
  【さっきはありがとう!ちょっと天然、弁舌さわやか、ベンちゃんです。私のことは、そう呼んでね。コンテストのことなんだけど、モデルさんはコンテスト応募作品を着てランウェイを歩いてもらわないといけないから、今度その特訓しようね。ではまたね〜】
  【オイオイ、聞いてねえよ。さらし者かよ】
 プー太郎のメールに返信なし。決まったものは譲れないってか。
    猪突猛進。あの押しの強い感じは、天然ベンちゃんと云うより、弁押し。略してベンオと勝手に呼ぶことにした。その前にハローワークだ。プー太郎は、また歩き出す。

 仕事はなかなか決まらない。その間も、夜の公園でモデル歩きの特訓が続いた。プー太郎は従うしかない。50万円の前借りをベンオに申し出て、まさかの、あっさりOKをもらったからだ。ただし、プー太郎が使い込まないよう、毎日1万円。(ベンオんち、金持ちか?)(貧乏よ)
ベンオは(だって、優勝と100万円は私たちのものだもん)と、自信たっぷり。ただ、それ一心なのだ。

(続く)

織田風太郎。誰?

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