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(超短編) オシロイバナの誘惑

 子供の頃、学校帰りにオシロイバナの落下傘を飛ばして遊んだものだ。
ピンクや黄色、オレンジ色など、ひと株にいろんな色を咲かせるオシロイバナ。名前に反して白い花の記憶がない。種に白い粉のような成分があり、化粧をするおしろいを連想させるからこの名前らしい。そんなことは露知らず。花々の誘惑に負けて、いつも落下傘を飛ばしてしまう。そこら中に花の残骸が散らばる。毎日誰かが掃除をする。そういうことに気を配ることなど微塵もなく、やっぱり飛ばして帰る。夏休みになれば落下傘部隊は飛ばなくなり、次の夏に。

 SNSをフォローし合いLINEを交換し、いろんな会話で盛り上がり、半年が過ぎた夏に、彼女が住む都会に出張が決まって会うことになった。ブラインド・デートだ。
 「ワンピースとミニスカート、どっちがいい?」
 服装を指定できる権利を得ていることに戸惑った。彼女のキャンディボイスに似合うのはミニだろう。だが、あえてワンピースを選んだ。
 「じゃあ、オシロイバナの柄のワンピースを着て行くから」

 会議を終えて夕刻、あとはフリーだ。待ち合わせ場所で、最初に私を見つけたのは彼女だった。言った通りの、しかし藍色のワンピースだった。
 「よくわかったね。オレの顔、知らないのに」
 「私のイメージにぴったりだったのよ」
 「田舎者のお上りさんがあそこにいる、って?」
 「ちがうよ~うまく言えないけど、女の勘よ」
 
 茶店でコーヒー。少し歩いて、居酒屋でアルコールと小皿たちを食べ、外へ出れば夜。
 「ホテルは取ってあるの?」「カプセルにでも泊まるよ」
 「そう‥私、今夜だけフリーだから」
 「えっ・・もしかして、既婚者!?」
 「言ってなかったっけ?」
 「私はひとりよ、って言ってたから」
 「電話出来るのは、ひとりの時だけだもん」
 「あっ、そういうことね」
 
 出会いは別れの始まりである。しかし私は、オシロイバナの誘惑に負け、落下傘を飛ばしてしまった。後には花々が、私の心に今も無残に散らばっている。        
                        
                            (了)

          オシロイバナ
         花言葉:恋を疑う
         別 名:夕化粧
 

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