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#みんなが選ぶ洋楽オールタイムベストアルバム100_In2020が無茶苦茶面白かった件

新型コロナ感染拡大で暗いニュースが続いた2020年。音楽の世界でも相次ぐコンサートの延期や中止など、その影響は決して小さくはありませんでした。

その中でとても楽しかったイベントとして、ネット上で大規模な名盤投票企画が開催されたことが挙げられると思います。米ローリング・ストーン誌も名盤ランキングを改定しましたし、にわかにランキング・ブームでも到来しているのでしょうか?

特にTwitter上で投票を募り、先日結果発表が行われた#みんなが選ぶ洋楽オールタイムベストアルバム100_In2020、こちらの結果が実に面白かった。YouTuberのみのミュージックさんが行った同様の企画より、より混沌としていながら「日本人らしい」ものだったように思います。(みのミュージックさんのランキング結果に関してもいずれ記事にしたいと思います。)

前口上はこの辺にして、まずはトップ100の結果を見てみましょう。主催者の方のブログに結果がまとめられてありますので、そのリンクを掲載したいと思います。

100〜51位

50〜1位

一言で言ってしまえば、90年代ロック強し!まさにこの言葉に尽きます。トップ3は全て90年代のロック作品ですし、リスト全体を見ても多くが上位にランク・インしています。この辺りはローリング・ストーン誌とはまったく違った結果ですね。首位を獲得したオアシスに、圧巻の4作品をトップ100に送り込んだレディオヘッドは勿論として、マイブラやウィーザーもかなりの好成績というのは大きな特徴だと思います。00年代以降の作品もかなり票を集めている印象で、シガー・ロスにテーム・インパラ、キラーズらがしっかりとランク・インしています。特にThe 1975なんて他のメディアでここまでの好位置につけているのはなかなか目にしません。

その反動か、60年代や70年代のいわゆる「名盤」への風当たりが強いリストでもあったと思います。なにせ、あのジミヘンやディランの作品がトップ100に入っていません。これは保守的メディアではまずないことでしょう。ストーンズやツェッペリンも上位にこそいますが順位ではかなり苦戦したのでは?この手の企画では大体上位を掻っ攫う絶対王者、ビートルズも最高順位が7位というのは「らしくない」とすら言えると思います。そして、その中で最高順位をマークしたのが『ペット・サウンズ』というのも面白いですね。ビートルズは票の分散が起こったかもしれないという擁護は可能ですが、この作品の絶対的な完成度が投票によって裏打ちされたのは個人的にとても嬉しい結果でした。

また、ブラック・ミュージックの元気がないのも否めません。10年代の重要作品だったケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』や、カニエ・ウェストの『MBDTF』、フランク・オーシャンの『ブロンド』辺りは順当に高順位につけていますが、古典的なR&Bは少し伸び悩んだ感があります。なにせ『スリラー』がトップ100圏外ですよ。プリンスがその中では健闘しましたが、彼の音楽もR&Bとして括るにはやや特殊ですし……同じブラック・ミュージックでいえば、ヒップホップの陰が薄い点も指摘しておきたいです。ナズの『イルマティック』が流石の貫禄を見せつけてのトップ100入りですが、ウータンやNWA、エミネムにジェイZ辺りの顔触れが揃って圏外というのは90年代以降優勢のこのリストでは少々意外でした。

とまあ、ここまで思いつくままに感想を書いてきたわけですが、この結果が不満なのかといえばまったくそんなことはありません。むしろ素晴らしいと思います。これでビートルズがトップ3独占なんてことになれば、それこそ投票の意味がない。純粋な人気と評価、Twitterという好事家の多いであろう媒体ではありますが素直に民意が反映されたものだと思います。『モーニング・グローリー』の1位なんて逆張り感をまったく感じさせませんよね。ピッチフォークならこうはいきませんよ、絶対ペイヴメントを1位にするはずです。

そう、『モーニング・グローリー』が1位というのがこのリストの意義を端的に表していると思うんです。すなわち、「90年代ロックで育ったかつてのロック小僧たちの情熱」という。ネットを介しての投票ですから、必然的に参加者の年齢層は若くなると思いますし、そうなると思い入れのある音楽というのもこの辺りの世代になる。そして、彼ら彼女らが奇を衒わず、心の底から好きな音楽に票を投じた結果こそがこのランキングなのではないでしょうか?

同じ90年代でも歴史的重要性なら『ネヴァーマインド』に軍配が上がりますし、評論家受けのよさそうな高尚さや難解さでいえば『OKコンピューター』になってもおかしくはない。そこを抑えてオアシスがトップになるというのは、日本人の音楽的感性としてしばしば指摘される「メロディの重視」は影響しているのかもしれませんが、もっとシンプルに「いい作品」だから。その素直さが出ている気がします。評論家的な立場を捨てた、1音楽ファンとしてのピュアな心情がこのリストからは感じられるのです。

そして何より大事なのが、このリストが「日本人の一般投票によって選ばれた洋楽名盤ランキング」であるという点です。日本人が選んだからこそ、トップ100にクイーンは2作も入っているし、妙にプログレが元気だし、ブラック・ミュージックはロックに比べると人気がない。一般ユーザーの投票というフォーマットならばRate Your MusicやBest Ever Albumsといった海外サイトもありますが、そちらともまた違った結果になっているのも嬉しい。アメリカに次いで世界第2位の規模の音楽市場である日本が選定した名盤ランキングには、やはり独自性があってほしいですから。

ロックが中心的なこのリストは、もしかすると前時代的なものなのかもしれません。とっくに洋楽の担い手はヒップホップをはじめとしたブラック・アメリカンに変わっていますし、それこそRストーン誌が示したようにザ・ビートルズ以来のロックの威光というのは減退しているといってもいいでしょう。あるいは、サブスクリプションが普及した現代においては「名盤」という価値観さえも古臭いものになりつつあります。

ですが、だからこそこのリストを私はとても愛おしく思います。それは先ほど述べたようにこのランキングからは素直な音楽への情熱を感じて止まないからでしょうし、アメリカともイギリスとも違う、日本人だからこその洋楽愛に溢れているからです。最後になりますが、莫大な数にのぼったであろう投票結果を集計、発表していただいた「旭川の佐藤仁苗」様、本当にありがとうございました!


オマケ

私の投票内容と実際の順位を最後に乗せておこうかと思います。ベタな選出をしたなぁと反省していたのですが、結果を見て下手に逆張りせずによかったとホッとしました。

Close To The Edge/Yes…圏外
Abbey Road/The Beatles…13位
Thriller/Michael Jackson…圏外
The Rise And Fall Of Ziggy Stardust Of The Spiders From Mars/David Bowie…15位
Kid A/Radiohead…5位
Revolver/The Beatles…7位
Pet Sounds/The Beach Boys…6位
Queen II/Queen…98位
Off The Wall/Michael Jackson…83位
Red/King Crimson…92位
Illinois/Sufjan Stevens…56位
In The Aeroplane Over The Sea/Neutral Milk Hotel…78位
Wish You Were Here/Pink Floyd…55位
In Utero/Nirvana…48位
My Beautiful Dark Twisted Fantasy/Kanye West…42位
The Beatles [White Album]/The Beatles…11位
Larks’ Tongues In Aspic/King Crimson…圏外
Funeral/Arcade Fire…20位
Thick As A Brick/Jethro Tull…圏外
Physical Graffiti/Led Zeppelin…圏外
Marquee Moon/Television…53位
Loveless/My Bloody Valentine…3位
★/David Bowie…圏外
Aja/Steely Dan…圏外
Sign O’ The Times/Prince…41位
Appetite For Destruction/Guns N’ Roses…32位
Siamese Dream/Smashing Pumpkins…圏外
(What’s The Story) Morning Glory?/Oasis…1位
Voodoo/D’Angelo…27位
Black Sabbath/Black Sabbath…圏外

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