見出し画像

宇多田ヒカル『SCIENCE FICTION』:宇多田ヒカルにとっての創作とはSF的な行為なのか?そしてアインシュタインの手紙。

宇多田ヒカルが初のベストアルバムをリリースした。

以下、ご本人のインスタグラムの投稿より、省略や絵文字の代わりの句読点も入れさせて頂きながら、コメントを抜粋したい。(原文をお読みになりたい方は、ご本人のインスタグラムをご覧下さい。)

「ただのヒット曲のコンピレーションじゃない、過去があっての今の私が伝わる特別なアルバム。新たなミックスで生まれ変わった10曲、トラックも歌も全部作り直した新録の3曲と、そして大好きな新曲の「Electricity」。楽しんでもらえるといいな。」

コメントにあるように、このベストアルバム(全26曲)は、過去のリリース曲のうち、10曲が新ミックス曲、3曲が新録曲、(付け加えるならば、ラストのボーナストラックも新たなエディット曲)となっている。加えて、新曲が1曲。
つまり、新曲も含めて半数以上の曲が、これまで私たちが聴いたことのない新たな曲として収録されている。

それ故に、とても新鮮な感覚をもって、この「ベストアルバム」を聴くことができた。
そう、本作は「ベストアルバム」なのだ。

私が、宇多田ヒカルが「ベストアルバム」をリリースすると知って、まず心惹かれたのは、タイトルが『SCIENCE FICTION』と名付けられていることだった。

私は、宇多田ヒカルの楽曲群を「SCIENCE FICTION」だと感じながら、聴いてきた経験はなかった。(新曲の「Electricity」(名曲!)からは連想できるが。)
この記事を読んで下さっているあなたの印象は、いかがでしょうか。



改めて「SCIENCE FICTION」の意味をググってみようと思う。(辞書が欲しい。。)

「空想的な世界を科学的仮想に基づいて描いた物語。空想科学小説。科学小説。SF。」(デジタル大辞泉)
とある。

私は、本作を一聴したのち、「愛をテーマにした曲が多いセレクションだな」と感じた。
もちろん、宇多田ヒカルの作品群は、「愛」をテーマや基調とした曲が「真髄」である(そして叡智に富んだ歌詞!)ことは、私などより、熱心なファンの方は存じ上げているだろう。
ゆえに、「愛をテーマにした曲」が多いのは当然といえば当然なのだが、私はそのセレクションにどこか意図があるように感じたのだ。

そこで、私は本作に名付けられたタイトルと照らし合わせて考えた。
「もしかしたら、宇多田ヒカルは現在、愛を科学だと捉えているのではないのだろうか?」

ところが、幾度も聴いているうちに、もう一つの仮説がより濃く浮かび上がってきた。
「現在の宇多田ヒカルは、創作することを、SFを描くような行為であると捉えているのではないだろうか?」

そんな仮説を抱きながら、日常を送っていると、noteにこのような記事が投稿されているのを発見した。

これは!これから読んでみようと思う。
読者の方も、ぜひ読んでみて頂きたい。
(ご面倒な方は、先へ読み進めて下さい。)

いやあ、とても読み応えのある対談でしたね。
真摯に創作し、思考し続けてきた人でしか発せられない言葉たち。
面白いのは、SF的な思考法で語られていること。
素晴らしい対談でした。

その対談を踏まえて、話を戻そうと思う。(もう対談の内容で充分過ぎるような気もしますが。。)
以下、宇多田ヒカルの発言をいくつか引用したい。

「SFの一番ドキッとするところって、小川さんのいう「視点の切り替え」だと思うんです。みんなが共有している常識や前提があったうえで、そこからちょっとはみ出した、今までになかった視点を与えて、ここじゃないどこかへ連れていってくれるようなもの。」

「どれだけ影響を受けていたとしても詞はノンフィクションではないし、かといって、まったく架空の作り話というわけでもない。この感覚――自分が体験した出来事と感情を、一度解体してから、再構築して作品にするっていうプロセスを、それをしない人にどうしたら説明できるだろうってずっとモヤモヤしていました。きっと誰でも日常的に、無意識のうちにやっているはずなんですけどね。そこで今回、「じゃあ自分で『SCIENCE FICTION』って言っちゃえばいいじゃん!」と思ったんです。(略)SFと相性がいいんでしょうね。」

「私は、創作のプロセス自体がまるでワームホールみたいだと思うんですよ。最初はとても個人的な、主観的なことを書いていたのに、それを作品として突き詰めていくと、人類に共通する普遍的なメッセージになったりして、不思議。」

(ワームホール「二つの離れた領域を直接結び付けるトンネルのような時空構造。アインシュタインの一般相対性理論における、重力場の方程式の解の一つとして、そのような時空構造が数学的に導かれ、「アインシュタインローゼンの橋」とも呼ばれる。このトンネルを通過すると、理論上、光よりも速く時空の2点間を移動できると考えられ、理論的にはタイムマシンと同様の働きをするが、その存在は確認されていない。SF小説の題材として利用されることが多い。」(デジタル大辞泉))

「現在の宇多田ヒカルは、創作することを、SFを描くような行為であると捉えているのではないだろうか?」という私の仮説はおろか、「宇多田ヒカルにとっての創作とは?」という問いに見事に応えてくれた言葉だった。

これで、確信を得た。
その観点をもって、これからまた宇多田ヒカルの『SCIENCE FICTION』及び、これまでの、そしてこれからの作品を聴いていきたいと思う。
愛と叡智に富んだ歌詞と、素晴らしいトラックメイキング。それに加えて、SF的な想像力を働かせることができる魅力。
きっとまた新鮮かつ豊穣な感覚をもたらしてくれるだろう。

この機会に、「Electricity」の歌詞で言及されている「アインシュタインが娘に宛てた手紙」の内容も掲載したいと思う。(「Electricity」をお聴きになった読者の方も気になっておられるのではないでしょうか。)
なにより、私が読んでみたい。

なんと1400通もの手紙を送っていたらしい。
以下に掲載するのは、その中の1通である。
(おそらく、宇多田ヒカルが言及していたのは、この手紙だろうと思う。)


「私が相対性理論を提案したとき、ごく少数の者しか私を理解しなかったが、私が人類に伝えるために今明かそうとしているものも、世界中の誤解と偏見にぶつかるだろう。

必要に応じて何年でも何十年でも、私が下に説明することを社会が受け容れられるほど進歩するまで、お前にこの手紙を守ってもらいたい。

現段階では、科学がその正式な説明を発見していない、ある極めて強力な力がある。それは他のすべてを含みかつ支配する力であり、宇宙で作用しているどんな現象の背後にも存在し、しかも私たちによってまだ特定されていない。この宇宙的な力は愛だ。

科学者が宇宙の統一理論を予期したとき、彼らはこの最も強力な見知らぬ力を忘れた。
愛は光だ。
それは愛を与えかつ受け取る者を啓発する。
愛は引力だ。
なぜならある人々が別の人々に惹きつけられるようにするからだ。
愛は力だ。
なぜならそれは私たちが持つ最善のものを増殖させ、人類が盲目の身勝手さのなかで絶滅するのを許さないからだ。 
愛は展開し、開示する。
愛のために私たちは生き、また死ぬ。
愛は神であり、神は愛だ。

この力はあらゆるものを説明し、生命に意味を与える。
これこそが私たちがあまりにも長く無視してきた変数だ。
それは恐らく、愛こそが人間が意志で駆動することを学んでいない宇宙の中の唯一のエネルギーであるため、私たちが愛を恐れているからだろう。

愛に視認性を与えるため、私は自分の最も有名な方程式で単純な代用品を作った。
「E = mc2」の代わりに、私たちは次のことを承認する。
世界を癒すエネルギーは、光速の2乗で増殖する愛によって獲得することができ、愛には限界がないため、愛こそが存在する最大の力であるという結論に至った、と。

私たちを裏切る結果に終わった宇宙の他の諸力の利用と制御に人類が失敗した今、私たちが他の種類のエネルギーで自分たちを養うのは急を要する。

もし私たちが自分たちの種の存続を望むなら、もし私たちが生命の意味を発見するつもりなら、もし私たちがこの世界とそこに居住するすべての知覚存在を救いたいのなら、愛こそが唯一のその答えだ。

恐らく私たちにはまだ、この惑星を荒廃させる憎しみと身勝手さと貪欲を完全に破壊できる強力な装置、愛の爆弾を作る準備はできていない。

しかし、それぞれの個人は自分のなかに小さな、しかし強力な愛の発電機をもっており、そのエネルギーは解放されるのを待っている。

私たちがこの宇宙的エネルギーを与えかつ受け取ることを学ぶとき、愛しいリーゼル、 私たちは愛がすべてに打ち勝ち、愛には何もかもすべてを超越する能力があることを確信しているだろう。なぜなら愛こそが生命の神髄(クイントエッセンス)だからだ。

私は自分のハートの中にあるものを表現できなかったことを深く悔やんでおり、それが私の全人生を静かに打ちのめしてきた。
恐らく謝罪するには遅すぎるが、時間は相対的なのだから、私がお前を愛しており、お前のお陰で私が究極の答えに到達したことを、お前に告げる必要があるのだ。」
お前の父親
アルベルト・アインシュタイン

最後に。
対談から。

「宇多田 それで、子供のころはずっと作家になりたいと思っていたんです。
 小川 ならなくてよかった(笑)。だってそのおかげで僕らはいま素晴らしい音楽を聴けているわけですし。」

ありがとう、ヒッキー!!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?