台本を公開しながら更新して完成させてみる～『セカンド・ライン』という台本～

　喪服を着た４人組が部屋に入ってくる。
　部屋に一か所がらくたが山積みになっている場所がある。
　一息つくと４人は話を始める。

Ａ　手がかかったな。最後まで
Ｃ　お疲れ様でした。
Ｄ　そう静かに死なないよね。
Ｂ　けど変に長引かなくてよかったと思うよ。
Ｄ　まあね。
Ｃ　とはいえ手続き地獄です。
Ｂ　あんな爺さんが保険まで入ってるとは。
Ａ　カードは停めたよな？
Ｄ　うん。
Ｃ　年金もやってます。
Ａ　さすが。
Ｃ　まあ病院入った時には考えてたんで。
Ｄ　容赦ないね。
Ｃ　ただの事務処理じゃないですか。
Ｂ　実際もっと片付けてから逝ってくれたら楽だったな。
Ｃ　そうなんですよ。
Ａ　できるわけないだろ爺（じい）に。
Ｂ　結局周りが何とかするんだよな。
Ａ　まだ半分くらい？

　Ａはがらくたの山を示す。

Ｃ　先長いですね。
Ｄ　こっちも入院した時に始めとくんだったね。
Ｂ　先に気づいてりゃなあ。
Ａ　手を付けない理由あった？

　ＡがＣに言う。

Ｂ　え、やっぱり考えてたの？
Ｃ　いや、あの部屋苦手なんです。
Ａ　あー。
Ｄ　わかる。
Ｃ　小さい頃からしんどくて。
Ｂ　たまに呼ぶんだよな、じいさん。
Ｃ　そう。
Ａ　ヤニがなぁ。
Ｄ　僕、一瞬の時は息止めてた。
Ｃ　順調に蓄積されてましたね。
Ｄ　ベッドのある床は沈んでたよ。
Ｂ　マジ？

　Ｂは見に行こうとする。

Ａ　後でいいだろ。
Ｄ　もしあの部屋で死なれてたら……。
Ａ　病院にゃ悪いけど爺（じい）送り付けて正解だな。
Ｃ　そう思ってます。
Ｂ　じゃあまあ保険様様か。
Ａ　父さんだよ。
Ｂ　父さん？
Ａ　その辺全部けつ持ってたんだから。
Ｂ　ああ。
Ｃ　そうですよ、感謝するならそっち。
Ａ　あの爺（じい）何もやらないからな。
Ｄ　だったなあ……。
Ｂ　それで、気持ち固まった？

　Ｂ以外は一瞬黙る。お互いを見あとでいたり部屋を見渡したりする。
　少ししてＤが口を開く。

Ｄ　家かあ。
Ｃ　税金とか関わりますよね。
Ｂ　どうしたい？
Ｃ　だから早めに整理したいです。
Ａ　けど四十九日とかあるよな。
Ｄ　だよね。
Ｃ　いや、それは問題ないのでは。
Ａ＆Ｂ＆Ｄ　え。
Ｄ　そうなの？
Ｃ　納骨したんで。
Ａ　あ、そうか。
Ｂ　そういうもんなの？
Ａ　そういうもんでしょ。
Ｂ　でもそしたらどこ住む？
Ｃ　え、まだ住むんですか？
Ｂ　え？　だって、あるんだぞ？
Ａ＆Ｃ　いや……。

　今まで黙ってたＤが呟くように言う。

Ｄ　この家かあ。
Ｂ　どうしたの。
Ｄ　いざってなると……やっぱり。
Ａ　いやここでノスタルジーはやばいって。
Ｄ　でも。
Ａ　分かるだろ。タイミングなんだよ。
Ｂ　出ていくしかないか。
Ｃ　この家はもう手に追えないですよ。
Ａ　そうだよ。それこそお金だって。固定資産税とか？
Ｃ　相続税です。
Ａ　そうそれ。
Ｂ　でも税金掛かるほどの値打ちあるか？
Ｃ　値打ち無いから、です。
Ｄ　そこまで言わなくても。

　ＢはＤに同調する

Ｂ　色々複雑だよな。
Ｄ　いっそ悪い思い出ばっかりだったらな。
Ａ　おい、それは違うだろ。
Ｄ　ごめん。
Ｃ　けど実際決めないと。
Ａ　やだろヤニ部屋のある家は。
Ｃ　この際ですから。いい機会ですよ。
Ａ　そうそう、タイミングなんだよ。
Ｂ　そうだな。
Ｄ　……わかった。
Ｃ　資料あるんで、流れ説明しますね。
Ｂ　タイミング。

　Ｃはファイルを用意し書類を出そうとするが、肝心の資料は見当たらない。

Ａ　何してんの。
Ｃ　いや……。
Ｂ　無いの？
Ｃ　この家にはあるはず。
Ｄ　印鑑探した時に紛れてない？
Ｃ　ですかね。ちょっと探します。
Ｄ　手伝うよ。

　ＣとＤはそう言ってがらくたの山をあさり始める。　

Ａ　なんでここに固めたの？
Ｂ　後で色々売るからって。
Ａ　え⁈　ないない、それはない。

　Ｃが呼びかける。

Ｃ　すみません、ありました。お騒がせしました。

　Ｄが老人のようなしぐさで一冊のアルバムと巨大なハリセンも持ってこようとする。

Ａ　今いらないから。
Ｄ　じじいの真似。
Ｂ　わかったわかった。てかそれ何？
Ｄ　なんかさ。部屋あさったら出てきたんだよね。
Ｂ　アルバム？
Ａ　爺（じい）らしくない。
Ｃ　父さんが作ったんでしょ。
Ｂ　じゃあばあちゃんのもあるかな。
Ｃ　探しますか？　まだ結構あるんで。
Ｂ　あ、いいよ別に。
Ｄ　でもさ、家あるうちに見とかない？
Ａ　今？
Ｄ　お願い！　見たら家を処分する決心がつく。
Ａ　まあそう言うんなら。
Ｄ　じゃさっそく。

　Ｄは皆に見えるようにアルバムを開く。

Ｄ　者ども焼き付けよ。
Ａ　焼き付けたいのは自分だろ。
Ｂ　けっこう古そうだな。
Ｃ　でも綺麗に残ってますね。
Ｂ　父さんの性格出てるな。
Ｄ　じいちゃんにはこれ作れないね。
Ａ　旅行多いな。
Ｂ　意外。
Ｃ　あの人この町から出てたんですね。
Ｂ　だよな。　
Ｄ　ゲーセンくらいしか行ったことないよ。
Ａ　ジャスコの屋上のな。
Ｂ　ジャスコ！
Ｃ　一昨年潰れましたね。
Ｄ　東京ドームだ。
Ｂ　髪残ってる。てか黒い！
Ｃ　いつのですかね？
Ａ　１９８８……巨人阪神戦……もしかして！
Ｄ　何？
Ａ　東京ドームのこけら落としじゃん！
Ｂ　マジ⁈　
Ｄ　よくわかったね。
Ａ　巨人ファンなら当然。
Ｂ　やるな。
Ａ　……実は爺が昔自慢してた。
Ｂ　なんだよ。
Ｄ　それも覚えてないよ。すごいね。
Ｃ　あ。じゃ一緒に写ってる若い人。
Ｄ　父さん？
Ａ＆Ｂ＆Ｃ　おおー。
Ｃ　えっと、同い年くらいですかね。

　ＤはＢに向かって言う。

Ｄ　ちょっとそこに立って。
Ｂ　比べようとするなよ。
Ａ　待て待てどんどん逸れてる！　終わらないぞ。
Ｄ　なんか楽しくなってきて。
Ａ　サクサク見る！　サクサク。
Ｄ　楽しんでたじゃん。
Ｂ　なんだよサクサクって。

　Ｂは小声でつぶやく。

Ａ　文句あるんならはっきり言えよ。
Ｃ　ちょっと！

　ＣがＡ、Ｂ、Ｄに呼びかける。

Ａ　何だよ！
Ｃ　めくって行ってください。
Ａ　はあ？
Ｄ　あ。
Ｃ　わかります？
Ｄ　うん。
Ｂ　何が。
Ｄ　この人誰。
Ａ＆Ｂ　え。
Ｃ　家族や仕事仲間に混ざってる感じで。
Ｄ　ほら、ここにも。
Ｂ　うわ。本当だ。
Ａ　……愛人。
Ｂ＆Ｃ＆Ｄ　ええ⁈
Ｄ　知ってたの⁈
Ａ　そんなわけあるか。けど……爺ならやる。
Ｃ　あの人。
Ｂ　本当に愛人か？
Ａ　じゃなきゃこんなに写真一緒に撮るか。
Ｄ　妹ってことは？
Ａ　年の差。
Ｂ　隠し子！
Ａ　距離感。
Ｂ　う……。
Ｄ　でも、もしかしたら。
Ｃ　無理。
Ａ　え？
Ｃ　どっちにしろ無理。
Ａ　それな。
Ｄ　いやでもこの人だって。
Ｃ　だって何ですか？
Ｄ　いや……。
Ａ　こいつこそ何なんだよ。爺のクズっぷりの一つはこいつがいたからなんだろ。違うか？
Ｂ　てかまずファッションセンスよ。
Ｃ　仲良くなれないタイプです。
Ａ　何だこの帽子。
Ｂ　魔女って感じだな。
Ａ　ホグワーツかよ。
Ｂ　ホグワーツ？
Ａ　あっただろ昔、映画にもなった。
Ｄ　それを言うならハリーポッターじゃ……。
Ａ　ああ……。

　突然Ｂが遮って声を上げる。

Ｂ　あ！　
Ａ＆Ｄ　何！
Ｂ　１か月くらい前に変な電話あったの覚えてる？
Ｄ　何のこと。
Ｂ　まだ入院してた時。
Ａ　忙しくて覚えてない。
Ｄ　あった気もするけど。
Ｃ　あー……。
Ｂ　あれ愛人だったんだ。
Ａ＆Ｄ　ええ！
Ａ　そうなるか？
Ｂ　そうとしか思えない、あの留守電。
Ｃ　なるほど。
Ｄ　何か名前言ってなかった？
Ｂ　みなもと……とか。
Ａ　ん？　ごうだじゃなかったか？　
Ｄ　ええ？
Ｃ　偽名じゃないですか。
Ｄ　何でそんなこと。
Ａ　そういうヤツだってことだろ。
Ｂ　結局名前すらわからないな。
Ｄ　どれか本名なんじゃ。
Ａ　いいよもうホグワーツで。
Ｂ　ホグワーツは変だろ。解約しなきゃよかったな。

　Ｃはスマホを取り出す。

Ｃ　聞きます？
Ａ　は？
Ｃ　ありますよ、こっちに。
Ａ＆Ｂ＆Ｄ　ええ⁈
Ｃ　かかってきたんで。
Ｂ　嘘だろ。
Ｄ　何で知ってるの？　どうなってんの？
Ｃ　教えたんでしょ、あの人。
Ａ＆Ｂ＆Ｄ　……。
Ａ　いや本当、マジでどうなの？　それ。
Ｃ　もう何か本当もう……って感じです。
Ｄ　話したの？
Ｃ　留守電。
Ｂ　何て言ってた？
Ｃ　……まだなんです。なんとなく。
Ｂ　聞いてみるか。

　Ｃはスマホを机の上において留守電を再生した。
　はっきりとしない音量で声が流れる。

ホグワーツ　もしもし……。フジコと申します。以前○○さまの会社でお世話になった者です。○○さまはお元気にされておりますでしょうか？　よければ、こちらに折り返しください。突然のご連絡失礼いたしました。

　４人はスマホの画面を見る。

Ｄ　ふじこって言ってた？
Ａ　フジコは駄目だろ。
Ｂ　そこはほねかわだよな
Ａ　そういうことじゃないけど。
Ｄ　この人、死んだこと知ってるの？
Ｃ　たぶん、まだ……。
Ｄ　知らせるべき？
Ｂ　それは……どうなんだ？
Ａ　嫌だぞ、めんどくさい。
Ｄ　……だよね。
Ｃ　正直このまま無視したいんです、が。
Ａ＆Ｂ＆Ｄ　が？
Ｃ　遺言とか残ってたら厄介だなって。
Ｂ　遺言？
Ａ　いやいやいや。
Ｄ　じいさんがそんなの残せる？
Ｃ　残せないと思います。でも……。
Ｄ　でも？
Ｃ　このアルバム父さんが作ったんですよね？
Ａ＆Ｂ＆Ｃ　……！
Ｃ　父さんは愛人のこと知ってた。
Ｄ　ずっと黙ってたの？　家族に？
Ｃ　恐らく。
Ａ　その父さんが爺を保険に入れてたんだよな。
Ｂ　遺言書だって作らせてたかも？
Ｃ　可能性は……。
Ｄ　でも父さんだよ。こっちが困るようなことする？
Ａ　じゃ何でこんな大事なこと黙ってたんだよ。
Ｃ　……言いたくなかったから。
Ａ　……。
Ｄ　でも愛人なんて、ばあちゃん許さないでしょ。
Ｃ　長生きしてたら、そうだったかもしれません。
Ａ　ばあちゃん……。
Ｂ　遺書、あると思う？
Ｃ　遺書じゃなくて遺言です。
Ｄ　この中に？

　４人はがらくたの山を見る。

Ｃ　すみません、全部仮定です。もしも、です。
Ｄ　いや、もしもだよ。

　Ａががらくたの山にある残りのアルバムを取り出す。

Ｂ　気になる？
Ａ　いや、ばあちゃんが。
Ｂ　ばあちゃん？

　そう言っている合間にＤは次のアルバムを探している。
　４人はそれぞれがらくたの中で思い思いにアルバムを見る。

Ｂ　うわあ。
Ｃ　何です？
Ｂ　いや、いるなあって。
Ｄ　ウォーリーみたい。
Ｃ　隠れミッキーみたい。
Ａ　それ言うなら隠れホグワーツだろ。
Ｂ　何、隠れホグワーツって。
Ｄ　だからホグワーツじゃないって。
Ａ　いいんだよ何でも。
Ｄ　あ。
Ａ＆Ｂ　ん？
Ｄ　じじいがネタ披露してる。
Ｂ　するだろ芸人だったんだから。
Ａ　あれで？　芸人に失礼だぞ。
Ｄ　それ。いつネタやってたの。
Ａ　見たこと無いよな。
Ｂ　……言われてみれば。
Ｃ　芸人だって言ってたの本人だけですよね。
Ａ＆Ｄ　そうそう。
Ａ　どんなネタやるのかも聞いた事ないし。
Ｄ　でも仲間っぽい人はいたよね？
Ｃ　いましたね、電話とかもしてた気が。
Ｂ　パチンコと競馬の話しかしてなかったくない？
Ａ　芸人仲間とな、たぶん。
Ｄ　後は謎の販売網の話。
Ａ　あったな。何だっけ？
Ｄ　名前は忘れたな……象を輸入して売るやつ。
Ｂ　酷いな。
Ｃ　まあ昔の芸人さんですね。
Ｄ　それは偏見じゃない？
Ａ　でも俺あれ覚えてるよ。無限冷蔵庫事件。
Ｄ　あったね。
Ｃ　いやまだ残ってますからね。

　Ｃは別の部屋に視線をやる。

Ｂ　父さんが止めさせたんだよ確か。
Ａ　師匠のとこまで行ったんだっけ？　師匠から言ってやってくださいって。
Ｃ　元祖自爆営業ですよね。　
Ａ　断れなかったんだろ。
Ｂ　その割には偉そうなじじいだったな。
Ｄ　プライド高いとそうなるんだよ。
Ａ＆Ｂ　あー。
Ｃ　何の写真ですか？

　ＣがＤの元に行く。

Ｃ　……。
Ａ　ああ。式ね。

　いつの間にかＡもアルバムをのぞき込んでいる。

Ｃ　あの人、笑顔ですね。
Ｄ　そうだね。
Ｃ　父さん幸せそう。
Ａ　こればあちゃんかな？
Ｃ　たぶん？　位置的に。

　ＡはＣの顔とアルバムの祖母らしき人間を見比べる。

Ｃ　え？
Ａ　わからんな。
Ｃ　私で比べなくても。
Ｂ　あ。

　Ｂがつぶやくように言う。
　ＡとＣとＤがＢを見る。

Ｂ　これじゃないか。

　Ｂは紙を一枚手にとっている。

Ｃ　まさか。
Ａ　どこにあったの。
Ｂ　こっちのアルバム。最後のページ。
Ａ　何でそんな所に。

　Ｂは３人を見てから一息置いて遺言書を読みだした。

Ｂ　遺言書。遺言者○○は、本遺言書により次のとおり遺言する。
Ａ　ガチだな。
Ｃ　いい加減な方が安心したんですけどね。
Ｄ　何で？
Ｃ　無効って言えるかも。
Ｄ　ああ。
Ｂ　続きいい？
Ａ　どうぞ。
Ｂ　えー、次の通り遺言する。第一条。遺言者は、遺言者の有する下記の預貯金を、孫である……。
Ａ＆Ｄ　いやいや。
Ａ　待てって。
Ｄ　無いじゃん。
Ａ　貯金無いじゃん。
Ｂ　全然無かった？
Ｃ　ありません。残高はゆうちょに１０１６円、以上。
Ｄ　え、そういうボケ？
Ｃ　だとしたら本当腹立ちますね。
Ａ　売れるわけない。
Ｂ　続けるぞ。
Ｃ　はい。
Ｂ　第二条。遺言者は、遺言者の有する下記の土地と建物を、孫である……。
Ｄ　どうしたの。
Ｂ　いや土地と家は孫にって……。
Ａ　それ何も変わらないな。
Ｃ　見てもいいですか？
Ｂ　疑わなくても。
Ｃ　違います。

　ＣがＢの元に行く。

Ｃ　本当だ。
Ａ　他にある？
Ｃ　あります。遺言者は……。

　Ｃは途中で読むのを止める。

Ｄ　もうどうしたのさ！
Ｃ　遺言者は、遺言者を生前大切に慕っていた人間に墓参することを望む。

　全員あきれて言葉を無くす。
　少ししてＤが口を開く。

Ｄ　え、気持ち？
Ｂ　気持ちだな。
Ｃ　頭痛くなってきました。
Ｂ　大丈夫か？
Ｃ　例えです。
Ｂ　ああ。
Ａ　これで終わり？
Ｃ　はい。
Ｂ　何だったんだこの時間。
Ｄ　まあ、爺さんの遺言見つかっただけ良かったのかな。
Ｂ　何も変わってないけど。
Ａ　むしろややこしくなったじゃん。

　ＡがＤを見て言う。

Ｄ　何でよ。
Ａ　アルバムなんて見だすから。
Ｄ　いや楽しそうにしてたじゃん。
Ａ　してないよ。
Ｄ　ばあちゃん……。

　ＡのマネをするＤ。
　ＡはＤを攻撃しようとする。

Ｃ　けど遺言書見つけたのはナイスですよ。
Ｂ　あのテキトーなのが？
Ｃ　家がこちらで持てるのは間違いないくなりました。
Ａ　いいよ別に。どっかのおっさんの持ち物でも。
Ｃ　だったら今ここにいれませんよ。
Ｂ　今ここにおっさんしかいなかったかもしれないのか。
Ｄ　ええ。やだ。
Ｃ　そういうことじゃなくて。
Ｂ　もしもだよ。
Ｄ　問題はおっさんよりおばさんだね。
Ａ　それだよ、それ。言うと思った。
Ｄ　何が？

　Ａは開きっぱなしのアルバムの愛人に目をやる。

Ａ　なあ、いいか。
Ｃ　はい。
Ａ　こいつがいたからって何なんだ。
Ｂ　何のこと？
Ａ　関係ないだろ。俺たちに。
Ｃ　だと思いますよ。
Ａ　だろ。
Ｄ　この人？

　Ｄもアルバムの愛人を示して言う。

Ｄ　でもボクたちに関係なくてもじいさんにはあるじゃん。
Ａ　いや今は余計なんだよ、それ。
Ｂ　んん？　何が言いたいんだよ。
Ａ　俺たちは何しなきゃいけないの？
Ｃ　家ですね。
Ａ　そう。

　ＡはＤに向かってハッキリ言う。

Ａ　けど今考えてるんだろ。「どうやりとりしようか？」　とか。違うか？
Ｄ　……そうだよ。何がいけないの。
Ａ　まだ爺の尻を拭くのか？　もう十分だろ、俺も父さんも、ばあちゃんも……母さんも。何でまたこうなってんだよ。
Ｂ　言いたいことは……わかるよ。
Ａ　ああ、そう。わかってくれてどうもありがとう。
Ｂ　そうじゃないよ。
Ａ　じゃ何だよ。
Ｂ　会えば絶対ややこしくなる。だから無視したらいい。
Ｄ　……うん。
Ｂ　そう思うんだ。けどもう知ってしまったわけじゃん。その気持ちもずっとここから無視するのか？　それも結局同じじゃん。また我慢し続けるのか。
Ａ　じゃ愛人には思いっきり文句言うか。
Ｃ　ぶつけてどうするんですか。一番の原因はあのじじいなんでしょ。
Ａ　どうだろうな。爺が外に愛人作ってうちの家は壊れてったんじゃないのか。だったらその女も原因だろ。
Ｄ　母さんの原因って言いたいの？
Ａ　そうだよ。
Ｂ　それこそ仮定じゃないか。会って聞くのか？
Ａ　会う訳ないだろ。
Ｃ　……父さんと母さんがもし一緒だったら、ここに住むこともなかったんですかね。
Ｄ　父さんも生きてたのかな。
Ｂ　どうかな。短命家系を継いじゃったのかなって思ってるよ。
Ａ　それは一緒に住んでたやつのせいだって思う俺は終わってんのかな。
Ｄ　ボクもそう思ってるよ。
Ｃ　けど私は結果、ここに来て、そのおかげで今もいる。
Ｄ　その意味では唯一じじいに感謝してるよ。
Ｂ　その最後の願いがこれか。

　Ｂは遺言書を手に取って周りに見せる。

　

　中略　執筆中

　待ち合わせ先の喫茶店で愛人と初対面したＢとＣ。
　彼女は写真で見たのと同じ帽子を被っている。
　どちらとも話が始まることはなく沈黙が続く。
　Ｃが様子を伺いながらまず口を開く。

Ｃ　初めまして。
ホグワーツ　初めまして。
Ｂ　お店お知りだったんですね。
ホグワーツ　ええまあ。あなたも？
Ｃ　はい。祖父によく連れられてきたので。
ホグワーツ　……お孫さん？
Ｂ　そうです。
ホグワーツ　そうですか。
Ｃ　あの、祖父とは。
ホグワーツ　祖父。
Ｃ　どうかされました？
ホグワーツ　いえ、すごくしっかりとされて。
Ｂ　そうですか？
ホグワーツ　あの人のご親戚なら、きっとそうなんだろうなって思っていましたから。
Ｂ　よく知ってらっしゃるんですね。
ホグワーツ　そうかもしれませんね。おれ
Ｂ　この度は本当に……。
ホグワーツ　こちらの台詞ですよ。ご愁傷様でした。
Ｂ　あ、いえとんでもない。
Ｃ　お伝えしておりましたか？
ホグワーツ　いいえ。でもわかります。ご親族の方が来られたということは。
Ｃ　じゃあ単刀直入に。いいですか？
ホグワーツ　どうぞ。
Ｃ　あの人とはどういう関係だったんですか？
ホグワーツ　お互い大切な関係でしたよ。
Ｃ　いつから？
Ｂ　おい。
ホグワーツ　いつでしょうね。あなたが生まれる前？
Ｃ　そうですか。
Ｂ　すみません、取り乱しちゃってて。
ホグワーツ　大変でしょう。お気になさらず。
Ｂ　それはその、そちらこそ。
ホグワーツ　何が？
Ｂ　え？　あー！　大変だったでしょ、あの人。
ホグワーツ　いいえちっとも。大変だったの？
Ｂ　まあ……はい、僕とかはちょっと……。
ホグワーツ　どんなことが？
Ｃ　親が離婚するくらいには。
ホグワーツ　大変ね。
Ｃ　今は全然。笑い話にできますよ。
Ｂ　あー、あの！　ワクチンうちました？
ホグワーツ　うちましたけど。
Ｂ　あ、本当ですか！　ちょっと安心です。僕も接種してて、その……なんか安心ですよね。
ホグワーツ　はあ。
Ｂ　僕、学校で働いてて。って言っても先生ではないんですけど。学校関係は早かったんですよ。僕らみたいな年代でも。
ホグワーツ　お若いんですね。
Ｃ　若いだけで大したことないです。
Ｂ　あ、いやその、あのそういうつもりじゃ。
ホグワーツ　無理に喋らなくていいんじゃない？
Ｂ　すみません。
ホグワーツ　全然似てないのね。
Ｂ　似たいとは思わないですよ……。
ホグワーツ　まあ芸人さんと。
Ｂ　いや芸人っても、本人がそう名乗っているくらいのもんで。僕からしてもいつ活動してんの？　ってくらいの。

　ホグワーツは何も言わずに孫を見ている。

Ｃ　何か？
ホグワーツ　いえ……本当にご家族から人望ないんだなって。
Ｃ　あなたの前ではかっこつけてたんでしょ。
ホグワーツ　そうなの！　気位ばっかり高くてね。すぐ機嫌損ねて大変でしたよ、若い時なんて。
Ｂ　若い時。

　ホグワーツは無視して喋る。

ホグワーツ　でもあたしの方がもっと小娘だったんで。
Ｃ　じゃあお似合いだったんじゃないですか？
ホグワーツ　そう思ってたわよ。
Ｂ　……思ってた？
ホグワーツ　……。
Ｂ　すみません……。
ホグワーツ　どうしてわたしに会うことに？
Ｂ　ああそれが。
Ｃ　単刀直入に言いますね。まあ祖父の関係も大体思ってた通りだったんで。
Ｂ　おいおい！
Ｃ　家です。
Ｂ　え。
ホグワーツ　家？
Ｃ　じゃなかった、遺言を残していたんです。お墓参りしてほしいって。
ホグワーツ　ああ。
Ｂ　変な話ですみません。
ホグワーツ　もういないんですね、やっぱり。姿かたちも、この世に。
Ｂ　……はい。
ホグワーツ　今更実感がわきました。
Ｂ　僕もまだそんな感じです。
ホグワーツ　一緒にしないでください。
Ｂ　すみません。
ホグワーツ　てか何なんです。会ってまでする話がお墓参り？　それだけ？
Ｂ　それだけって。
Ｃ　あんたこそ後から電話かけてきて何なの。わざわざ動いてんだろ。
Ｂ　落ち着けって。
Ｃ　全部こっちでやってんだよ。
ホグワーツ　知らないわよ！　わたしだって昔からずっと向こうの言う通りついてきただけ。奥さん死んでもわたしとの関係も何も変わらなくて、好き放題してても呑み込んで。自分の息子とも仲悪いから？　孫なんかいらないか言ってたくせに。いやそれも知らないし。なのに孫が生まれたらいつも孫の話。
Ｂ　爺さんが？
ホグワーツ　わたしはそれをどんな気持ちで聞けばいいのって。その挙句に今私の目の前にいるのは何⁈
Ｃ　別にあなたがどうなってもこっちは興味ないんで。
ホグワーツ　わたしもあなたは嫌い。
Ｂ　いや今日は本当そんなつもりじゃ。
ホグワーツ　お墓参り、結構です。それじゃ。

　ホグワーツは自分の分を千円置いてそのまま帰ってしまった。

Ｃ　まだ注文してないし。
Ｂ　どうしてあんな言い方。
Ｃ　腹立つ。
Ｂ　子どもじゃないんだから。
Ｃ　あの人も、じじいも。

　そう言ってＣも足早に席を立つ。
　Ｂはホグワーツの置いていった千円を取ってから席を立つ。
　場面は家に戻る。
　また４人が集まっている。

Ａ　傑作。胸スカだわ。
Ｄ　スカじゃないよ全然！　どうすんの。
Ｃ　どうするんです？

　ＣはＤを名指しするように言う。

Ｄ　それは、その……何か言ってよ！
Ｂ　え？　あ、うん……。
Ｄ　は？　何？
Ｂ　本当にホグワーツだったな。
Ｄ　もう！
Ａ　相当気に入ってんだな。
Ｃ　じいさんがプレゼントしたんじゃ？
Ａ　どこで売ってるんだよ。
Ｃ　ＵＳＪ。
Ａ　ＵＳＪできる前から着けてたぞ。
Ｄ　いいよもう、ファッションセンスのことは。