台本を公開しながら更新して完成させてみる~『セカンド・ライン』という台本~

 喪服を着た4人組が部屋に入ってくる。
 部屋に一か所がらくたが山積みになっている場所がある。
 一息つくと4人は話を始める。

A 最後まで手がかかったな。
C お疲れ様でした。
D あの人が静かに死ぬわけないよ。
B 変に長引かなくてよかったんじゃない?
D 本当それ。
C とはいえ手続き地獄です。
A あんな爺さんが保険まで入ってるとは。
B カードは停めたっけ?
D うん。
C 年金もやってます。
A 早いな。
C まあ病院入った時には考えてたんで。
B 容赦ないねー。
C ただの事務処理じゃないですか。
B もっと片付けてから逝ってくれたら楽だったな。
C そうですよ。
A できるわけないだろ爺(じい)に。
B 結局周りが何とかするんだよな。
D まあこういう時は誰だって。
C 私あの部屋嫌いなんです。
B 昔からずっと汚いからな。
C 順調に蓄積されてましたよ。
D ベッドのある床沈んでたよね。
A マジ。
C 壁の色とかエグくないですか?
B わかるわー。
D もし家で死なれてたら……。
A 病院にゃ悪いけど爺(じい)送り付けて正解だな。
C そう思ってます。
B じゃあまあ保険様様か。
A 父さんだよ。その辺全部けつ持ってたんだから。
C そうです、感謝するならそっち。
A あの爺(じい)何もやらないからな。
B まあまあ、そんで……気持ち固まった?

 B以外は一瞬黙る。お互いを見たり部屋を見渡したりする。
 少ししてDが口を開く。

D 家かあ。
C 税金とか関わりますよね。
B どうしたい?
C だから早めに整理したいです。
A けど四十九日とかあるよな?
C いや、それは問題ないのでは。
A&B&D え。
D そうなの?
C 納骨したんで。
A あ、そうか。
B そういうもんなの?
A そういうもんでしょ。
B でもそしたらどこ住む?
C はい?
B ここなら金かからないじゃん。
C え、まだ住むんですか?
B せっかくあるんだから。
A&C いや……。

 今まで黙ってたDが呟くように言う。

D この家かあ。
B 何どうしたのさっきから。
D いざってなると……やっぱり。
A ここでノスタルジーは一番やばいって。
D でも。
A 区切りつけないと。分かるだろ。
B やっぱ出ていくしかないか。
C 今ちょっと手に追えないですよ。
A そうだよ。それこそお金だって。固定資産税とか?
C 相続税です。
A そうそれ。
B でも税金掛かるほどの値打ちあるか?
A 往生際悪いな。
C むしろ値打ち無いからです。
D そこまで言わなくても。
B なあ。色々複雑なんだよ。
D いっそ悪い思い出ばっかりだったらな。
A おい。今それは違うだろ。
D ごめん。
C けど実際問題決めないと。
A やだろヤニ部屋のある家は。
B 無駄な部屋あっても持て余すか……。
C この際ですから。いい機会ですよ。
A そうそう、タイミングなんだよ。
B そうだな。
D ……わかった。
C 資料あるんで、流れ説明しますね。
B タイミング。

 Cはファイルを用意し書類を出そうとするが、肝心の資料は見当たらない。

A どうした?
C いや……。
B 無いの?
C この家にはあるはず。
D 印鑑探した時に紛れてない?
C ですかね。ちょっと探します。
D 手伝うよ。

 CとDはそう言ってがらくたの山をあさり始める。 

A なんであそこに固めてんの?
B 後で色々売るからって。
A いや、無い。それは無い。

 Cが呼びかける。

C すみません、ありました。お騒がせしました。

 Dは老人のようなしぐさで一冊のアルバムと巨大なハリセンも持ってこようとする。

A 今いらないから。
D じじいの真似。
B わかったわかった。てかそれ何?
D なんかさ。部屋あさったら出てきたんだよね。
B アルバム?
A 爺(じい)らしくない。
C 父さんが作ったんでしょ。
B じゃあばあちゃんのもあるかな。
C あー、後で探しますか? 結構あるんで。
B いいよ別に。
D あのさ、家があるうちに見とかない?
A 今?
D お願い! 見たら家を処分する決心つくから。
A わかった。約束しろよ。
D うん。

 Dはハリセンをがらくたが溜まっている山に置いてから、皆の元に来てアルバムを開く。
 そして4人アルバムをで囲むように見る。

D 者ども焼き付けよ。
A 自分だろ。
C 結構綺麗に残ってるんですね。
D 爺さんの髪も残ってる。
B 一番どうでもいい。
A 旅行っぽいのが多いな。
B 海好きだったのかな。
D 東京ドームだ。
C いつですかね。
A 1988……巨人阪神戦……もしかして!
D 何?
A 東京ドームのこけら落としじゃん!
B マジ⁈ 
D よくわかったね。
A 巨人ファンなら当然。
B なるほど。
A ……実は爺が昔自慢してた。
B あら。
D でも覚えてないよ。すごいね。
C じゃ一緒に写ってる若い人。
D 父さん?
A&B&C おおー。
C えっと、同い年くらいですかね。

 DはBに向かって言う。

D ちょっとそこに立って。
B 比べようとするなよ。
A ってどんどん逸れてる! 終わらないぞ。
D なんか楽しくなってきて。
A サクサク見る! サクサク。
D 楽しんでたじゃん。
B なんだよサクサクって。

 Bは小声でつぶやく。

A 文句あるんならはっきり言えよ。
C ちょっとこれ!

 CがA、B、Dに呼びかける。

A 何だよ!
C めくって行ってください。
A はあ?
D あ。
C わかります?
D うん。
B 何が。
D この人誰。
A&B え。
B うわ。本当だ。
A ……愛人。
D 知ってたの⁈
A そんなわけあるか。けど……爺ならやる。
C あの人。
B 本当に愛人か?
A じゃなきゃこんなに写真一緒に撮るか。
D 妹ってことは?
B 隠し子!
A 距離感。

 Aは別の写真を見て言う。

B う……。
D でも、もしかしたら。
C 無理。
A え?
C どっちにしろ無理。
A それな。
D いやでもこの人だって。
C だって何ですか?
D いや……。
A こいつこそ何なんだよ。爺のクズっぷりの一つはこいつがいたからなんだろ。違うか?
B てかまずファッションセンスよ。
C 仲良くなれないタイプ。
B 魔女って感じだな。
A ホグワーツかよ。
B 何それ。
A あっただろ昔、映画にもなった。
D それを言うならハリーポッターじゃ……。。

 突然Bが遮って声を上げる。

B あ! 
A&C&D 何!
B 1か月くらい前に変な電話あったの覚えてる?
D 何のこと。
B 爺さんが入院してた時。
A 忙しくて覚えてない。
D あった気もするけど。
C あー……。
B あれ愛人だったんだ。
A&D ええ!
A そうなるか?
B そうとしか思えない、あの留守電。
C なるほど。電話すぐ解約して正解でした。
D 何か名前言ってなかった?
B みなもと……とか。
A ん? ごうだじゃなかったか? 
D ええ?
C 偽名じゃないですか。
D 何でそんなこと。
A そういうヤツだってことだろ。
B 結局名前すらわからないな。
D どれか本名なんじゃ。
A いいよもうホグワーツで。
B ホグワーツは変だろ。電話捨てなきゃよかったな……。

 Cはスマホを取り出す。

C 聞きます?
A は?
C ありますよ、こっちに。 
A&B&D ええ⁈
C かかってきたんですよ。
B 嘘だろ。
D 何で知ってるの? どうなってんの?
C 教えたんでしょ、あの人。
A&B&D ……。
A いや本当、マジでどうなの? それ。
C もう何か本当もう……って感じです。
D 電話出たの?
C こっちも留守電。
B 聞いた?
C ……まだなんです。なんとなく。
B 聞いてみるか。

 Cはスマホを机の上において留守電を再生した。
 はっきりとしない音量で声が流れる。

ホグワーツ もしもし……。フジコと申します。以前おじいまの会社でお世話になった者です。おじいさまはお元気にされておりますでしょうか? よければ、こちらに折り返しください。突然のご連絡失礼いたしました。

 4人はスマホの画面を見る。

D ふじこって言ってた?
A フジコは駄目だろ。
B そこはほねかわだよな
A じゃなくて!

 Aは開きっぱなしのアルバムに目をやる。

A なあ、いいか。
C はい。
D どうしたの?
A こいつがいたからって何なんだ。
B 何のこと?
A 関係ないだろ。俺たちに。
C だと思います。
A だろ。

以降 続く。

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