見出し画像

ワイルドベタ(原種ベタ)飼育『失敗しない』ための5か条

はじめに

ワイルドベタ(原種ベタ)飼育について、「こうした方がいいよ!」みたいなHow toはたくさん存在するのですが、有益な情報としてまとめるは非常に難しいと感じています。というのも、SNSで交流していてもたびたび感じるのですが、飼育者によって流儀のちがい、手法の向き/不向きが多々あり、おすすめした方法がその飼育者のセンスや環境に合うかわからないのです。また僕自身も今後言うことが変わる可能性が大いにあります。

ただ「最低限こういう失敗には気をつけなはれ!」は確実に言えることがいくつかあるし、発信した方が有益だということに気づいたので、記事にまとめることにしました。

今回は「まず殺さず」「なるべく状態の良さを保ちつつ」「育成・飼育する(繁殖はまた別)」あたりに焦点をしぼって、なるべくシンプルに解説します。……するつもりでした。当初はね。で、結局悪い癖が出て長くなってしまったので、時間がない人は1〜5の見出しだけ3回復唱しましょう!

1.絶対に跳び出しさせない

基本中の基本です。が、水槽からの跳び出しでワイルドベタを殺してしまう飼育者のなんと多いことか。ワイルドベタ全般、ほんとうによく跳びます。それも驚いて跳ぶとかではなく、脱出できるすき間を明確に狙って跳びます。

フタにハエが止まっていたりすると、猛然とジャンプして食おうとする。
ベタには水中から水面上がよく見えているのだろう

跳び出しをふせぐ方法ですが「すき間をなくす」一択です。「落ちつく環境を用意する」とか「水面に水草を浮かべる」とかじゃダメです。今は大丈夫でもいつか跳ばしてしまいます。また大型種では数十センチくらい平気で跳び上がることができるので、60cmレギュラー程度の大きさの水槽では「水面を下げる」もまったく現実的ではありません。

拙記事で恐縮ですが、跳び出し対策と、完全に跳び出しを防ぐフタの自作方法についてまとめた記事がありますのでご参考に。

上記リンクで作り方を紹介している水槽用フタ

2.アカン状態の魚は買わない

ワイルドベタは、飼い始めるのが「状態のよい魚かそうでないか」によって、飼育の難易度が天と地ほども違います(繁殖も)。ベタ属の中でも、とくにユニマクラータグループの魚などは顕著です。初心者のうちは、ほしい魚でも状態が悪ければあきらめるのが賢明です。

どんな魚なら大丈夫か

「具体的にどんな魚なら安心か」「外見や動きにどんな兆候が出てると危ないか」については実は別で書きかけの記事があるのですが、ちゃんと伝わるようにまとめるのがたいへん難しく、筆が止まっております(ごめんちゃい)。

ベタ・ユニマクラータ (𝘉𝘦𝘵𝘵𝘢 𝘶𝘯𝘪𝘮𝘢𝘤𝘶𝘭𝘢𝘵𝘢)"Melak"の♂。
動きも姿勢も体型も体色も見るからに大丈夫な魚ならまず大丈夫

言うまでもないですが、あきらかに病気を発症している魚は基本避けます(ある程度ウデに覚えのある飼育者が自己判断でやるのは別)。

あきらかな病気でなくとも、素人目にみても状態が悪そうな個体は初心者が手をだしてはいけない個体である可能性が高いです。

ワイルドベタ飼育の初心者が(意図せず)状態の悪い魚を買ってしまうのはいろいろな面で不幸なことです。個体を生かせなければ本人もショックです。立ち上げるスキルのある飼育者なら、もしかしたら生かせたかもしれません。また販売店に良い状態の魚を求めることは、状態が良くないと安くても売れない、良ければ多少高くても買うというニーズ指向につながり、ひいては販売店も輸出業者も魚一匹一匹を大切に扱うことにもつながります。

ワイルドベタの飼育自体初めてであまり自信がないという方は、ブリーダーやショップが殖やした個体から飼い始めるというのも手です。

ベタ・アントゥタ (𝘉𝘦𝘵𝘵𝘢 sp.  "Antuta")の自家繁殖個体

3.同居個体同士のケンカに気をつける

ワイルドベタには様々な種、タイプが知られていますが、ほとんどのワイルドベタは♂♀を問わず激しいケンカをする可能性があります。一般にワイルドベタは非常に外傷に強いのですが、それでも致命傷になるくらいやり合うことがあります。

闘争性のとくに高い種類というのはありますし、一般的に♂同士の方が激しい闘争をすることが多いのですが、♂♀や♀♀であっても致命傷になるくらいケンカをすることはザラです。一方で、ずっと同じ水槽でも問題なく暮らし続けるペアもいます。そのようなペアがある日突然牙をむくこともあります。

激しい噛み合いのケンカをするベタ・アントゥタ (𝘉𝘦𝘵𝘵𝘢 sp.  "Antuta")のペア

ようするに、同じ種類でも個体によって、同じ個体でもタイミングによって仲良くできる場合も激しいケンカになる場合もあり、「やってみなくちゃわかんない」というわけです。

繁殖を目指す場合当然♂♀ペアで水槽に入れるわけですが、タイミングが合わずケンカになることは常に想定しておき、いつでもレフェリーストップ・隔離飼育できるようにしておきましょう(セパレーターで区切るとか、予備の水槽を用意するとか、水槽内に虫かごを吊ってその中に入れるなど)。

隔離容器ごしに争うベタ・パリフィナ (𝘉𝘦𝘵𝘵𝘢 𝘱𝘢𝘭𝘭𝘪𝘧𝘪𝘯𝘢)"Bahiton"の♂同士

2、3匹ではなく水槽にある程度まとまった数を詰め込めば攻撃のマトが散ってケンカしなくなるというよく話も聞きます。これはある程度まで事実ですが、弱い個体が常につつかれ衰弱してしまう場合もありますし、そうでなくてもつねに小競り合いが絶えず、ヒレやウロコが大きく欠けて再生しなくなることもあります。もちろん力関係のバランスが取れてうまく行くこともあります。

4.新しめのきれいな水を保つ

餌の残りや魚の排泄物で水質が悪くなりすぎないよう、水換えをしたりフィルター(ろ過器)の設備を充実させたりするのは、すべての観賞魚飼育の基本です。ただ、ワイルドベタは多くの人が思っているより水の汚れに弱いというのは頭の片隅に入れておきましょう。

ベタ・アントゥタ (𝘉𝘦𝘵𝘵𝘢 sp.  "Antuta")は水の汚れにかなり敏感な方だと感じる

水が汚れることで急死するようなことは滅多にありませんが、調子を崩してそこから病気になってしまうことはよくあります。

アピストやコイ科、カラシンなどの小型熱帯魚をやり込んだ人の中には、これらの魚が素晴らしい発色を見せる「こなれた水(古いが汚れてはいない水)」をつくろうとする人が多いですが、ワイルドベタに限って言えば、とにかく新しい水を保つことを心がけた方が失敗がないと思います。

水換えの水質についても、あまりこだわり過ぎるよりは、適切な換水ペースをまもって水が古くなりすぎないようにした方が最初はいいと思います。ただし水温はなるべく近い温度まで合わせましょう。

ろ過器についても、ろ過器の性能に頼りすぎるよりも適切なペースを守って水換えする方がいいように思います。

汚れへの耐性の違い

水の汚れへの耐性はワイルドベタの種類やタイプによって違ってきますが、一般に川の源流部に住むような種類(ユニマクラータグループ、マクロストマ、アカレンシスグループなど)ほど水の汚れに弱く、新鮮な水を好むと言われています。

(同じグループでも種やタイプによって特に汚れへの耐性が低いものもいます。自分の飼いたい種類がどうかは、事前によく聞いたり調べたりして情報収集しましょう!)

ベタ・エニサエ (𝘉𝘦𝘵𝘵𝘢 𝘦𝘯𝘪𝘴𝘢𝘦)などは水の汚れにも水温上昇にもかなり強い

5.状態が悪くなる兆候を見逃さない

2でも書いたとおり、状態の良い魚をそのまま飼うより、状態の悪い魚を立て直す方がはるかに困難です。そのために日常の管理をちゃんとするのはもちろんですが、状態が悪くなって手遅れになる前、もしくは悪くなる一歩手前で異状に気づいて対処しなければなりません。

そのために重要なのは、毎日魚をちゃんと観察することです。具体的に外見や動きがどうなったら調子を崩す兆候なのか?については「経験と勘」が幅を効かせる部分なので説明が難しいのですが、初心者の方はそこを気にしすぎるよりも「とにかく毎日ちゃんと見る」を実践するのが大事なのではないかと思っています。

ベタ・パトティ (𝘉𝘦𝘵𝘵𝘢 𝘱𝘢𝘵𝘰𝘵𝘪)

いちおう、調子をくずす兆候として代表的なものを挙げておきます(単におびえてるだけ、という可能性もあります)

  • 餌を食べない、餌への反応がいつもより鈍い

  • 水槽の底や水面でじっとしがち

  • ヒレを閉じている

  • いつもより動きにキレがない、水中でピタッと姿勢制御できてない

明らかな病気の兆候があれば投薬などの処置が必要ですが、何となくだけどいつもより調子が悪い気がする…そんな時やるべきことは何でしょう?そう、3で説明した水換えですね!

★その他

5つと言いましたがあれは嘘だ。もう一つ二つ、ワイルドベタを飼い始めた人がつまずく可能性の高いポイントを書いておきます。

夏場の高水温には注意する

ワイルドベタも熱帯魚なので冬場の低水温も苦手ですが、特に流水に住む種類は、夏場の高水温で調子をくずすことがよくあります。

特に丈夫なグッピーや小型カラシンやコイ科熱帯魚、グーラミィ、アフリカンシクリッドなどしか飼ったことがない場合、夏場に魚が調子をくずすというイメージがわかないかもしれませんが、実は高水温がダメな熱帯魚というのはワイルドベタにかぎらずけっこういます。

ワイルドベタの場合、夏場の高水温程度で一気に死んでしまうようなことはないのですが、長期間続くと餌をたべなくなったり、弱って病気になったりします。個人的な経験からいうと、暑さが続くことによるダメージはジワジワたまるようで、観察を毎日欠かさなくても気づきにくいことが多いです。水温を上げすぎないよう予防が肝心です。

どのくらい高水温が苦手かは種類やタイプによって大きく異なりますが、4の水の汚れに弱いタイプとほぼ被ってると考えてよいと思います。

飼育者が飽きない

なんだか説教くさい、そして自分にとってもブーメランな内容になってしまいますが、飼育に飽きないことは非常に重要です。身も蓋もないですが。

ワイルドベタをやる人には、飼うからには繁殖まで狙おう、繁殖させた個体をきれいに育ててやろうというモチベーションを持った熱心な方が非常に多いのです。が、一方でたくさん集めたあげく飽きてやめてしまう、という人も数多く見てきました。僕自身2007年あたりから5-6年ほどやっていて、その後住宅・生活事情により継続が難しくなりって中断し、2019年に再開したばかりなので人のことを言えないのですが、当時から交流していた人の多くはワイルドベタ飼育をやめてしまいました。

2011年頃に飼っていたベタ・マンドール(Betta mandor)

人の好みも生活状況も移ろいゆくものなので、こればかりは他人がどうこう言っても仕方ないのですが、どうせ飼うなら長く楽しみ続けたいものです。

ワイルドベタは種数も種内のバリエーションも非常に多く、良くも悪くもコレクション性の高い魚です。ですが、生き物として当然世話やケア(それも結構繊細な)を必要とします。短期間に増種してしまうと、仕事やプライベートが忙しくなった時に世話が追いつかなくなる可能性もあります。時間やモチベーションが不足した時にもなんとか無理なく世話できる範囲にとどめておく、というのは無理なく続けるコツその壱です。

また言うまでもないことですが、ワイルドベタ飼育の楽しみは種数を集めるだけでなく、より良い飼育環境を追求したり、飼育方法や機器について工夫したり、現地風のレイアウトを組んで飼ったり、より良い繁殖個体を育て上げることにこだわったり、それを愛好家同士で交換したりと様々です。経験上、短期間にすごい種数を集めるベクトルのみで突っ走る人には早々に飽きる人が多いです。持続可能性の観点から考えても、今後野生個体の流通が難しくなっていく中で、集めるだけ集めるという楽しみ方以外の道を見出していくことは必須だと思います。

まとめ

ワイルドベタを長くやってる人は、1〜5のうちだいたい4つか5つで失敗して後悔したことがあるのではないでしょうか。部屋ごと水温管理をしていない人は、その他で書いた「夏場の高水温」にも要注意です。

最後の「飽きない」は……これは飼育How toではありませんね。でもどっかで絶対書いておかねばならない話だと思ったので、騙し討ちのような形で入れてしまいました。すみません。

僕はワイルドベタ飼育が趣味としてガンガン広まってほしいとは全く思ってませんが、ただ憧れを抱いて飼い始めた人が、少しでも上手に飼えるようになればいいとは本気で思っています。その一助に少しでもなればと思って書きました。

とりあえずみんな、魚は跳ばさないように気をつけようぜ…!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?