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【REVIEW】THE FULL TEENZ『ハローとグッバイのマーチ』

THE FULL TEENZ ハローとグッバイのマーチ


京都在住の3人組、THE FULL TEENZ。メンバー自らが運営するレーベル"生き埋めレコーズ"より2014年に発売した8曲8分のEP『魔法はとけた』500枚をソールド・アウト、インディレーベルI HATE SMOKE TAPESからは「swim!swim! ep」を発売し、2015年にはNOT WONKとツアーをともにした。

エンジニアにHomecomingsなどを手掛ける荻野真也、ミックスにはKilikilivilla主宰/元銀杏BOYZの安孫子真哉を起用し、満を持して完成させたこの一枚は、セカンド・ロイヤル・レコーズよりリリースするファースト・フル・アルバムだ。

伊藤「このバンド自体は僕が中学生の頃からやっているんですよ。15歳のときから自分のメロディーセンスとかは変わってないし、今作にも高校生の頃からやっている曲も収録しています。」

中学の学祭に出るために銀杏BOYZやHi-STANDARDのコピーを始めたのをきっかけにバンドを結成。インディレーベル3P3Bに所属していたASPARAGUS、bed、SHORT CIRCUITらを好んで聴いてたという学生時代、17歳の時に足に運んだインディレーベルI HATE SMOKEのイヴェントに出演していたSEVENTEEN AGAiN/THE SENSATIONS/フジロッ久(仮)/BALLOND'OR(当時Apricot)のジャンクなパンクに衝撃を受け、大学以降に現メンバーの佐生と菅沼の2人をメンバーに引き入れ、独自のパンク・スピリットを放出している。

今作『ハローとグッバイのマーチ』にはその独特なサウンドスケープが封じ込められている。リヴァーブやコーラスをガンガンに効かせたギターサウンドが2分間で消え行くパンクのスピード感で駆け抜ける、その姿は、とかくファズ/オーバードライブ/ディストーションといったエフェクターに頼りがちな(あるいは直アンを好む)他のパンクバンドとは、やはり大きく趣を異にしている。

1曲目「PERFECT BLUE」は、彼らから聴くものへの挨拶代わりの一撃であり、名刺代わりの代表曲と言えよう。「(500)日のサマーバケイション」「Red Shirt」「Mess」などは2分以内、ともすれば3分を超える曲が3曲のみ。

2ビートの感覚で2分も持たずに走りきるショートパンク、PIZZA OF DEATH界隈のメロコア的テクスチャー、WAVVESやCloud Nothingsらのガレージ・パンク、ASPARAGUSのギタリスト渡邉忍に影響を受けたであろうコード進行のオシャレさは80'sシティポップのようなメロウさにもつながっている。様々な音楽を聞き好んできたという伊藤の音楽的嗜好が、13曲30分間に詰め込まれた1作であろう。

ただかき鳴らすのではなく、PIZZA OF DEATHのような歌モノのパンクスとしての姿を保ち、理性的に詞を届けようとするスタンスで、リヴァーブ・サウンドに激情をこめて掻き鳴らしている。しかもこれだけ歪んだギターサウンドのなかでも、歌声はハッキリと聴こえてもくる、ミックスエンジニアを務めた安孫子真哉と荻野真也の絶妙な手腕を感じずにはいられない。

最終曲「ビートハプニング」では「自分が誰かに影響するなんて 思ってもみなかったでしょう?」というフレーズを歌い上げるが、頭から聞いてきた人ならばドッキリとさせられるだろう。

「PERFECT BLUE≒完璧な青」からミニシアター系映画の名作をモジッた「(500)日のサマーバケイション」の流れに言うに及ばず、今作の詞から浮かび上がる光景は<青春の1ページ>ともいえようシーンの数々、それもとびきりの妄想が膨らんだ、絵に描いたような恋愛風景と失恋を描いている。

そういったテイストの作品の最後に、<自分が誰かに影響するなんて 思ってもみなかったでしょう?>と歌い上げる、それは一人悶々と暮らしている中でも他の誰かが常にいるという現実を示しているし、ある意味では白昼夢のような空想よりも、小説よりも奇なりな現実を生きろというメッセージにも見える。

そして伊藤にとっては、自身の青春を込めて高校の頃からずっとやり続けてきた曲が、誰かの心へと突き刺さっていく現況を、振り返るようなタームにもなっている。身勝手気儘勝手な自分ではなく、誰がために成る自分へと進む、今作の最後はなんともほろ苦い成長譚として終わるのだ。ティーンエイジブルー、モラトリアム、青春とバンド、子供から大人へと変わっていく姿を移したパンク作品は確かに数あれど、この2017年にここまで『きらびやかなパンクス』が出てくるなんて、思ってもみなかったでしょう?


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