『PERFECT DAYS』

たまたま映画館の近くまで来たので、今年絶対観るべき映画として心に刻んでいた本作を鑑賞しました。


※以下、ネタバレを含みます。



『PERFECT DAYS』内容


トイレ清掃員として働く平山。
特別なことはめったに起こらないけど満ち足りた日々を送る彼の、日常とたまに起こる非日常を描いた作品。
この作品のあらすじはただそれだけ。


『PERFECT DAYS』感想

まず言っておきます。
役所広司、最高でした。


邦画を観る良さというのは、そこで描かれていることに現実味があるのかフィクションとして捉える作品なのかということを感覚的に理解できることだなぁと思う。
この映画については、どちらかというと前者のパターンで、現代日本の中で、教科書的な幸せを実現するレールから横道にそれて生きている人の価値観をすぐそばにある日常の中に感じ取れる作品だと思う。

ただ、「どちらかというと」とただし書きしたとおり、フィクション染みたところも拭えない。
古典的「ジャパン」要素は登場しないものの、近代日本人が体感的に感じている「古き良き日本」というような要素(缶コーヒー、温泉、ガード下の飲み屋、スナックなど…)がふんだんに詰め込まれており、やや前時代的なノスタルジックさがある。その辺は外国人監督が描いたゆえのファンタジーが垣間見える部分と感じた。

また始め、主人公の生活がまるで生活感がなく、違和感があったのだが、そこもファンタジーさを補強する要素かと思う。
ただ、何でもない日常を送っている人々へのエール、というのがこの映画のテーマだとすると、ある程度の陶酔できる余地は必要だし、その点がこの映画のスルメ的な魅力の源泉ではないかと思う。


さて、内容の話。
「世界は一つではなく、この世に存在しながら違う世界を生きている者同士がいる」というような話には非常に共感するところがあった。

実の妹(や父親)という生まれながらの家族との世界線の違い。
それは人生で多くの人にのしかかって来る重い重い命題で、きっと多くの迷いや試行錯誤や気付きを経て彼はこの人生を選んだのだろうなというのが瞬時に理解できたシーンだった。
(妹とのシーンがあり、彼の生活感の無さややけに文化的な生活も合点がいったのでその作りも絶妙)


映画を見ていてちょこちょこ挟まれるモノクロのシーンについて、他の方の考察を見る前に考察してみる。

何物にも揺るがされたくない自分の世界。
だからこの生活を選んだ。
結婚しないのか、
こんなところで暮らしているのか、
そのような好奇や落胆の目で見られることよりも、自分の理想の世界をただ維持することが彼の唯一の望み。

しかし、淡々と刻まれる日常の中にも、ときたま想定外の非日常が発生する。

平山の住む世界とは別の世界の住人からの干渉だ。
彼らは必死で何かを実現しようともがいていて、時には平山に熱のこもった何かを投げかけてくる。

そんなとき、平山の心はざわつく。
自分とは関係のない世界と線を引いたはず、なのにまだ未練があるのか、そちらが気になるのか。

自己の構築した理想の世界線と他者の生きる世界線、その狭間で揺れ動き、ときには迷いながらも、きっと彼はこの生活を続けていくことだろう。
人生に答えなどないのだから。

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