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4/17 トラブル②

ここまでのロングドライブの間、とにかく景色に変化がなく、ほぼ真っ直ぐに50キロくらい先まで見えてそうなひたすら広い空間。あまりにも単調なわりに道幅は結構狭く、対向車との間には白線一本しかない。どの車も時速は110Kmから130Kmくらい出してるので、大型タンクローリーなどとすれ違うときなどは車高の高いキャラバンなので思いっきり風に煽られ恐怖を感じる。
景色が単調なせいもあり、ディープな睡魔が襲って来る。危なっかしいので運転を変わってもらった。
助手席でnoteの記事を書き始めてしばらく経ったときに久々のYの字分岐が表れ、エクスマウスが左と表記されてることにギリギリに気付いたが、車体はほぼ道なりに右に進んでいた。そこから慌てて左にハンドルを切ったので「いやいやいや無理無理無理!」と言ったも遅く、ヒッピーは左に曲がり切れず側道に外れ電柱を避けて硬いブッシュに突っ込んで止まった。
どこも痛くない。
ヒッピーは?!と慌てて車から飛び出した途端に無数の蝿に襲われる。「ミストかよ!!」と叫び※スティーブン・キング原作の映画ミスト
ネット付きのハットを引っ掴んで被り、周りを見渡すとひたすら地平線だけが見える。そしてもの凄い勢いでキャンパーやトレイラーが走り抜けていく。時間は夕方5時。あと1時間で陽が落ちる。こんな何もない僻地で日が暮れたらまずいまずいまずい…。電波も繋がらない。
ボンネットを開けてみる。液体が入っているタンクが3つ。エンジンオイルと冷却水とウォッシャー液か。エンジンオイルが漏れていたら運転すると引火する危険性がある。冷却水だったらエンジンが冷やせずにオーバーヒートする。
どれが漏れているかわからなかったが、ピンク色でサラサラしているので多分冷却水と思われる。
試しにイグニッションキーを回してみるとすんなりとエンジンはかかった。
走ろう。少しでもエクスマウスに近づこう。と再び車道に戻った。
これまで100〜110キロで走ってたが、怖いので80キロをキープして走った。
2人とも無言…。
後続車は全て追い抜かせて慎重に走った。1時間走れば80km進む。ナビを見ると残220km…。結構な距離である。うちから名古屋くらいか…。
日没の18時になる頃、周りの景色に巨大なオブジェのような蟻塚が現れ始める。高さ3〜4mはありそうな大きさだ。左にも右にもたくさんの数の蟻塚が見え始め、夕日に照らされ赤くなっている。空は日が落ちた後の素晴らしいグラデーションに変わり、蟻塚たちのシルエットがまるでイースター島のモアイ像のように見えてきた。美しい空の色と地平線まで続く無数のモアイ像の景色の中、いつ飛び出して来るかわからないカンガルーに身がまえ、いつ止まってしまうかわからないエンジンに怯え、街灯のない暗い道に反射板だけが浮かぶ非現実的なシチュエーションに頭が完全にトリップしていた。
思いの外走り自体は前と変わらず普通に走る。残り100kmくらいになり少しずつ車内に会話が戻る。今夜はこの旅唯一の宿が待っていた。チェックインは18時だが琢磨太一が先に着いてるので大丈夫だろう。
エクスマウスまで50kmに近づいた。たかが50kmだが、家から上野までの往復はある。まだまだ遠い。これからの問題は急に止まることになった場合、車道で止まったら命取りなので、側道に止まれる場所がある所で都合よく停まれるか。
「あと少し、あと少し!」と心の祈りも届かず、ガタガタと異音が響いてきて、やや焦げ臭い匂いが車内に溢れてきた。「まずいまずいまずい!」と言いながら側道に停まれる場所を探した。ハンドル前のパネルに次から次へと警告サインが点灯し初め、熱がHに振り切りエンジンが止まった。
エクスマウスまで20kmという地点だった…。
地図で確認すると偶然にも皆既日食のセンターラインにスタックしたことが分かった。
さいあくこのままここで見ることもできる。

光も音も止み何もない僻地にポツンと残されたヒッピー号。ただ相変わらずすぐ横の車道にスピードを上げた巨大な車たちが轟音と共に通り過ぎていくとその度に風圧で車体が揺れる。
外に出てみると、とんでもない満点の星空が広がっていた。

途方に暮れ椅子を外に出し、満点の星空を見上げた。流れ星が見えた。ここまで心が動かない流れ星も初めてだ。
エクスマウス直前20kmでスタックしたことをグループメッセンジャーで琢磨太一に伝えるとともにレンタカーショップと車体を提供しているアポロという会社に現状をメールした。
不幸中の大きな幸は電波が届く場所まで来たということ。モバイルwifiのおかげでネットが通じる。まさにライフライン。
琢磨太一とメッセージのやり取りができることが心強く、とにかくレンタルショップとロードサービスに電話したほうがいいと言う。
そもそも車を借りるときに、宿のチェックインまで時間がなかったので焦ってたこともあったが、車に関する説明はゼロで、何かあったらどこに電話しろ、といったことも聞いてなかった。
ヒッピーの具合がどれほど深刻か分からなかったので、自宅の隣の車修理工のヒロさんにメッセージしてみたら電話をくれた。
冷却水のタンクに水を入れてエンジンがかかるかどうか。そこまで走ったらエンジンが死んでる可能性があることを知る。
慌てて水を入れてキーを回したらエンジンがかかったので走らせてみる。1.5リットル水を入れて
30mくらい走ってすぐオーバーヒート。
この分だといくら水を入れても20キロは走れなさそうだ。
1時間後くらいに琢磨が車で来てくれることになり、その間に食材のことを考える。
車が止まると電気が止まり、充電ができなくなり、冷蔵庫の中がダメになる。
自分のiPhoneは48%、iPadは60%、モバイルバッテリーは80%。wifiのルーターも充電が必要。
2人の充電具合を見て、どう温存するか考える。
明日になって万が一ヒッピーを手放すことになったら、そこそこ買い込んでる食材をどうにかしなければならない。とっておきのオージービーフのステーキやハンバーグ用の分厚い肉。卵などなど。生物はダメになる前に調理しよう、ということになり、夜中、荒野のど真ん中で満天の星の下肉を焼いた。ただ、オージービーフのステーキは食べる活力がなく、野生の動物の餌とした。
琢磨が来て右往左往してる我々にアドバイスを残して帰って行った。やるべきことが見えてきたこともあったが、いかんせん我々に足りないのは英語力。ある程度適当には喋れるが聞き取りが半分くらいしか理解できない。それも電話だとなおさら。保険のことなどシビアな話になるのでできるだけ電話ではなく、慎重に文書を作ってメールでやり取りした。
とにかく疲れ果て、少し寝ることにした。





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