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昨年イタリアのコロナ禍で生活が一変し始めたアーモンドの花咲く頃、新居を購入した。1年前から仮契約も終えて、手付けの支払いも済んでいたが、コロナのニュースが出始めた1月頃、決済方法を巡って諸問題があり所有権の移転まで至らなかった。それから待つこと数ヶ月、まったく人影もいなくなったフィレンツエの街中を夫と二人、許可書携帯、厳重装備で所有権移転登記をしにいった。街はそれまでに感じたことのない澄んだ冷たい空気に包まれていた。花の都フィレンツェは、その昔ローマ帝国に支配されていたころか

    • なぜフィレンツェにルネサンスが興ったのか

       朝顔が朝の清清しい光で咲くのではなく、冷たい空気と夜の闇の長さで大輪の花を咲かせるということを実証した研究論文を読んだことがある。何十年も前のことだった。当時は、さして気に留めることもなく、こうした研究に熱心また真摯に取り組んだ研究者に賞賛の念を送ると同時に、「お疲れ様」というなんだか苦笑にも似た偽オタク崇拝の念に駆られた記憶があったことは否めない。バブル時代を疾走した我ら60年代生まれの中堅者は、清貧とか実直とか堅実といった理性を無意識のうちに回避しながら、享楽と希望に虚

      • 締切って大事よね

        お疲れ様です! という挨拶で始まる、日本のビジネスメール。昨年はコロナ禍でフリーランス業務がほぼ90%キャンセルになるという前代未聞のお仕事事情であったが、これも世界共通、何も私だけのことではない。ZOOMだ、リモートだ、オンライン会議だと、聞きなれないビジネスツールも覚えた。「コロナが収まったら」という想定句のもと、今後の方針や対策を検討しながら先のビジネス・プランを考えるのだが、どうも今までと大幅に違う何かがある。  そう、具体的なスケジュール、締切がないのだ。 締切

        • 21世紀ルネサンス

          2020年。誰もが想定外の出来事に翻弄された1年でした。今年でイタリア生活23年めを迎えるのですが、その中でもとにかく一番、重厚な洋紙に手書きで書かれた開封厳重の重い印を押された、そんな特別な古書に書かれた一年であったような感がします。街が銃撃にあったわけでも、暴力に明け暮れたわけでもありません。市民は静粛に、むしろ善良に振る舞い、不安と恐怖を無意識の彼方に追いやろうとしました。ローマ教皇は祈り、コンテ首相は被害を最小限に抑えるための政策を月毎に打ち出してはみたものの、パンデ

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