21世紀ルネサンス

2020年。誰もが想定外の出来事に翻弄された1年でした。今年でイタリア生活23年めを迎えるのですが、その中でもとにかく一番、重厚な洋紙に手書きで書かれた開封厳重の重い印を押された、そんな特別な古書に書かれた一年であったような感がします。街が銃撃にあったわけでも、暴力に明け暮れたわけでもありません。市民は静粛に、むしろ善良に振る舞い、不安と恐怖を無意識の彼方に追いやろうとしました。ローマ教皇は祈り、コンテ首相は被害を最小限に抑えるための政策を月毎に打ち出してはみたものの、パンデミックの波を止めることはできませんでした。私のアパートでも4人の高齢者が亡くなりました。みな私が来伊してから、時には熱い抱擁を交わし、時にはおしゃべりに時間を忘れて共に笑いを共有した人たちでした。それがある日、救急車の来訪と引き換えに帰らぬ人となりました。悲しみにくれる時間も、またお別れのための葬儀もないまま、次の訃報を耳にする。そんな空虚で慌しい毎日が繰り返されたのです。思考を一時的に停止して、日常を観察と受容の時間に切り替えるよう意識的に努めるのですが、ふとした瞬間、例えば茜色に染まった夕焼けの中、フィレンツエのドォーモに雲の切れ間からやわらかな陽光が差し込む様や、人気のないウフィツィ美術館の広場に立つルネサンスの偉人達が満月の光に照らし出された一瞬に、得体の知れない熱いものが胸を押し上げます。

ヨーロッパは感染症の歴史と共に発展してきました。古くはペストに始まり、コレラや結核、破傷風にマラリア。歴史を紐解くと革命や改革は、必ずといってよいほどどん底の社会から生まれてきました。フィレンツエの文化革命、ルネサンスもペストの暗黒の時代を経た後に花開きました。

2021年。それならば、私のルネサンスを始めよう。すべての物事が有限で儚い瞬間の積み重ね。その一瞬、一瞬を記してみたいのです。

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