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法務部員、美大へ行く。 #04 / でもやっぱり法令遵守

このシリーズは、企業法務に従事する筆者が京都芸術大学でデザインを学んだ理由を開陳しつつ、筆者自身があたまの中を整理しようとするものです。私の卒業制作についてはこちら。



1 コンプライアンスでよくきく「倫理」

私はいわゆる「コンプライアンス」領域を長く経験してきました。これは真面目に考えれば考えるほどわからなくなる業務領域です。以下は、規模の大きい事業会社を念頭に置いています。

「コンプライアンス部」が会社に関わる全ての法令遵守を担うわけではないことの方が多いと思います。規模のある会社の場合、商取引関連法令は法務部門、貿易管理法令は輸出入管理部門、労働法令関係は人事部門、プライバシー関連法令はやはりその専門部門…といった感じで、「法令遵守」の担い手はいろいろ重なり合ってます。

ただ、なんとなーく、独立した「コンプライアンス部門」の範囲には一定のコンセンサスがあるとは思います。例えば内部通報、利益相反、贈収賄防止(FCPAなど)、贈答・接待…ようは、ざっくり「不正」防止です。これをふまえて、「コンプライアンスとは法令遵守だけではないのだ」と申します。あるいは、不正のせいで社会的に批判されるところまで先回りして「社会の期待に応えること」とか言います。

なんですが、ここで「倫理的なカルチャーを作ること」なんて応えることがあると思います。

単に不正防止というと窮屈な印象がありますが、「倫理(的な)」という言葉を使う場合、風通しの良い職場とか、ESG関係・サステナ関係などの社会の期待とか、会社やビジネスを良い方向に進めることにつながる、前向きなニュアンスが出るので、確かに使ってみたくなります。倫理的なカルチャーとか行動とかによって、不正防止のゴールも達成しつつ、ビジネスの推進に貢献できる、そんなコンプライアンス活動ができたら理想的です。

2 行動規範、行動指針

日本では企業倫理=法令遵守(コンプライアンス)と取られることもあるが、むしろ法令だけではカバーできない領域を規定することも重要である。法令で明確に定義できる領域でなく、法令遵守だけではカバーできない領域を企業倫理の領域とする考え方もある。

そのためには、自社自ら企業理念や行動指針などで自社としての倫理感、判断基準となる価値観を明確に定義することが必要であり、一方でステークホルダーとの信認関係での権利と義務を明確にすることも重要である。

グロービス経営大学院 MBA用語集 「企業倫理」

適当に「企業倫理」で検索して出てきた定義の1つですが、だいたいこんな感じはします。法令等遵守では対応しきれない領域について「倫理」で対応する発想です(※)。

※「法令遵守」という時、よくある段階別整理(ベン図)は、まず第1に法令、第2に社内規則、そして第3に「社会からの期待」などとして描く倫理の領域です。「コンプライアンス=法令遵守」というとき、第1と第2をまとめて指すように思います。

そこで、「行動規範」「行動指針」というような文章を設け(だいたい抽象度の高い徳目集みたいなもの)、法令等遵守では対応できない領域ではこの文章を参照せよとし、もって「倫理」を実践するとかなんとか整理することになると思います。さらに進んだ会社では、会社のいわゆるミッション、ビジョン、パーパスといわれるような理念レベルにも倫理の要素が入ってきて、事業活動全体の前提に据えたりします。

3 もう少し「法令遵守」にこだわりたい

ですが思うに、これって、遵守するものが「行動規範」ないし「行動指針」に変わっただけで、社内規則やルールを守りなさいと言うのと変わらないと思います。法律が道徳律(?)に変わっただけです。あえて「倫理」だと称する必要があるか疑問です。

なんかこういうコンプライアンスにおけるよくある「倫理」には、「当社の倫理!道徳!」みたいなカタマリがあって、それを従業員の心の中に持ってもらって、いちいち言わなくても自動的に行動規範に沿った行動をしてもらう、みたいな印象があるのですが、これって見ようによっちゃ「ルールを守ってください」よりよっぽど強烈な制約、支配です。

加えて、しかるべき部署が責任持ってルールを制定、改廃、周知、運用していくという定番のコンプライアンス活動に比べて、責任の所在(?)も曖昧になる(個々の従業員の方に押し付けている)気もします。こういう曖昧さを感じさせないようにしつつ、スッと強力なコントロールを落とし込む方法の話になるのかもしれないですが(アーキテクチャとかナッジにはなんかそういう匂いがしなくも無い)。

法、法令、なんというかルールベース(?)の諸制度は、複雑になりやすいため、無いなら無いに越したことない印象を安易に持ってしまいがちですが、権限や責任の所在はハッキリさせやすく、実はよっぽど透明性高く効果的なものを実現できると思います。現に法令も、よくできているものは間違いなくよくできていてます。いまの民法や刑法だって明治の延長ですもん。

なので私は、コンプライアンスには、まだまだゴリゴリの「法令遵守」の部分でできることがある思います。この「THE・法令遵守」を心地よくするためにデザインを使えないかというのが、私の関心です。



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