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法務部員、美大へ行く。 #08 / シンプル vs わかりやすさ


1 その”シンプル”、ちょっと待って

法務コンプライアンス関連の研修資料や、社内ルールの説明資料などを作っているとき、上司にこんなことを言われた(1回ではない)。

  • 「できれば1枚に収まっていた方がわかりやすいよね」

  • 「ちょっとページ数が多い(からわかりにくいと思う)」

シンプルな方がわかりやすいのは間違いない。が、モヤるのは、資料の中身とは関係なく、ただその量とか形態をみてそう言われるところにある。どうも、中身の問題とはまったく独立に、「(量など)形式的にシンプルな方がわかりやすい」という決め込みがある。

私としては、資料の内容や資料の読み手に応じてつくっているつもりだ。たとえば、受け手にとって初出しの情報だったりすれば、大前提の説明が入ってしまい、単純なページ数が多くなる、ということはある。が、それが直ちに「わかりにくい」わけではないと思う。

2 中身との関係で、適切な量は決まる

1ページに複数のテーマを盛り込み、限られた紙面でせいぜい努力すると、おそらく出来上がるのは霞ヶ関ポンチ絵風の資料である。確かにあれはあれで一定の理解しやすさはあるのは間違いない。扱われているテーマに関心があれば。

そもそも対象に無関心な人を惹きつけるかというと、多分そうではない。1枚の大曼荼羅の解読に時間を要し、停滞の感を与えて苦しめてしまうだろう。むしろ、1ページあたりの情報量が少なめで、ポンポン進むほうが、進んでいる感を与え、結果的に早くてかつ気持ち良いこともあろう。

中身(目的や対象者)との関係で、適切な量は決まる。中身との関係で、適切な量や形式を話し合いたいと思う。

3 もし、1枚に入れるとしたら

1枚に入れ込むのに適しているのは、たとえば、取引先スクリーニングのフローなどじゃなかろうか。単純に、調べる手間を軽減するために。

アカン取引先と取引しないために考慮すべき要素は財務的な安定性とか事業の継続性みたいなカネ周りはもちろんのこと、法令違反を引き起こすような相手でないことも確認しなければならない。海外ではFCPA対応(腐敗防止)、日本的には反社会的勢力チェックとかが代表的。

たぶん多くの社内ルールでは、カネ周りは「与信管理規程」とかに、FCPA系は「贈収賄防止規程」とか、反社は「反社規程」とか、それぞれ違う文章になっている。

さらには輸出入管理、地政学リスクの高まりで重要さを増す経済制裁コンプラ、最近どんどん波が来ているサステナ系では人権DDとか、取引先スクリーニングでやらねばならぬことは、どんどん増えている。近年、これらをひっくるめてTPRM(Third Party Risk Management)などと呼ばれ、一大業務領域と化している。

つまり、「取引先がちゃんとしてるかを確認するチェック」という目的はわりとシンプルなのだが、いろんな観点から膨大なチェック項目が降り注ぎ、それらを規律する文章はバラバラで、全部を参照する手間があまりにもかかるという状況が生まれがちであると思う。

このカオスなフローを1枚の紙に押し込むのは、大きなメリットがあると思う。その紙にアクセスする人はそもそもそのフローをなぞらなければならない取引担当者だろうから、「読む気」はすでにある。そういう人にとっては1枚で完結していることの方が、多少濃厚な曼荼羅であっても、ありがたいだろう。

やはり目的に応じた形式というのはあるのだ。


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