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形状記憶合金加工業を家業に持つはるさんが描く、チームワークのものづくり

「家業エイド」で見かけた投稿のなかに、ひときわ目をひく投稿がありました。そこには「形状記憶合金」の文字が。これまで金属加工など素材のジャンルで家業を語る方はいましたが、特定の素材を扱う家業は珍しく、驚きました。聞けば子供向けの教育事業なども手掛けているとか。形状記憶合金加工業を家業に持つ、家業エイドメンバーの、はるさんにお話を聞きました。

祖父が立ち上げ、父が自社事業を作ってきた

──まずは、はるさんの家業について教えてください。

形状記憶合金って聞いたことがありますか?温度などの特定の条件で形が変わる金属のことです。私の家業は、この形状記憶合金を使ったさまざまなものを作っています。

──創業はどなたがされたのですか?現在に至るまでの経緯はどのようなものなのでしょう。

私の祖父が会社を創業しました。この時はまだ下請けをやっていて、架線金物の製造を請け負っていました。二代目の父が、メーカーで働いていた経験をもとに脱下請けし、形状記憶合金を活用した自社事業を立ち上げました。主に釣具ブランドです。釣り具には形が元に戻り、しなやかに曲がる超弾性とよばれる特徴の形状記憶合金がぴったりで、様々な商品を開発しました。このような自社商品を出しながら、お客様の製品の受注も行ってきました。

──なるほど。ホームページを見ると、釣具からヘルスケアまで幅広いブランドを展開していますね。

どれも形状記憶合金の特性を生かしたブランドです。ヘルスケア用品では、コルセットを作っているのですが、コルセットの中に入れる金属に形状記憶合金がぴったりというわけです。

継ぎたくなかった家業に戻ってきた理由

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(形状記憶合金について取材を受ける、はるさんのお父様の様子)

──家業との関わりについてもお伺いしたいです。はるさんが小さなころの家業の印象はどんなものでしたか?

工場と家は別の場所にあったので、工場を間近で見たことがあまりありませんでした。印象といえば、両親が働きに出る間兄弟と一緒に子供たちだけで家で留守番をしていたこと。父も母も家業で働いていたので、両親が戻ってくる7時くらいまでは子供達だけですごしていました。大きくなると、夕飯を作っておいてと言われたり。子供心に大変そうだなあと思っていました。

──継ぎたい気持ちはあったのでしょうか。

いいえ、全然(笑)。大きな会社でも安定した事業でもないので経営が大変そうに思えましたし、特に母からは家業の大変さが身に染みてわかっていたのか、「継がなくていい」と言われていましたから。実際、家業とは関係のない会社で会社員をしていました。

──それがどうして、現在は家業に関わることに?

サラリーマンの主人と結婚したのですが、10年くらい前から家業を継ぎたいという話が出るようになったんです。主人は、「形状記憶合金に可能性を感じる」「株式会社になってから49年と、小さな会社がここまで続いた理由を知りたい」「さらに問題を解決すれば、大きく化ける可能性があると思った」と話してくれました。きっと、私の父も誘っていたんだと思います。

──それで、はるさんも一緒に家業に戻ることにしたのですか?

いいえ(笑)。最初は、「私はやらないからね」と言って家業に戻りませんでした。主人が5、6年前に継いで一年くらいは、主人だけが家業に関わっていて。けれど、その一年後くらいに父と母の体調が悪くなったこともあり、主人ひとりがやるのは大変かなという思いから家業に戻ったんです。4、5年前のことでした。

ワンマンの父と、もの静かな夫

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(はるさんと、代表を務める坂 一宏さん)

──現在はそれぞれどのような役割で家業に関わっていらっしゃるのでしょうか。

私は経理や人事、宝飾関係のお客様の営業をしています。一昨年に代表を交代して、今は父が相談役、主人が代表を努めています。

──なるほど。今の家業での役割分担についてはどのように感じていらっしゃいますか?

父が相談役で残っているので、主人にとっては少しやりづらいのかなという印象があります。父は昔気質のワンマンタイプの社長で、なんでも白黒はっきりつけたがる人。父からみれば、黙っていられずつい仕切ってしまうのでしょう。主人はどちらかというともの静かなタイプで、チームワークを重んじるタイプ。立ち上げをになったワンマン社長の父とはタイプが違うので、意見の対立も多いです。主人はだいぶ我慢しているようにも思えます。私が間に入って解決していけばいいのでしょうけど、なかなか難しいですね。

──そのようなお話は家業エイドの取材でよく耳にします。はるさんがやっている宝飾関係というのは?

アクセサリーのパーツとして形状記憶合金を用いるものです。ワイヤーでできたブレスレットなど”しなやかに曲がるのに形が保てること”が強みになるんですよ。よりユーザー感があるということで営業をやらせていただいているのですが、出来上がった商品を見せていただくととても綺麗で、毎度驚かされます。

──はるさんも、ご自身の強みを生かして家業に関わっていらっしゃるんですね。

そうかもしれません。そして、既存事業に加えて最近では教育分野の事業を始めました。これは私がずっとやりたかったことで、家業にも好きな仕事を持ち込めたのかなという実感がやっと湧いてきました。

自分のやりたいことと家業の関係

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(形状記憶合金LABOの様子)

──教育事業というのは、具体的にどのようなものなのでしょう?

形状記憶合金LABO」といって、子供たちが参加できる科学教室です。形状記憶合金を実際に触ってもらって、見てもらって、科学的に理解したり興味を持ってもらおうという取り組みです。

──なるほど。教育事業は以前から興味があったのですか?

はい。学童保育の指導員の仕事もしていることから、子供と接することも好きでしたし、社会貢献になることがしたくて。実際にやってみると、どのように接していけば形状記憶合金の特性を理解してもらいやすいのかをこちらが勉強させられています。

──それは、どんな風にですか?

やはり、説明するよりもまず実際に触ってもらうこと。それから、他の金属と比べてもらうこと。例えば、形状記憶合金LABOではステンレスとアルミと形状記憶合金をそれぞれ曲げて比べてもらうのですが、そうやって実感してもらうことで素材の特性を理解してもらいやすくなるんです。この気づきを得てから、取引先にも実物をお持ちして、実際に曲げてもらうなどのアプローチを取り入れるようになりました。

──社会貢献だと思っていた事業にも、事業のヒントが隠されていたんですね。

これからの家業について

──これから家業でチャレンジしてみたいことがあれば教えてください。

同じ業界内で私たちの強みは少ロットで、個人のお客様のオーダーも受けられることや、複雑な形状を作る技術があることです。それらを強みに、これから伸びるであろう医療関係の商品や福祉機器の分野で商品づくりができたらいいですね。そして、私たちのビジネスには一緒にものづくりをしてくださるパートナー企業さんが不可欠。うちは金属加工はできますが、製品にするには布地の加工やプラスチックなど他の素材が必要です。家業エイドでも声をあげてみましたが、そういうチームワークを生かしてあらたな商品づくりができたらいいですね。その過程で、主人にも、父にも、やりたいことを見つけてやってもらえたらいいなと思っています。

(写真:はるさんご提供 / 文:出川 光) 

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