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物語のタイトルは最後に

私の名前はカホ。
社会人になって、初めて東日本で暮らすことになった24歳。
新卒2年目の夏もそろそろ終わろうとしている。

『頑張る』って、どういうことなのか。

そう思い始めたのは、高校2年生のちょうど10月頃だった。
受験勉強が本格化し始める頃、私は原因不明の無気力状態に陥った。
今回は、それを社会人になってから人の手を借りて
ほんの少し、克服したお話。

1.失くしたものは『自分』

学生時代の私は、自分で言うのも変な話だが、優等生であったと思う。
ある程度のことなら難なく片付けられたし
勉強も運動もそこそこできて、
同級生からも教師からも何かと頼りにしてもらっていた。
人の期待に応えることが好きだったし、
何より応えられている自分が好きだった。

しかし、その時は突然にやってきた。
自分の頭の中で、プツンと音が鳴った。
その何かの糸が切れたような音が響いた以降は
何をするにも集中力が続かない。
他のことへ意識が行き、目の前のことに手がつかない。
焦れば焦るほど、何もできなくなってしまう。
以前の自分ができていたという感覚だけを残し
できない自分をただただ実感させられる日々は、苦痛でしかなかった。
無意識にできていた何かを「頑張る」という行為ができなくなった。

何が一番つらかったか。
できていたことができなくなることか?
いいや、違う。
急に変わった私を、友人が理解できなかったことか?
これも少し違う。
本人ですらよく分かっていないのである。
だからそれは仕方のないことだ。
何よりも辛かったのは、
自分の好きな自分が跡形もなく消えてしまったことである。

2.自分を評価するのは誰か

こうなって初めて自覚したことがある。
それは
「自分の評価を決めるのは、自分ではない。」
という私の自己評価の危うさである。

これまでは、他者に頼られ、その期待に応えることで
自分自身を認め、自分を好きでいられた。
結果が依頼者の求める理想を超えることで、
自分の価値を見出していた。
希望通りに行かなくても、
「ここまでやってくれたのなら十分。」
と、相手の満足感と
自分の全力を出し切った、頑張ったという感覚さえあれば
自分の役目は完了したと思えていた。

しかし、これからはその感覚を得ることはかなり難しい。
過去にできていたことでさえ、できる気がしない。
期待に応える以前の問題である。
自身の評価基準が外にあるということは
自分の状況が変わっても、評価基準は変わらないということである。
自己評価でマイナス点ばかりを積み上げて行くと
次第に他者から期待とのギャップに恐怖を覚えるようになる。
例えそれが、相手にとっては小さな頼み事であっても
君ならできるよねといった
大げさに言うところ、信頼の証であったとしてもだ。
完全に、止まってしまう。
頑張り方も行方不明だ。

3.本当に好きなこと

状況は改善しないまま時だけは進み
高2の夏で止まった学力で何とか受験を乗り越え、地方の大学へ進学。
なんとなく入った大学だったが、何もしないのはもったいないなと思い
今の自分でも熱中できそうなものを探した。
興味関心を持つことが極端に減っていたが
スポーツをしている時だけは、頭を空っぽにできたので
活動が多い体育会のバドミントン部に入った。

その時に気付いたことがある。
本当に好きなことをしている時だけは
何もかも忘れて、目の前のことに熱中できるということである。
バドミントンが特別好きだったわけではない。
仲の良い人達と、わいわいするのが好きなのである。

だから、試合中ではなく
キツイと言われる練習の方が私は好きだった。
目の前にあるメニューを、あーだこーだと時には文句も言いながら
皆で声を掛け合って、こなしていく。
その時に発する「ファイト」には、ただ頑張れという
叱咤激励の意味だけでなく
 「君の頑張りを見ているぞ」
 「もっとできるぞ」
と言った、承認や期待の意味があると私は思う。
だって皆、既に頑張ってはいるのだから。

4.頑張りは一人じゃなくていい

しかし、仕事となればまた話は変わってくる。
少なくとも最初の数年は、これまで経験したことの無いことを
日々行う必要がある。
しかも、常に一つのことに集中すれば良いわけではない。
複数の案件を同時並行的に進めて、段取りも考えながら
周囲の人に協力を仰がなければならないことも多い。
好きだ嫌いだも言ってられない。
当たり前だが…。

しかし、そう頭で分かっていても実際にできないから
これまで5年以上悩んできたのである。
仕事ですからやりますよ、とできるようであれば
最初から誰も苦労はしないのだ。

案の定、早々に抱えきれなくなって、処理スピードがガクンと落ちた。
そんな時、私の当時の上司は
こうなったいきさつから、その対処方法をまだ見つけられていないことまで
全ての話を聞いてくれた。
その上で、
「無理に一人で解決しなくていい。一人で無理なら人に頼れ。」
「お前に変わろうとする意志がある間は、一緒に考えてやる。」
と言ってくれた。

驚きだった。
考えたこともなかった。
これを解決する方法の中に、私以外の登場人物が出てくるなんて。

これまでの「どうすればいい?どうすれば元に戻れる?」という悩みと
その間、応えられなかった沢山の「期待」
そして、その期待をかけてくれた方への申し訳なさに
悲鳴を上げていた私の肩が、軽くなった瞬間だった。
ずっと、自分一人で背負わなければならないと思っていた荷物を
初めて他者に預けたのだ。
ただただ、
「ありがとうございます。」
としか言えなかった。
目の前は霞んで、鼻声しか出なかったが
23年間で、最も心の底から思う「ありがとう」だった。

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