#25. 組版原論(布川充男)
当初、私のnoteは『印刷物中毒』という1種類のマガジンだけにするつもりだった。
しかし林美沙希さんについて書くことのほうが楽しくなってきてしまい、最近はこのマガジンの記事を書くことが億劫になってきている。
画像のスキャニングやリサーチなどの作業が大変なわりに読者が少なく、やる気が出ないのだ。
久しぶりとなる今日は、『組版原論』という本を紹介したいと思う。
この本のことを知ったのは2001年から2004年ごろで、その時期にはもうすでに絶版になっていた。
ネットや古書店で探してもどうしても見つからなかったため、私は大胆にも著者の布川充男(ふかわ みつお)さんに直接メールを送り、定価(5,800円)に送料とわずかなお礼を添えた金額で譲っていただいた。
ずいぶん不躾なことをすると思われるだろうが、当時の日本ではEメールがようやく浸透してきたしたばかりだったから、そんなことをしたら失礼だという感覚もまだ薄かったのだと思う。
DTPで作成した部分はMacOSが登場する以前のOSである「漢字Talk 7.5.1」、そして「InDesign」が登場する以前のページレイアウトソフト「QuarkXPress 3.3」が使われている。
「QuarkXPress 3.3」には「InDesign」の「文字グリッド」のような日本語組版に特化した機能はなかった。
そのため、著者の布川さんは1行ずつの細長いテキストボックスを作成することで正確な文字組版を実現させている。
私も当時はQuarkXPress 3.3を使っており、自分以外の人が作ったQuarkXPressのデータも数多く見てきたが、そのように手の込んだものは一度も見たことがない。
フォントに対するこだわりも半端ではない。
DTPで制作した部分では「海舟明朝」、「岩田細明朝体」、「岩田中呉竹体」など、きわめてマニアックなフォントを使用している。
写植で制作した部分は「石井太明朝」などの写研のフォントがベースだが、仮名の部分には「東京築地活版製造所前期五号活字仮名」や「江戸活版製造所三号行書活字仮名」というフォントを混植している。
これらの仮名フォントは昔の活字から覆刻された試作品だ。
漢字の表記も硬派である。
常用漢字表にはまったく縛られず、「弊履(へいり)」、「慷慨(こうがい)」、「草莽(そうもう)」などという、私にはまったく意味のわからない漢字がずらりと並んでいる。
常用漢字あるいはJIS規格に含まれていないような珍しい漢字や記号は俗に「外字」と呼ばれる。
OpenTypeフォントではInDesignの[字形]パネルなどを使って簡単に外字を入力することができるが、当時は「Biblos外字」という外字専用のフォントが広く使われていて、本書でもこれが使用されている。
外字用フォントにも含まれていないような文字をIllustratorで「作字」するのは現在も同じである。
組版の例文が辛辣で、思わず笑ってしまう。
「バカな編集者や無知なデザイナーと仕事をするくらいなら昼寝をしていたほうがよい」
昔の印刷物の紹介や……
カラー図版のページもあり……
全395ページの充実した内容になっている。
なお、私のマガジンのタイトル『印刷物中毒』は、布川さんが共著者となっている『真性活字中毒者読本』へのオマージュである。