甲州、熟成への挑戦
暑中お見舞い申し上げます。
久しぶりの更新となってしまいましたが、皆様、つつがなくお過ごしでしょうか。
関東甲信越では、7月18日に梅雨明けとなりました。今年は雨が少ないことで、畑のブドウも健全に推移しています。
さて、先週、三澤農場へとてもお世話になっているワイン専門家の方々がお越しくださいました。
イギリスからマスター・オブ・ワインのサラジェーンさん、香港からザ・ランドマーク・マンダリンオリエンタルのソムリエのダーク・チェンさん、かねてより日本ワインを応援してくださっているお二人をお迎えしました。
三澤農場が位置する明野町は日照時間日本一を誇りますが、この日は珍しく雨。
以前お越しいただいたことのあるお二人でしたので、雨の中でブドウ畑をご案内するよりも、じっくりテイスティングしていただいた方が、限られたお時間の中で意味のあるものにできるのではないかと考えました。
そこで、三澤農場産の甲州の垂直テイスティングを行うことに決め、2013年産から2022年産の10年に亘る甲州を一緒に試飲しました。同じ畑のブドウから造られる、ヴィンテージ違いです。
ワインジャーナリストの西田恵さん、ワイン専門家の高橋佳子さんもジョインしてくださいました。
個人的に垂直テイスティングは好きで、たまに海外の生産者のイベントにも参加させていただくことがあります。同じ畑から造られるワインをヴィンテージ違いで試飲することによって、畑や醸造方法の真実に迫っていく感じがするのです。
ただ、自分自身のワイナリーでの垂直テイスティングとなると、ヴィンテージバリエーションの大きな日本においては、良い年のワインも、難しかった年のワインも一斉に見ていただくことになるので、丸裸にされるような気持になります。それでも、信頼できる方々との垂直テイスティングでは、その緊張感が学びにも繋がります。
私たち家族は、101年甲州を醸造してきました。祖父が造った1950年代の甲州を開けることもありますし、父の造った1980年代の甲州も開けることがあります。
祖父が造った甲州の多くは、少し残糖が残るスタイルでした。当時、上質なコルクも国内で手に入れることは難しかったと思いますが、その還元糖に助けられたのか、ワインはまだ生きています。
一方、辛口の甲州に信念を持ち続けた父のワインは、祖父のワインよりも30歳も若いにもかかわらず、酸化の傾向が出ています。もちろん、それでも、信念によって造られたワインの本質は、エネルギーに溢れています。
私は、この経験から、いつしか「辛口で熟成ポテンシャルのある甲州を造る」ことが、自分自身の醸造家人生において一つやり遂げなければいけないことなのではないかと思うようになりました。酸化ではなく、「なんとかもっている」という甲州ではなく、熟成してさらに複雑な味わいに変化している甲州のイメージです。
今回、10年に亘る甲州の垂直テイスティングを行ったのは、私も初めてのことでした。補糖も補酸も行っていない甲州ですが、どのワインも酸化して味が落ちるのではなく、より香りや味わいが開き、複雑な味わいになっており、その意味では、私自身がやりたかったことに近付いているような気がしました。
また、比較的温暖な年と冷涼な年、熟した年と酸が際立った年とでは、異なる熟成の仕方をしていくということも何となく分かってきました。また、ヴィンテージの違いこそありますが、一貫して、飲み飽きず、上品で嫌味がない甲州の魅力にも改めて感じ入りました。
まだまだ経過を追いかけなくてはなりませんが、今、私が言えるのは、甲州には、まだまだやってみないと分からないことがあるということです。
また、この試飲を通して、いわゆる「甲州らしさ」のイメージを良い意味で壊していきたい、ワクワクするような甲州をこれからも造っていきたい!と決意を新たにしました。
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