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東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 合格体験記


1. はじめに

2024年夏実施の東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻の大学院入試に合格しましたので、専攻や入試形式、対策方法について記録したいと思います。この専攻を受験する予定の方の参考になれば幸いです。

2. 創造情報学専攻について

創造情報学専攻は東京大学院 情報理工学系研究科に配置されている6つの専攻の内の1つとなります。他の5つの専攻と比較すると、創造情報学専攻は少し変わった特徴を持った専攻となっています。

2-1. 対応する学部/学科がない

  • コンピュータ科学専攻→理学部 情報科学科

  • 数理情報学専攻   →工学部 計数工学科 数理情報工学コース

  • システム情報学専攻 →工学部 計数工学科 システム情報工学コース

  • 電子情報学専攻   →工学部 電子情報工学科

  • 知能機械情報学専攻 →工学部 機械情報工学科

上記の通り、他の専攻には対応する学科があるのに対して(ここまで厳密に決まってない可能性あり)、創造情報学専攻にはこのような学部、学科がありません。つまり、研究室に学部4年生がいません。

2-2. 他大学出身者の割合が高い

  • コンピュータ科学専攻→ 32 % ( 27 / 85 )

  • 数理情報学専攻   → 19 % ( 13 / 69 )

  • システム情報学専攻 → 34 % ( 30 / 88 )

  • 電子情報学専攻   → 33 % ( 41 / 124 )

  • 知能機械情報学専攻 → 17 % ( 21 / 122 )

  • 創造情報学専攻   → 65 % ( 59 / 91 )

上記は2024年5月に修士課程に在籍する学生の内、他大学出身者の割合です。創造情報学専攻が他の専攻と比較して、外部生の割合が高いことが分かります。これは対応する学部がないことが影響していると考えられます。
また、次で述べるように、創造情報学専攻は他の専攻と比較して入学試験の倍率がかなり高いです。自分の大学の院試にGPAで合格している可能性のある他大学出身者と比べると、内部生(東大生)は外部の院の入学権を持っていない場合が多いと思います。そのため、内部生は倍率の高さというリスクを抱えてまで、この専攻を受験しないかもしれません。

2-3. 入試倍率が高い

創造情報学専攻を受験する上で、特に考慮しなければならないのが入学試験の倍率の高さになります。

情報理工学系研究科の各専攻の倍率(データは公式より引用)

上記のグラフは通常の入試に加えて、留学生の選抜を合わせたものになります。実際の入学試験の倍率とは異なりますが、傾向として大きく異なるものではないと思います。
他の専攻が概ね2.5倍以下の倍率なのに対して、創造情報学専攻の倍率は毎年3倍を超えています。
参考までに、2024年夏実施の創造情報学専攻の試験(留学生の選抜を含まない)では書類選考の合格者が112名で入学試験の合格者が32名でした(倍率3.5倍)。

2-4. プログラミングが選択できる

「数学」の代わりに「プログラミング」を試験科目として選択できます。専門科目の選択によっては、大学学部の数学の知識をほぼ問われずに選考に望めます。

3. 入試形式について

創造情報学専攻の入試形式について振り返っておきます(2024年9月現在)。
受験に際して必要な科目は以下の通りです。

  1. 一般教育科目

  2. 外国語

  3. 専門科目

  4. 口述試験

以上の4つに加えて、これら試験の前に書類選考が実施されます。書類選考では、志望分野、志望理由、入学後の研究計画、これまでの活動実績などを含めた「研究計画書」の提出が求められます。A4用紙1枚という制約があります。

3-1. 一般教育科目

先程も述べた通り、創造情報学専攻では情報理工学系研究科の他の専攻とは異なり、「数学」に代わって「プログラミング」を選択できる唯一の専攻となっています。私はプログラミングを選択しました。
プログラミングの試験形式としては、与えられる試験問題(紙冊子)で問われる内容を、自前のノートPCでプログラミングして答えを出力するというものになります。解くのに必要な入力データはUSBドライブで配布されます。試験時間が終了したら、紙の回答用紙と自分が記述したプログラムのデータが入ったUSBドライブを提出します。以前はプログラムの動作チェックがあったようですが、2024年夏入試では行われませんでした。プログラミングの試験時間は150分です。

3-2. 外国語

外国語の科目は「英語」になります。筆記試験は行われず、TOEFL iBTの成績を利用します。

3-3. 専門科目

創造情報学専攻では、専門科目は、「創造情報学」、「コンピュータ科学」、「数理情報学」、「システム情報学」、「電子情報学」の5つの科目の中から1つを選択します(つまり、情報理工学系研究科で筆記試験を実施する専攻の科目全ての中から1つ選ぶ)。私はシステム情報学を選択しました。
システム情報学では、「信号処理」、「電子回路」、「制御」の3つの大問から2つを選択します。システム情報学の試験時間は100分です。

3-4. 口述試験

Zoomによる口述試験が行われます。ミーティングルームには、教員が5, 6名いて、その内の1名が進行役となっています。試験時間は最大で7分程度です。
最初に志望動機について1, 2分程度で話した後、教員から口頭試問があります。自分は第一志望の研究室の教員のみから質問されました。第二志望以降の教員から質問を受けることもあるかもしれません。

以上は、大部分が入試案内書などに書いてある内容になります。以下では、私自身の意見や、他の合格体験記、ブログなどを参考にしつつ、試験の対策について述べていきます。

4. 入試対策について

半年前から勉強を開始して他の受験生から遅れを取ることはないと思います。私は3月から本格的に対策を始めました。3月中に英語を終わらせ、4月から試験直前までは、プログラミングと専門科目の対策を交互にやっていました。英語と研究計画書の執筆をなるべく短時間で済ませたいです。

4-1. 研究計画書について

「研究計画書」は志望理由などを含めてA4用紙1枚と決まっているので、記述する量自体はそこまで多くありません。また、創造情報学専攻では、書類選考で落とされる受験生がほぼいないことから考えると、これの作成に時間を使いすぎるのは得策とは言えないと思います。
多くの方にとって、一番不安なのは「入学後の研究計画」の部分だと思います。これは口述試験でも質問を受ける箇所なので、しっかりと書いておきたいです。ただ、完璧なものでなくとも、第一志望の研究室での研究内容として適切なものであればマイナス評価になることはないと私は考えています。なぜなら、システム情報学専攻ではA4用紙3枚分、機械知能情報学専攻ではプレゼンが要求されることを考えると、創造情報学専攻では、書類や口述試験の内容をそこまで重要視していない可能性があるからです。
私は特段、添削などを受けませんでしたが、これまで自分の文章を添削してもらった経験が少ない方は誰かしらに見てもらうのが安心だと思います。

4-2. 一般教育科目について

「数学」か「プログラミング」から選択するこの科目ですが、大学数学が得意な方以外はプログラミングを選択するのがいいと思います。創造情報学専攻のプログラミングの試験はそこまで「頭の良さ」を問われる試験ではないと思いますし、基本的な知識さえあれば合格点に届くと思います。プログラミングの試験対策については長くなるので別の記事にまとめます。

[現在記事執筆中]

4-3. 外国語について

私は3月の1か月を英語の対策に充てて3月中にTOEFLの受験を済ませました。TOEFL側が東京大学に成績を送るのに少し時間を要するので余裕をもって受けましょう。複数回受験してそれらの成績を全て送っても、提出するスコアは指定できるようです。
TOEFLについては、詳しいサイトや書籍が多数あるので、具体的な対策方法はそちらに譲ります。

4-4. 専門科目について

創造情報学専攻の試験では、好きな専攻の科目を選択できるので、ご自身の得意な科目を選べば良いと思います。私は「システム情報学」を選択しましたので、それについての対策を述べます。
私は、3つの選択分野の内、「電子回路」と「制御」の2つを選択しました。この2つの分野を選択する受験生が多いように感じます。
全ての分野を勉強するか、2つに絞るかは人それぞれでしょう。私は学部で「信号処理」の授業を受けたことがなかったので、初めからこの分野の勉強は諦めました。以下では電子回路と制御について対策方法を述べます。

電子回路

高校物理の回路の知識がかなり活かせます。高校物理の回路分野が怪しい人は先にそちらをやるのが良いと思います。

超頻出なのがオペアンプです。ほとんどが理想オペアンプですが、稀に非理想も出題されます。オペアンプを含む回路(発振回路、コンパレータ、ヒステリシス回路、電圧フォロワなど)については良く確認しておきましょう。
たまに、オペアンプに代わって回路の行列表示が問われることもあります。
過去にはPWM、switchedキャパシタ、乗算回路が出題されたこともあります。過去問で見つけたら確認しておくとよいでしょう。
また、伝達関数やBode線図など制御分野の基本的な知識も問われます。

私は対策には、学部の授業で指定された教科書を用いました。また、どうしても理解できない箇所はYouTubeで調べたり、LTspice(回路シミュレータ)を用いて、動作を確認したりしました。

試験中に「あれっ?」となって手が止まってしまうことが多い分野な気がします。油断せず対策を行いましょう。

制御

古典制御、現代制御どちらも出題されますが、古典制御の方がやや出題頻度が高いです。先に私が学習に用いた教科書を示します。

古典制御

現代制御

この2冊が完璧になれば特に困ることはないと思いますが…特に現代制御の方は結構量が多くて自分には大変でした。
古典制御の方は、上記教科書で「制御系のロバスト性解析」と「2自由度制御」以外の部分は完璧にしました。
現代制御の方は、過去問で良く出題される範囲をやりました。

ちなみに、2024年の入試で現代制御が出題されなかったので、これで4年連続で現代制御が出題されていないことになります。

「システム情報学」では2分野を合計100分で解かなければなりません。試験時間を意識した対策をお忘れなく。

4-5. 口述試験について

試験最初の志望動機を述べるパートについては淀みなく話せるようにしておきましょう。その後、研究計画について質問が来ると思うので、参考にした先行研究だったり類似の研究を確認しておくのが良いと思います。
その後の質問フェーズは正直、運要素が強いと思います。ここで上手く受け答えできなくても評価が下がることはないでしょう。私は下手な返答しかできませんでした。
私が受けた質問の1つに、「大学院を出た後、どうするか」、というものがありました。同じ質問が来るかわかりませんが、考えておくとよいかもしれません。

5. その他

5-1. 研究室訪問について

研究室の雰囲気を知りたいという方や研究室の学生に直接聞きたいことがあるという方は研究室を訪問すると良いでしょう。情報理工学系研究科では、5月中旬に入試説明会があります(要事前予約)。そこで研究室の教員や学生と会話できるので、メールで直接連絡を取らなくとも訪問の機会が得られます。また、特に研究室訪問しなくても、選考で不利になることはありません。

5-2. 過去問について

過去問自体は情報理工学系研究科のHPで入手することができます。既にHPから削除されてしまったものでもWayback Machineを漁ればほとんどの年度のものが入手できます。
過去問の解答が欲しい方は研究室訪問の時に先輩方に言えば貰えるかもしれません。私は他大出身で、研究室訪問の時も解答を貰わなかったので、問題しかありませんでしたが、なんとかなりました。解答があった方が効率は良いと思いますが、必須ではないです。

以上になります。創造情報学専攻は特に倍率が高く、難易度の高い試験ですが、頑張ってください。皆さんの大学院受験を応援しています。

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