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書道って、タイポって何だろう

昔、習字の先生が朱筆で添削する字はバランスがよくて美しく、何となく人柄が現れている気がしていました。添削されるたびにモヤモヤしてはいましたが(笑)、どう書けば美しくなるか分かる感じは残り、一時期とはいえ習ってよかったと時々思います。

しかし、書には「きれいな字」「美しい字」と少し違う書き方があります。
書道部で出展される書を見たことがありますか。太い筆で叩きつけたり、カスレても続けたり、ゴチゴチの字体で漢字をならべたりと様々です。

当時、ああいった作品の捉えかたに戸惑っていたのですが、そういえば中学には独特の丸い字体が崩れない同級生がいました。彼の字体はうまくないけど「まとまって」いて、とてもいいなあ、と思っていました。

のちにパソコンをよく使うようになって、「フォント」という考え方を知り、この体験に“再会” します。明朝体・ゴシック体・そして色々すっとばしてなぜか勘亭流(笑)。英字に至ってはもっとたくさんフォントがあるわけです。

フォントは国内外を問わず販売サイトがあります。5,6年前に Pixelbuddha というサイトを知って、次々とフォントが作られ、販売されていることに少し驚いたものでした。
とはいえ恥ずかしながら、フォントが「販売」されていることさえ10数年ほど前まで知らなかったのですから、何をかいわんや、ですが。

知らなかったといえば、タイポグラフィもそうです。印刷物の紙面をつくる作業を「組版」と(パソコンの場合は「DTP」とも)言い、そこで行われる書体選びや文字組みを「タイポグラフィ」とよびます。行や文字間隔にも注意を払うこの作業は、個人の好みよりも精密な技術に裏打ちされています。最近ではこんな本も出版されていました。ほしい。
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798179070

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昔から字体へのこだわりはずっとあったのですが、大して真剣に取り組むことはありませんでした。そこにきて最近、衝撃を受ける本に出会いました。
その本は「小学生の書道講座」といい、私の手元にあるのは1969年に第3版を重ねた函入りの4分冊版です。

1冊目「つよく書こう」は、ナカバヤシゴチクという人が書いた「王」という文字の紹介から始まります。引用します。

この字を見てどんなかんじがしますか。
春のようですか。
夏のようですか。
それとも秋だと思いますか。
冬でしょうか。

四つのうちのどれかにきめてください。

なぜ、そう思うのですか。

あたたかい、と思いますか。
あつい、とかんじますか。
すずしい、と思いますか。
それとも、さむい、つめたい、とかんじますか。

長くなりますが、次のページも引用します。次はヒダイテンライという人が書いた「東」を紹介した文です。

 これはどうです。まえのとくらべて、どちらが力づよいでしょうか。あまりはやくきめないでください。どちらが『さくらの力づよさ』で、どちらが『いわにくだける波の力づよさ』でしょうか。ふでがわれて、ゴツゴツしたところが、いわににていますか。
 それでは、さっきのようにこのかんじを、春か、夏か、秋か、冬か、にわけるとしたら、どうでしょう。
 みなさんはまえの字とくらべて、どちらがすきですか。

この引用を読んで、あなたはどう思いましたか。
これって、かなりすごいことを書いているんじゃないでしょうか。いままで気にも留めなかったような感覚を言葉にして、それを審美眼にまで練り上げようというのですから。そして、そこには一定の手順がある、とも。

つまり、よく聞く ”感性を育む” とは、子どもの頃はともかく、年を重ねるほどになかなか技術的な取り組みになってくるのかもしれません。

つづく


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