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憩いのライブの舞台裏(妄想編)

正午


落ち着いた女性の声で館内放送が流れる。
「ただいまより、1Fロビーにて憩いのライブが始まります。」
事務的なアナウンスの後、
オクターブ下げたピアノの最初の鍵盤を確かめて、指を下す。
ここから「憩いのライブ」スタート。


AM11:00


駅でボーカルと待ち合わせ。

楽器や機材(カメラやアンプ)は、すべて自分たちで準備して持ち込む。
いわば、ストリートライブである。
全てを独りで担いでいくのはそれだけで体力を消耗してしまうので、
市の施設には、車の乗り入れを許してもらっている。

駅のロータリは、常に送り迎えの車でごった返している。目の不自由なボーカルと待ち合わせるのは、不可能。機材を詰め込んだ車を止めている駅近のスーパー駐車場から2人で乗り合わせて現場に向かう。


AM 11:30


ここは、市の福祉施設の1Fロビー、エレベータホール前、吹き抜け。

事務机の上にキーボードを置き、パイプ椅子に座って、ペダルの距離を確かめる。

パイプ椅子を10脚ほど、客席ぜんに並べてみる。その後ろは、2階への階段があり、多いときは、そこに座って聴くこともあるそうだ。でも今日は。。

自動販売機の横のソファーの初老のグループがいぶかし気にこちらを見ている。

ラジオ体操で使うようなスピーカとキーボードから音を出すためのギターアンプを2つ並べる。5分間だけ音を出すことを許されている。

「よくわからんけど、こんなもんかな。」
W数のラベルの文字もはげ落ちた、直径16cmのスピーカの音は、吹き抜けで天井に届くまでに消えていく。なので、ただしくは、「全く、こんなもんではない。」

最終スタジオでの練習の後に書いた「当日のチェック事項」メモを取り出す。

セットリスト

1.Etude (Chopin)
2.6月はRainyBlues
3.The Earth きみが駄目なときでも
4.上を向いて歩こう
5.ゆめいっぱい

1.右手は、フジ子のように、メロディを強く弾く。
2.に入る前に、キーボードオクターブシフトを戻すことを忘れない。
1.と2.の間はMCは入れない。客席のパイプ椅子にスタンバイしていたボーカルは、2.のイントロで前に出てくる。
2.は、1.のテンポに弾きづられないように。
2.は雨音のイメージを淡々と伴奏、ボーカルは置いて行っても構わない。
3.に入る前にバンドの紹介で唯一のオリジナル曲であることも添える。
4.までは、ピアノ伴奏であるが、この4.には、リズムをシンセで足す。Analogのパーターン2、バスドラが入っていない少々Jazzyなリズムを使う。BPM=140。リズムをセットした後で、キーボードの音色をピアノにして、スタンバイができたら、場をつないでいるボーカルに合図する。

Vo.「それでは次の曲いきます。」
ここでリズムスタート
Vo.「上を向いて歩こうです。聴いてください。」
最初のリズム箇所でタランタンと中村八大の作曲したフレーズを開始。
間奏とエンディングのピアノソロは、突っ込み気味にフレーズを弾く、そして時々トレモロを混ぜる。

エンディングの伴奏が終わったら、ちょうどいいタイミングでリズムボックスを止める。ちょうどいいとは、小節の切れ目ではないことに注意。

5.これが一人3役をこなすべきチャレンジ曲。なので、シンセのセッティングも慎重に! Vo.には、身の上話でつないでもらう。
リズムパターンはシーケンスを組んであり、そのソングファイルを内部メモリからロードする。
音色は、PCカードから読み込む。
こちらも曲内のパターン順に左と右とをスプリットした音色をフットペダルで切り替える。ベースやストリングス、Saxの音が仕込んである。
フットペダルのコネクタをHOLDー>CONTROLに差し替える
これを忘れたら、台無し。忘れがちなので要注意。

シンセの設定が完了したら、Vo.に合図を送る。
「最後の曲です。夢いっぱい」
Playボタン押下!
あとは、何が起こっても振り返らない。

さあ! 準備完了。
施設利用者の耳に届け。



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