魔法の森のくるみとナッツ 第4話

第4話 まことくんの消えた過去

 くるみの学校からの帰り道は、家がお隣り同士のまことくんと久しぶりに一緒だった。

 まこと「くるみちゃんがまりあちゃんと一緒じゃないの、珍しいよね」
 くるみ「うん、まりあちゃん、なんか今日は急遽、家族みんなで在所に行 かなきゃならなくなったみたい。なんか急いで帰って行ったわ。」
 まこと「在所?へぇ、何かおおごとかな?」

 その時、2人の背後から話しかけて来る声がした。
「あら、この2人の組み合わせは珍しいわね」

 振り返ると、まことくんのお姉さんのエリ姉さんがいた。

 エリ姉さんはくるみ達の2つ上の小学校6年生。
 家が隣同士な事もあり、小さい頃から色々くるみの面倒を見てくれて、くるみが困っていると何かと助けてくれる、くるみにとって頼れる憧れのお姉さんだ。

 エリ「ちょっと今日は急用があるから私は先に帰るね。2人とも、今日は寄り道せずに早く帰るのよ!」
 エリ姉さんは慌ただしく走って行ってしまった。

 まこと「何だか今日はみんなバタバタしてるね。」
 くるみ「・・・」
 まこと「どうかしたの?」
 くるみ「ううん、何でもない。」

 くるみ(・・・まりあちゃん、さっき帰り際に、まことくんにはあまり近づかない方がいいって言ってた。何でなんだろう。まことくん含めて私たち3人、保育園からずっと一緒の仲良しなのに。)

「あら?くるみちゃん?くるみちゃんでしょう?」
 突然、二人の前から歩いて来た女性が話しかけて来た。

 女性「くるみちゃん、大きくなったわね。私よ、保育園で担任だった。」
 くるみ「あ、先生!久しぶり!」
 先生「大きくなったわねー。」
 くるみ「えへへ。あ、先生、こっちは家のお隣さんのまことくんですよ。」

 先生「???」

 先生はキョトンとした顔をしていた。
 先生「「まことくん」?なんていう子はウチのクラスに居たかしら?」
 くるみ「えっ?」
 先生「くるみちゃんの家のお隣さんって、出雲さんでしょ?たしかあの家はお子さんはいなかったと思うけど・・・でも、たぶん私の記憶違いね。いやねぇ、歳を取ると。」

 くるみと出雲まことは、顔を見合わせた。


(ピスタチの森の王宮)
 王宮内は緊張でピリピリしていた。
 数日前に森のフェニックスが何者かに連れ去られてしまった影響で、ピスタチの森全体の魔法力が落ちてしまっていた。それはすなわち、ピスタチの森の防衛力が落ちている事を意味する。

 精霊山を挟んでピスタチの森の北方に位置するサマルク帝国が、このタイミングを狙ってピスタチの森に攻め込んで来たのだ。サマルク帝国のマグマ将軍とその5人の親衛隊の強さは圧倒的で、ピスタチの森の北地区はわずか1日で占領されてしまった。

 占領された地区の妖精達は戦火を逃れ、難民となって東のバックムーンの森に向かっている。しかし、バックムーンの森とピスタチの森も100年間国境争いが続いており、この方面の国境は両国の軍により閉ざされていた。

 そこでピスタチ王は、この際、バックムーンの森と停戦協定を結び、国境を開いて難民達をバックムーンの森に受け入れてもらえないかと思案していた。
 ピスタチ王は部下に、バックムーンの森の首相・エレノア王女に会談の申し入れをするよう指示を出した。


(サマルク帝国の宮殿)
 サマルク帝国の宮殿では戦勝の祝賀会が催されていた。
 大いに酔った皇帝のタンブラーは少し酔いを醒ます為に一人、バルコニーに出た。上機嫌で水を飲んでいると、どこからか見知らぬかわいいハムスターが現れ、バルコニーの手摺の上に立ち止まり、皇帝をじっと見つめて来た。
 皇帝は驚いたが、戦勝の良き日に現れたのなら幸運の女神の使いだろう、とハムスターに手を差し出した。するとハムスターはタンブラー皇帝の手を伝って肩にまで登って来た。ハムスターはすぐに皇帝に懐いてペロペロ顔を舐め始め、皇帝もまんざらではない様子であった。

 やがて皇帝はハムスターを肩に乗せたまま、撫でながら宮廷内に戻って行った。


(まことの部屋)
 まことの部屋では、くるみとまことが一緒に保育園の卒園アルバムを見ていた。

 2人ともアルバムを開いたまま絶句し、固まっている。そこへ、2人の背後からドアを開けて姉のエリが入って来た。

 まことはエリが背後に立っている事に気付き、泣きそうな声で問いかける。

 まこと「姉さん、姉さんは僕の事知ってるよね?」

 エリは冷たい目でまことを見つめる。

 まこと「姉さん、僕の・・僕の写っている写真が一枚も無いんだ・・・なんで?・・なんで?・・」

 エリ「・・・あーら、気づいちゃったのね。卒園アルバムとは迂闊だったわ。ふふふ・・・」

 (続く)


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