魔法の森のくるみとナッツ 第3話
第3話 頑張れ!お父さん!
(現代)
くるみは今日も元気に学校から帰って来る。
くるみ「ただいまー!お父さん!」
くるみ、夕飯を作っているお父さんに背後から抱きつく。
お父さん「ああ、お帰り。もうすぐ夕飯が出来るから、手を洗って着替えておいで」
くるみ「はーい!」
お父さん(最近なんか急に素直になったな。何かあったのかな?)
夕飯を食べながら、くるみはずっと知りたかった事をお父さんに聞いてみた。
くるみ「ねぇねぇ、お父さんって、魔法使いのお母さんと、どうやって出逢ったの?」
お父さん「いやぁー実はお父さん、結婚するまで、お母さんが魔法使いだなんて知らなかったんだよ。」
くるみ「人間同士だと思ってたの?」
お父さん(そうだな、くるみはお母さんの思い出、殆どないものな。話すには丁度いい機会かもな。)
お父さん「実はお父さんの一目惚れだったんだ。大学に入って、カフェでバイトし始めた頃、よくお客さんとして来てた人でね、凄く綺麗な人だった。いつも窓際の席で静かに本を読んでいたな。
初めて来た時、右手首を怪我してるみたいで白い包帯を巻いていたから凄く印象に残ってる。毎日のようにイケメン達に声をかけられててね、お父さんはとても近づけなかったよ。」
くるみ「へぇー。でも、それならどうやって仲良くなったの?」
お父さん「ある日、お父さんがバイトで遅くなった日があってね。当時、お父さんはピスタチの森が好きで、森の中のログハウスに住んでたから、ひとけのない帰り道で、3人組の強盗に襲われてしまったんだ。」
(10年前のお父さんの回想シーン)
強盗「おお、こいつ、結構カネ持ってるぜ!」
お父さん「そ、それは明日大学に払わなきゃならない学費で・・・」
「うるせえ!」と強盗はお父さんを蹴飛ばした。
その時、強盗達の背後から女性の声がした。
「やめなさい!」
強盗「なんだぁ?女か?ケガしたくなかったらすっこんでろ!」
強盗達、暗闇の中、女性に近づいて行く。
が、女性に触れる前に、強盗達は何故か3人とも固まって動けなくなってしまった。
真っ暗闇の中で男達のうめき声が2、3続き、また森は静かになった。
暗闇からお父さんに向かって歩いて来る1つの影。
お父さん「あ、ありがとう。あ!あなたは」
いつもカフェで本を読んでいる女性だった。
女性「ああ、あなた、駅前のカフェでバイトしてる人ね。」
お父さん「あ、僕は優也って言います。強いんですね」
女性「私はテレサ。私、護身術として合気道を習ってるから、これくらいは、ね。あなた、見るからに弱っちそうだから狙われるのよ。気をつけなさい」
彼女はキレイな上に、強かった。
それから、カフェで会うたびに少しずつ話すようになったんだ。
(現代)
くるみ「何それー!お母さんが襲われてたのをお父さんが助けたんじゃないの?・・・こんなんで上手くいくのかしら、ね、ナッツ?」
ナッツは人間の食べ物が美味しいらしく、食べるのに夢中だった。
お父さん「そしてある日、勇気を出してお母さんを映画に誘ってみたんだ。」
(10年前のお父さんの回想シーン)
テレサ「へぇー、「ササニシキvsコシヒカリ」って怪獣ものの映画?面白いの?」
優也「うん、このシリーズがめっちゃ面白いんだよ!来週の土曜日なんだ。」
テレサ「うん、考えとく」
そこへ10人くらいの学生集団がドヤドヤと入って来た。学生サークルらしい。
リーダーらしいイケメン男子がテレサの姿を見つけて話しかけて来た。
リーダー「あ、いたいた、テレサちゃん、この前はうちのサークルの新歓コンパに参加してくれてありがとう。無理言ってごめんねー。お礼といってはなんだけど、テレサちゃんが大好きだって言ってたonceのコンサートチケット二枚手に入ったんだよ。来週の土曜日なんだけど、一緒にどう?」
優也はキッチンでスナックの調理中だったが、会話は聞こえていた。優也はうつむいて仕事に打ち込んだ。
優也は家に帰ってすぐ、onceとやらのアイドルグループのライブ配信を観てみた。
怪獣は最後まで出て来なかった。
優也「あー失敗したーこういうのが好きなんだー!」
隣では窓から入って来たリスがくるみを食べながらライブを観ていた。
優也「来週の土曜日、来てくれないだろうなー」
その土曜日、足取り重く映画館に向かう優也がいた。
しかし、映画館の前まで来ると、意外な事にそこにはテレサが立っていた。思わず走っていく優也。
優也「来てくれたんだ!今日、onceのライブじゃなかったの?」
(現代)
くるみ「やったー!何で何で?お父さん、奇跡じゃん!何一つ良いところないのに!」
お父さん「うん、何で来てくれたのか、今でもよく分からないんだ。」
くるみ「世の中、分からないものねー」
お父さん「さあ、くるみ、そろそろ宿題の時間だぞ。」
くるみ「えーっ」
お父さん「あ、そうだ、来週から映画「あきたこまちの逆襲」が封切りなんだが一緒に行くか?」
くるみ「私はonceがいい!」
東雲家の夜は穏やかに更けていく。
空には夏の大三角が明るく輝いていた。
(おまけの回想シーン)
テレサ「ここのカフェのナッツはピーナッツだけ?くるみはないのかしら?」
優也「くるみは置いてないです、、あ、ちょっと待って、」
と、ポケットからくるみを取り出し、割って出してあげる。
優也「美味しいですよ。」
テレサ「へぇー、あなた、持ち歩くくらい、くるみが好きなの?」
優也「はい。前はそうでもなかったんですがね。実は家の近所に木登りの下手なリスがいましてね、1ヶ月くらい前に木から落ちて右手首をケガしてたんですよ。
そのリスの手当てをしてあげたら、そのリス、それから毎晩、くるみを持って訪ねてくるようになったんです。最近は一緒にくるみを食べながらライブ配信を観たり、読書をするのに付き合ってくれたりもするんです。」
テレサ「へぇー、相手がリスなら、もし恋愛相談とかしても、秘密が漏れなくていいわね」
優也「ぎくっ!でも、意味も分かってないと思いますから確かに安心ですよね。」
テレサ「うふふ、かわいいわね。」
優也「はい、とっても。でも、昨日はかわいそうな事をしました。僕が池に水を汲みに行った時、うっかり足を滑らせて、池に落ちそうになっちゃったんです。
その時、そのリスが助けてくれようとしたんですが、やっぱり2人して池に落ちちゃいました。」
テレサ「あら、それは大変だったわね。」
2人は笑う。
2人の間では風に吹かれたくるみが揺れて、ころころと心地よい音を立てていた。
(続く)
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