【書籍紹介】シンギュラリティは近い (エッセンス版)
私のような門外漢にも、”シンギュラリティ”という言葉が注釈なしに時々目につくようになりました。日本語訳では「技術的特異点」。なんとなく、AIとかIoTが進化して世界がひっくり返る、そんなことを指してるのだろうと想像はつくのですが、ちゃんと知っておこうと思い本書を手にしました。
本書は2005年に出版された『The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology』のエッセンス版で、同書の翻訳『ポスト・ヒューマン誕生 ~コンピューターが人類の知性を超えるとき』を親本として、2016年に日本オリジナルのコンパクト版として出版されたものです。
著者:レイ・カーツワイル
こちらの経歴から、実績を積み重ねていながら今もなお最先端の科学者であることが理解できます。最高レベルの専門家の一人が、シンギュラリティが訪れると予測しているということです。
シンギュラリティとは何か
本文から引用しました。この一文のあと、より詳しく、概念をはっきりさせる説明が続きます。
2020年代の終わりには、コンピューターの知能が人間の知能と区別がつかなくなるまでになる。機械は光速に近い速さで情報を処理、切換ができるようになる。そして、最後には宇宙全体に我々の知能が宇宙全体を飽和するだろう、と予測しています。
シンギュラリティの側面が詳細に説明されていますので、興味ある方は是非ご一読ください。
テクノロジーの進化
技術の進化は指数関数的に進んでいくことを述べています。進化で得られたより強力な方法が、次の進化に利用されるからです。
ムーアの法則
この予想は、1965年に発表されて、1975年まで予想通りに進みました。さらに1975年以降も維持され有名になりました。
収穫加速の法則
著者の、レイ・カーツワイルが提唱したもので、技術的進化は線形ではなく、指数関数的に進化している、という経験則です。ひとつの発明の次の進化への利用や、複数の技術の相互作用によって、より加速して進化するためです。
コンピューター1000ドルあたりの能力は2000年までに指数関数的に進化しており、2007年IBMが発表したスーパーコンピューター「ブルージーン/P」は1ペタフロップス、すなわち10の15乗cpsの計算速度をもつものとして設計されました。これは人間の脳を模倣するのに必要な10の16乗cpsの10分の1です。2012年は日本の理研が開発した「京」が10の18乗cpsを達成しています。
これをもとにレイ・カーツワイルは2045年にシンギュラリティを迎えると予測しています。
脳
脳のコンピューティング能力
脳をコンピュータの置き換えて、推算するとどれくらいの処理能力があるのでしょうか。脳全体の処理能力はわかっていませんが、脳のリバースエンジニアリング、即ち、脳の内部を観察し、モデル化し、各領域をシミュレートすることによって、部分から全体を推定する試みは可能です。
ロボットの研究者であるハンス・モラヴェックらによると、脳は毎秒約1億回も瞬時に輪郭の動きを検出していると考えられています。そのため、脳全体のコンピュータ命令は毎秒約100兆回(10の14乗)と推定されています。
また、オーディエンス社の創業者であるロイド・ワッツらは、聴覚系の領域をシミュレートした結果、約100兆回(10の14乗)という推定を報告しています。
さらに、テキサス大学でも報告されていて、小脳の領域での機能から、約1000兆回(10の15乗)という推定値を発表しています。
これらの報告はおおよそ脳全体のコンピューティング量として毎秒10の14乗から15乗と考えられますが、脳のリバースエンジニアリングがまだ初期段階だったことを鑑み、本書では10の16乗を脳のコンピューティング量として扱っていくことしました。
知能のソフトウェアを実現する
技術的に、すでに脳のコンピューティング量は、十分実現できます(すでにできている)。では、知能のソフトウェアは実現可能なのでしょうか
脳の回路はとても遅い
それでも脳は超並列処理ができる
脳はアナログとデジタルの現象を併用する
脳は自身で配線しなおす
脳の細部はほとんどランダムだ
脳は創発的な特性を用いる
脳は不完全である
我々は矛盾している
脳は進化を利用する
パターンが大切だ
脳はホログラフィ的だ
脳は深く絡み合っている
脳には各領域をまとめるアーキテクチャがある
脳の各領域の設計は、ニューロンの設計より単純だ
上記を踏まえると複雑に見えますが、一見複雑に見えるコンピュータのOSであっても、いかくつかの方程式で記述できることを考えると、脳にも同様なことが言えると、著者は述べています。
未開拓な分野のリバースエンジニアリングはナノテクノロジー(ナノボット)によって解決の糸口が見つかっています。また、脳と機械の接続はすでに試みられ、一部は利用の段階に進んでいます。
脳をアップロードする
著者は、控えめに見積もって、2030年代の終わりには脳をアップロードできるだろうと推定しました。2030年には脳を内側からスキャンするナノボットが完成しており、アップロードに必要な周辺技術は完成しています。その後改良を経て、アップロードが完成するのが2030年の終わりごろと見積もりました。
アップロードが本当に完成したのか、それを確かめるのが重要な課題です。アップロードされたあなたは、本当にあなたなのか、これをどう確かめるのか、また、オリジナルの人間はまだいるはずなのだから、この問題をどう考えるのか、このことについては後述されます。
人体
これまでも関節や歯の人工化は実現しています。現代では、肝臓、心臓などの各器官の人工化が研究され実現しようとしています。著者はこれらは2030年代初頭には実現され、器官のほとんどは人工的なものに置き換わっているろうと推論します。これを人体バージョン2.0と名付けています。この時点で残っているのは、骨格、皮膚、生殖器、感覚器、口、食道上部、そして脳です。また並行して、ナノボットの技術は進み、人は脳内部からのコントロールによって、現実世界にもVR(仮想現実)にも存在できるようになります。
2030年代から40年代にかけて、バージョン2.0から3.0に進む方向には様々な進化のバリエーションが競合しますが、著者は、人体の可塑性が高まることを予想のひとつとして挙げています。
ここから先、仮想世界に生きる事でどんなことが起きるのか。人体が非生物的になっていくことで何が可能になるのか。これらが融合することで、何が起きて、どんな問題が起きるのか、これは是非読んでみてください。
シンギュラリティは訪れるのか
著者、レイ・カーツワイルは2045年にシンギュラリティが訪れると推測ししています。脳のアップロードが可能となり、人体のほとんどは非生物的器官で構成されています。知能は、一つの基板を離れ、別の基板(人体)にインストールできるようになっています。バージョン3.0となって大半が非生物的となった脳は、生物学的な限界に縛られません。
本書のアイデアが構築された2006年から、すでに20年近くが経過しています。人体に関しては、本書が予想したほどには進んではいません。消化システムや栄養、栄養を運ぶ血球成分の研究が進み、技術的に消化器官の人工化ができたとしても、私たちは、健康な胃腸と同時に、食事の楽しみを捨てることはしないのだろうと思います。需要がないのです。
一方で、コンピュータの処理能力に関しては、2006年の想定より早く進んでいて、本書が出版された2016年版では修正、注釈が施されています。
レイ・カーツワイルが2006年に予想したようには進んではいませんが、全体的な進歩は収穫加速の法則に従って進んでいるのかもしれません。シンギュラリティに到達する可能性があるのならば、その影響の大きさを考慮し、リスクを洗い出して議論するこは、大きな価値があるでしょう。
私はシンギュラリティには到達しないと、予測します。
何故か、
これは本書の最後で検討されていましたが、「意識」の問題が解決しないからです。現在でも、意識の実在を決定的に裏付ける、客観的な方法は存在していません。主観、意識をどう扱っていくかが解決できないんじゃないかと思っています。
健康な胃腸を、永遠の人工物に交換したがらないように、主観を明け渡すという行為は選択しないんじゃないかなと思います。
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