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コメダ珈琲店

38歳にして、先日人生で初めて1人で入ったカフェはカフェ界の大衆食堂、コメダ珈琲店だった。
外食に関して、大人数が苦手な上に一人も苦手だ。休みの日にふと外食をしたくなったときには、マクドナルドをドライブスルーで購入後、神社の静かな薄暗い駐車場で食べるのが好き。
けれどもこの日、私はひとつ成長したい気分だったのだ。

これが大人なのだなぁ。
そんな気持ちになりながら、一人席につく。
悩み抜いたすえ、ミートソーススパゲティとアイスオーレを注文して、あ、おこさまみたいだ、と少し恥ずかしくなったけどそんなこと気にしているのはこの店で私ただ一人。
アイスオーレを注文した時に聞いてくれる、「あまみはいかがなさいますか。」が、好きだ。「あまみ」はシロップよりもやわらかくて優しい甘さのような気がする。

直前に図書館で借りてきた本を読む。邪魔にならないBGM。隣近所の話し声も包み込んで遠くへ持ち去ってくれるようで、集中力のない私が50ページを一気に読んだ。
カフェで一人、読書。こりゃあ大人だ。

食べ物を皿や口へ運ぶのがどうも苦手で、鍋や焼き肉なんかのときは、私の周りだけ何かしら飛び散っている。
一人で食べる時は注意してくれる人も突っ込んでくれる人もいないわけでやけに緊張した。山盛りのキャベツの千切りはパラパラとテーブルに落ちるし、クシ型に切られたトマトはやたら大きくて、口を大きく開けてねじ込み、もんごもんごと噛む。大丈夫。誰も見ていない。頭の先が見えるか見えないかぐらいの、背の高いついたてがとてもいい。
赤い食べ物は必ず服に思い出をのこすけれど、この日は慎重に慎重にフォークで巻き取った。
ミートソースで口元はほんのりオレンジ色になっているのは鏡を見なくなたって想像できるので、ぬぐう。コメダのタオルのお手ふきは白じゃないのがいい。どこまでも優しいお店だ。
なんとか無事に食べ終わり、ほっとする。本を読みながら、アイスオーレの最後の氷をガリガリと噛み砕く。知覚過敏の歯にズキーンとくる刺激だけが、けっこうな大人であることをしっかりと証明してくれた。



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