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オロナミンCと黒棒とカツオのたたき

幼い頃、母方の祖母の家へ遊びに行くと、必ずオロナミンCとヤクルトとおやつが出てきた。
おやつはみかんだったり、リンゴだったり、ぶどうだったり、あまり好きじゃない甘ったるい羊羹みたいなゼリーだったり、最中だったり。
ちなみに、なのか、やっぱり、なのか、糖尿家系で、酒飲みだった祖父は私が生まれる前に亡くなった。祖父の記憶はないけれど、私もお酒が好きだし血糖値は下がりやすい。同じ血が流れているのだなあと思う。

祖母は数年前に亡くなった。
たまに会う程度で、おばあちゃーん!大好きー!っという距離感でもなく、少し緊張して、いつも敬語で、今考えると可愛げのない孫だったように思う。
けれどそんな私にも、ばあちゃんはいつもニコニコしていてかわいくて心配性で優しい人だった。
 
先日、夫と娘が親戚の家からオロナミンCをもらって帰ってきた。
オロナミンCを見ると、祖母のことを久しぶりに思い出した。本当に久しぶりすぎて、申し訳なかったけれど、なんか、いいなあと思った。
何かを見て、誰かを思い出せるっていいなあ。


父方の祖父の場合、「黒棒名門」という名のお菓子だ。黒棒を見ると、熱いお茶と一緒に美味しそうにお菓子を食べる祖父を思い出す。
雷おこしは、お茶に沈めて柔らかくして食べていたなあ。ミカンやスルメをストーブで焼いてたなあ。

もう一人の祖母はなんだろう。
買い物もよく一緒に行って、おしゃべりもたくさんして、気が合って、仲良しだった祖母の好きなもの。
納豆、お豆腐、お刺身、梅干し、オクラ。
長年肝臓病と闘っていた祖母は目立った偏食もなく、これぞ!というものが浮かばない。

ああ、カツオのたたきだ。
カツオのたたきを見ると祖母を思い出す。
祖母の作ったカツオのたたきを乗せたちらし寿司がどうしても食べれなくて、残してしまった記憶。
丁寧に生きている祖母は、料理も丁寧で、カツオのたたきを乗せたちらし寿司もきれいなものだった。
「美味しいよ、食べてごらん。」
と、出された料理を食べられなかった罪悪感は、小学生か中学生だった私にとって大きくて、記憶に深く刻まれることとなる。
しかし今、カツオのたたきを見て思い出されるのは、あの時の切ない気持ちよりも、祖母の優しい笑顔と丁寧な暮らしだ。


体に入るものは、強い思い出として残るのだな。
私もいつか、誰かの記憶の断片に残るような何かがあれば嬉しいなと思いながら、今日も料理を作り、大好きなお菓子やお酒を美味しくいただくとしよう。
いや、少し控えなくっちゃなあ。

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