インセンティブ報酬の実務 Q&A ― 有償ストックオプション⑤―

ー 当該記事の目的 -
 有償ストックオプションの概要を理解する。その5。

Q13:上場会社では、どの様なスケジュールで有償ストックオプションを発行すれば良いでしょうか。

ーAnswerー
上場会社では、次のスケジュール表を参考にしてください。
エクセルも添付致します。


Q14:有償ストックオプションを発行する際に、会社法上必要な手続きはどの様なものがありますか?

ーAnswerー
会社法上、有償ストックオプションを発行する際に、募集事項(*1)について、取締役会決議及び株主に対する募集事項の公告又は臨時報告書の提出が必要になります。
(*1)有償ストックオプションの内容

■取締役会決議
上場会社が有償ストックオプションを発行する際には、募集事項について、取締役決議を要する(会社法 238条、240条1項)。非上場会社が有償ストックオプションを発行する際には、株主総会特別決議を要する(会社法238条2項、309条2項6号)。
なお、会社法238条が規定する募集事項は下記の通りである。
 
一 募集新株予約権の内容及び数
二 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
三 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)又はその算定方法
四 募集新株予約権を割り当てる日(以下この節において「割当日」という。)
五 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
六 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合には、第六百七十六条各号に掲げる事項
七 前号に規定する場合において、同号の新株予約権付社債に付された募集新株予約権についての第百十八条第一項、第百七十九条第二項、第七百七十七条第一項、第七百八十七条第一項又は第八百八条第一項の規定による請求の方法につき別段の定めをするときは、その定め

■募集事項の公告(会社法240条3項・4項)
 有償ストックオプションの募集事項に関する取締役会決議を経た後、割当日の2週間前までに、株主に対する募集事項の公告が必要となる。公告を行うのは、有償ストックオプションは取締役会決議のみで発行できるため、株主にその内容について、異議を申し立てる機会を与えるためである。また、割当日の2週間前までに臨時報告書を提出している場合は、募集事項の公告を省略して良い。これは、株主に公告を行わなくても、株主が臨時報告書を見れば、異議申し立ての機会を得られるためである。

■具体的な取締役会決議
取締役会での具体的な決議事項は、「募集事項決定決議」「割当契約締結決議」「利益相反取引決議」「割当決議」である。

募集事項決定決議:上述の7項目
割当契約締結決議:割当契約書の内容の決議
利益相反取引決議:役員が有償SOを取得する場合、会社の利益を犠牲にして、役員の利益を図る事となる可能性があるため(Q8参照)、利益相反取引について承認が必要です。(会社法356条1項2号)
割当決議:有償ストックオプションを付与するもの、数を決定する。なお、付与する有償ストックオプションの数は、募集事項に定めた数以下にしてもよい。

■割当契約書の作成
割当契約書には、有償ストックオプションの数、割当日、発行価額、業績条件、権利行使期間、取得条項等々の有償新株予約権の内容が記載される。
業績条件などの条件は、取締役会決議にかけず(募集事項には入れず)、割当契約のみに規定する実務もある。これは、業績条件等の行使条件は、新株予約権の内容(会社法236条)に列挙されていない項目であるため、会社法上の新株予約権の内容として取り扱わず、割当契約だけで業績条件等を規定する事ができるためである。
なお、割当契約を締結した場合は、上述の記載スケジュール表の「募集事項の通知」「申込書の受領」「割当通知書の交付」は不要と解されている。

ーPOINTー
①募集事項の公告は、臨時報告書を提出している場合、省略できる。
②業績条件は、会社法上の新株予約権の内容に該当しないため、割当契約のみに規定しておくことができる。

Q15有償ストックオプションを発行する際に、金商法上必要な手続きはどの様なものがありますか?

ーAnswerー
金融商品取引法に基づき、臨時報告書、有価証券届出書、有価証券通知書のいずれかを金融庁(関東財務局等)に提出する必要があります。

■ 臨時報告書、有価証券届出書、有価証券通知書
 臨時報告書とは、金融商品取引法で規定されている会社の重要事項が決定または発生した場合に作成する企業内容の外部への開示資料である(金商法 第24条の5)。
 有償ストックオプションを発行する際に、臨時報告書を作成する場合、有償ストックオプションの発行要項を転記する位の作業量で済む。

■有価証券届出書
 有価証券届出書とは、有価証券の募集や売出しを行う場合などに、その発行会社が内閣総理大臣に宛てて提出する開示資料のことである。当該有価証券の発行者の営業および経理の状況その他の事業の内容に関する重要事項及び当該有価証券の発行条件などが記載されている。
 臨時報告書と比べ、かなり充実した報告内容であり、会計監査人の監査を受けなければいけない書面であるため、監査対応に時間を要する。

■ 有価証券通知書
 株式・社債などの有価証券の募集・売り出しを行う際、発行総額が1千万円以上1億円未満の場合に、発行者が財務局(関財等)を通じて内閣総理大臣に提出する書類。有価証券の条件や企業の概要などを記載するが、一般には開示されない。
 有価証券通知書は、臨時報告書・有価証券届出書の作成より、簡易な内容を記載した書面である。

■提出書類判定フローチャート

(*1)付与対象者規制:発行会社・子会社・孫会社の取締役・会計参与・監査役・執行役及び使用人のみに付与しますか?
   ⇒根拠法(金商法第4条1項1号、金商法施行令第2条の12、開示府令第2条2項1号・2号)
(*2)根拠法:金商法第4条1項5号、開示府令第2条4項
(*3)根拠法:金商法第24条5項4号、開示府令第19条2項2の2、2条4項2号)
(*4) 50名未満の勧誘であっても6月間の通算により50名以上となる場合には、有価証券届出書の提出が必要(金商法施行令1条の6)。
(*5)根拠法:金商法第4条6項、開示府令4条5項

ーPOINTー
 上記、注釈に記載しているが、50人未満の勧誘であっても6ヶ月間の通算により50名以上となる場合には、「有価証券届出書」の提出が必要である。
また、1億円未満の有償ストックオプションであっても、1年間の通算により1億円以上となる場合には、「有価証券届出書」の提出が必要である。

Q16:有償ストックオプションを発行する際に、証券取引所に対し必要な手続きは何ですか?

ーAnswerー
有償ストックオプションを発行する際に、証券取引所に適時開示(IR情報開示)を行う必要があります。一般的に適時開示は、取締役会決議の後と有償ストックオプション発行内容確定時に適時開示を行います。

■適時開示に記載する内容(上場規程 第402条第1号)
・ストックオプションとして新株予約権を発行する理由
・新株予約権の発行要領
・その他投資者が会社情報を適切に理解・判断するために必要な事項
・支配株主との取引等に関する事項
 
有償ストックオプション発行内容確定時に、適時開示が必要な理由は、取締役会決議時には、付与対象者・有償ストックオプションの個数・払込額等が確定していないためである。発行内容確定時には、取締役会決議時には、未定となっていた事項を開示する。

■適時開示と軽微基準
 証券取引所は、上場規程等に、適時開示すべき事項を定めています。適時開示として開示すべき事項に該当しても、金額的に重要でない場合には、適時開示が求められません(取引規制府令 49 条1項1号)。しかし、有償ストックオプションに関しては、その質的重要性から、金額的に重要性が無くても適時開示が求められます。

■ストックオプションに関するその他の適時開示例
・役員が保有するストックオプションを第三者に売却する。
・有償ストックオプションの割当中止。
・新株予約権の月間行使状況に関するお知らせ。 他

■証券取引所による、適時開示等のチェック
 会社が作成した、適時開示は証券取引所のチェックを受けた上で、開示されます。よって、適時開示が必要になる時には、適時開示予定日の約10日前から、証券取引所と連絡を取り合い、適時開示の内容・開示予定時期・開示内容ドラフトを調整し、適時開示予定日にスムーズに開示を行える様にする必要があります。

ーPOINTー
①有償ストックオプションは、軽微基準に該当しないため、必ず適時開示が必要である。
②適時開示の内容は、証券取引所のチェックが必要であるため、適時開示予定日の約10日前から余裕を持って準備する事が望ましい。

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